安全対策担当に向く人向かない人

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安全対策担当という仕事の性質

新型コロナウイルス感染症の拡大が継続する中、各企業・団体の中で危機管理担当や安全管理担当の重要性が再認識されているのではないでしょうか?感染症そのものへの対策は産業医や顧問医師などに相談されていると思いますが、海外から関係者を退避させたり、移動が著しく制限されている中現地駐在を継続したりという判断はお医者さんではなく企業の経営判断です。そしてその判断の要となるのが、関係者の命を守れるかどうか、つまり危機管理や安全対策を担当する部門の情報収集と分析です。

 

当HPでは繰り返し、海外に進出した企業には安全対策を担当する部門・担当者を自社内に配置すべきです、とお伝えしてきています。ただ、当然のことながら

 

・とりあえず肩書だけつけておこう

・よくわかってないけど、担当者は指名しよう

・セキュリティ会社との連絡役だけやってもらおう

 

というのはあまり意味がありません。皆様の海外での事業現場の治安情勢を自力である程度は調べられる人、緊急事態が発生した場合には経営層とも連携しながらセキュリティ会社の協力を得ながら事態を解決させることができる人、が配置されることが理想です。

 

しかしながら、実際にはこうした素養を持った人、何らかの経験を有する人が安全対策担当として指名されている企業はごく稀です。そもそも安全対策担当が明確になっていない企業のほうが多いかもしれません。比較的規模の小さい企業ではなおさら。

 

そこで、一度原点に返って安全対策担当の役割を担う人が具体的にどのような業務を行っているのか、改めて考えてみましょう。

 

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安全対策業務は派手な評価とは無縁

海外での安全対策を担当するということはどういうことでしょうか?大前提となるのは、安全対策は何も非常事態が起こった後に行うものではないということです。非常事態が発生し、関係者が死傷してから対応を始めいては手遅れもいいところですよね。

 

ですので、安全対策担当を担う人の最大の役割は自社の関係者に対し、「何も起こらない」ことを守ることが最大のミッションということになります。いわば大規模停電を起こさないように電力網を守る電力会社、事故や欠航がないように電車や航空機を動かす交通機関にも似ています。

 

こうした仕事は得てして、爆発的に評価が上がる目立つ成果はありません。特別なことは「何もおこらない」が理想的な状態ですので野球選手でいう「逆転満塁ホームラン」や企業活動でいうところの「画期的な新製品開発」「超大型M&A」には無縁なのです。

 

ただ、唯一目立つ時があるとすれば、それは「何も起こらない」状態が維持できなくなった時。つまり事故が発生してしまった時です。この時は大規模停電が起こってしまった電力会社や長時間電車が動かなくなった時の電鉄会社同様、批判が集中します。(そういう会社のみなさんは日ごろお礼を言われることなどほとんどないのですが・・・)

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そう、安全対策に関する業務はまさに

・評価には天井がある

・「当たり前」が維持できない場合、無制限の批判を受ける可能性がある

という性質を有しているのです。

 

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安全対策担当に向く人向かない人

生活インフラを担当する企業と安全対策の業務は性質が似ているとお伝えしました。しかしながら、海外での安全対策だけはちょっと違う、という点、それも担当者個人にとって深刻な話もあります。それは安全対策を担当することが精神的に耐えられない人もいる、という事実。代表の尾崎によれば、

 

「安全対策に関する情報はほぼ100%聞いて楽しい情報ではない。

むしろあちらで◎人死亡、こちらで▲人死亡・・・等

 

人が傷ついた、

物が破壊された、

大勢の人が行き場を失っている、

というニュースがほとんど。

情報収集術や緊急時の対応は教えることはできるが、

こういうニュースを連日浴びせられても精神的に受け流せるかどうか、

こればっかりはその人の過去の経験や死生観がすべて。

耐えろ、勉強しろ、実力を磨け、と言われてできるものではないので、

安全対策担当者になれるかどうか、ここが一番大きい。」

 

とのこと。

 

確かに社会人としてのマナー、わかりやすい文書の書き方、プレゼンの巧みさ、営業技術、もしくはチーム全体のマネジメント能力などはたとえ向き不向きがあったとしても、努力すれば経験と共に成長しそうです。そしてよほどのハラスメントがなければ特定の業務に向かないからといって精神的に追い詰められることもないように思います。

 

ただ、毎日人が死ぬニュースを追いかける、人間同士の殺し合いのニュースを集めてくる、というのは向き不向き以前に精神的に受け入れられない方がいらっしゃっても不思議ではありませんね。

 

派手な評価は得られない上に気が滅入るようなニュースも多く聞かなければならない。安全対策に関する業務はそんな性質を帯びています。もし皆様の企業で新たに安全対策を担当される方を指名するなら・・・。ネガティブなニュースを毎日聞いて耐えられない方は早めにその職を解いてあげてください。

仲間の安全を守るために必要な情報収集を無理に行い、そのせいで精神的ストレスによる被害が出てしまっては本末転倒です。どうか、能力の問題ではなく、そもそも安全対策に向かない人もいるのだ、ということを理解いただいた上で社内の安全対策体制を築かれますようお願い申し上げます。

 

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しばしば、テロ現場の写真等をしっかりと見なければならないのも精神的な負担要素(爆弾で破壊された防弾車はまだしも、死体が映り込んだ写真もたくさんあります)

この項終わり