【参考情報】新幹線内刺殺事件 あなたならどうする?

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お断り:今回の記事は「つぶやき」です。タイトルは問いかけになっていますが、「正解」はありません。私自身も迷っているその心の中をお伝えしたいと思います。勇敢に犯人に立ち向かわれた結果、お亡くなりになった方には敬意を抱いており、また心よりお悔やみ申し上げたいと思います。

目の前で刃物を持った人物が暴れていたら

海外ではなく、日本国内で大変残念な事件が発生してしまいました。
先週9日、新幹線の車内で男が刃物をもって暴れだし、隣に座っていた女性や他の乗客は避難。止めに入った30代男性が犯人ともみ合った末に、通路に倒され、めった刺しにされるという悲惨な事件です。

 

犯人は何らかの背景があってお亡くなりになった男性や怪我をされた女性を狙ったというわけではなく「誰でもよかった」と供述しているとのこと。正直こんな事件の発生を防ぐことは不可能です。包丁などどこのスーパーマーケットにも売っています。草刈り用のカマもホームセンターに行けば身分確認など必要なく変えてしまいます。銃が流通していない日本国内でも新幹線の車内やその辺の路上、人の多く集まるイベントで刃物をもって暴れることは難しくありません。

 

ある日突然、目の前で刃物をもった人間が暴れていたらどう行動したらよいのだろうか?そして自分よりも弱そうな人(子供や老人、女性等)がたくさんいる中で、自分はどう行動したらよいのだろうか?大変悩ましい問題です。

 

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「悪者」を圧倒的なパワーで倒せるヒーローはいない

海外での安全管理業務を長く担当してきた身として、テロに巻き込まれた場合、誘拐された場合、銃を用いた強盗(ガンポイント)に直面した場合等、最悪の状況を想定した訓練を受けてきました。こういった時に教え込まれるのは

 

「お前は映画の中のスーパーヒーローではない。相手をぶちのめし、周辺にいる人間全員の命を救おうとせず、まずは自分の命を守れ」

 

という教えです。

テロであれ、襲撃であれ、強盗であれ、巻き込まれた瞬間は相手に主導権があります。相手がどんな武器を持ち、どの程度の体術の持ち主なのか、は瞬時に判別できるものではありません。私の場合、一般の方よりは緊急事態に慣れており、対応方法も体にしみ込んでいますが、用意周到な計画に沿って攻撃を開始した犯人と比較すると最初はどうしても受け身から入らなければなりません。

ひと昔前のスティーブン・セガールやブルース・ウィリス、アーノルド・シュワルツェネッガーなど、映画の世界では一人で「悪者」を制圧してしまうアクションスターがたくさん登場します。テロや襲撃の実行犯を抑え込む、というとついついそうした「ヒーロー」に頼りたくもなりますが、あいにく、あんなことができる人は(軍の特殊部隊出身者でも)いないのです。

 

専門的な訓練を受けている我々でもそうなのですから、一般の方が(映画のような)ヒーローになろうとするのはもっと危険です。ですので、私も実践的な研修訓練はもちろん、一定以上の脅威度の地域に渡航される皆さんには

「皆さんがセガールやブルース・ウィリスになる必要は一切ありません」

とお伝えしてきました。

他方で、自分だけ助かればよいのか、と問われればそれもまた答えに窮する質問です。

 

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できるだけ多くの人を助け、自分も生きるためにはどうするか。(正解なし)

 

今回お亡くなりになった方の行動として、犯人の隣に座っていた女性が切り付けられ、それを後ろの席から止めに入ったとのこと。女性が刃物を持った男に襲われているシーンを見て助けに入らず、ただ見ている、もしくは逃げるというのは倫理的に選択できないでしょう。止めに入る、犯人を抑えにかかる、この行動そのものは間違いなく素晴らしい行動です。個人的に、心から敬意を禁じえません。

また、今回の犯人は誰でもいいので、人を殺したい、という意図を持っていたことは間違いないように思います。某テレビ局が報じたように男性が犯人を制止しようとしたことで、犯人が刺激され、殺人を犯したとも思えません。

ですので、犠牲になった男性の行動そのものに否があった、とはどうしても思えないのです。

 

しかしながら、安全管理を生業とし、一人でも多くの命を救うことをミッションに掲げている人間として、お亡くなりになった男性が助かる方法はなかったのだろうか?とも考えてしまいます。自分自身の命は守りつつ、襲われている方も助け出す。そして犯人の制圧はプロである警察や職務上責任を負っている鉄道関係者に任せる、ということができなかったか・・・。

 

事件から一週間が経過していますが、いまだに私自身の考えもうまくまとめられません。安全対策を職業とする人間として今回お亡くなりになった男性のご冥福を心からお祈りしながら、どうにか助かる方法見つけるために、考え続けなければと感じています。