【事案分析】フィリピンミンダナオ島の村祭り会場爆発事案

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トップ画像は爆発現場を取り調べるフィリピン治安当局(worldbulletin HPより)

 

事案の概要

〇8月28日(火)夜、フィリピン国内ミンダナオ島のイスランにて村の発足記念日を祝うお祭り中、爆発が発生

〇報道によれば一般人2名が死亡し、37名が負傷した

〇実行犯は2名もしくはそれ以上存在すると思われ、目撃者の話によると実行犯ら不審に思われないよう爆発物が入っていたと思われるリュックサックから果物を取り出し、周囲に配っていたとのこと

〇治安当局による初期捜査によれば、村落のお祭りを警備する警察車両が通過した際に爆発が発生しており、治安当局者を狙ったとの指摘がある

〇被害が発生した爆発物以外に二つの爆発物が発見されたが、爆発する前に処理されている

〇事件後にISIS東アジア支部が犯行声明を発表

〇一部治安当局者からはISISとつながりのある過激派グループ「バンサモロイスラム自由戦士」による犯行の可能性が高いと指摘している

〇長くフィリピン政府に対して抵抗してきたイスラム教系ゲリラ組織の一つ、モロイスラム解放戦線(MILF)の幹部は本事件を批判しつつ、実行したのはISISに関連がある組織ではないか、との見方を示している

 

〇なお、事件現場から約150キロ北方のマラウィでは昨年10月までISISに忠誠を誓っていた地元武装グループ(アブサヤフグループ)と治安当局の間で5か月以上にわたり「戦闘」が行われていた

〇本年7月、事件があったミンダナオ島に隣接するバシラン島で、モロッコ人戦闘員が軍検問所付近で自爆し、10名が死亡するテロが発生していた

 

 

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簡易な分析コメント

本件は現地村祭りのため、大勢の人が集まることが分かっていた日、場所を狙い、一定の計画に基づいて実行した小規模なテロ事案です。報道によれば、現地治安当局による警備隊を標的とした、との情報もありますが、正確な目標ははっきりしません。

 

また、爆発現場の写真や人が集まっていた場所での爆発に比して少ない死亡者(2名)を踏まえれば、威力の強い爆薬が用いられたとは思えず、高度な訓練を受けた実行犯によるもの、とも思えません。事実、標的とされる現地治安当局関係者の被害は負傷者2名のみとの情報があります。

これらを踏まえれば、本事案そのものは、小規模のテロであり、実行犯グループが掲げる目標を完全に達成しているかと問われれば、疑問が残ります。ただし、事件現場周辺に(昨年10月、ミンダナオ島北部マラウィにてフィリピン軍が掃討を完了したとされる)アブサヤフグループの残党、もしくはそれ以外にも反政府活動を行うことができる勢力がいることは明確になりました。また、村祭りという祝祭の場を狙って事件を起こすことで、

・住民の間に不安を惹起すること、

・治安当局が十分に過激派の行動をコントロールできていない、

という点を印象付けることは一定程度成功していると言えます。

 

なお、本事件はフィリピンのドゥテルテ大統領がミンダナオ島でのISIS関連勢力を抑え込み、治安の回復を実現すべき関係者と面談した直後に発生しています。この事件を踏まえて、ドゥテルテ大統領がさらに強行な過激派(と疑われる人々)への捜査、摘発が行われる可能性が否定できません。ミンダナオ島中心地であるダバオ市長はドゥテルテ大統領の判断で同島の戒厳令は延長されると発言しています。

もしミンダナオ島各地で、治安当局による捜査、摘発が強権的に行われた場合は、治安当局と武装勢力(必ずしもテロを実行する意図をもったグループだけでなく、麻薬密売組織等も含む)の間で思いがけず銃撃戦などが発生することも想定されます。