【参考情報】麻薬の運び屋役を直前で回避した事例

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邦人男性の危機回避事例

時事通信によれば、2018年12月10日、タイから使って麻薬を輸出しようと日本人男性に運び屋役をやらせようとした罪で、イラン人が逮捕されたとのこと。報道に基づくとこの日本人男性は「旅行記を書けば旅行代が無料になる」というモニター旅行に応募し、タイからフランクフルトへの荷物預かりを要求されたとのこと。

渡されたスーツケースを不審に思い中身を確認したところ、麻薬をしみ込ませた衣服が入っており、日本大使館に相談したことから、犯人逮捕に至ったようです。

   

現時点では本件について日本政府外務省や在タイ日本国大使館から何らかのコメントや滞在中の日本人に対する追加的な注意喚起(スポット情報)などは発せられていません。ただし、日本語メディアとの関係性の薄いサウスチャイナモーニングポストなども英文で同じ事件を報じており、事件の発生やタイ警察によるイラン人逮捕は事実であろうと考えられます。

 

本件、場合によってはかなり危険な事件ではありますが、巻き込まれた男性は文字通り土壇場で危機を回避しました。命を危険に晒すこともなく、相談先も日本大使館という唯一絶対の正解を選ばれています(もし最初にタイ警察に相談した場合、逮捕されていた可能性もありましたがサウスチャイナモーニングポストの記事によるとこの男性は無実とされています)。

   

我々は詐欺のような特殊犯罪の専門家ではありませんが、海外で日本人が自分の身を守るために重要な話が含まれていますので、簡単ではありますがコラムの題材として取り上げたいと思います。

 

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「おいしい話=詐欺/違法に直結」とも言い切れない時代

本事案のそもそもの発端は男性が

「SNSに旅行記を書けばタイまでの旅行費用を無料にする」

という話に乗った(英文報道では「travel freebies to lure」=無料の旅行という餌につられたと表現されています)ことでした。

     

一部インターネットのニュース記事掲示板などでは

 

「甘い話につられるからいけない」

 

といった男性を批判するようなコメントも散見されますが、SNSが発達し、口コミマーケティングも盛んな現状、旅行記を書く代わりに旅行代金は無料、という合法の事業活動があっても不自然ではないように思います。

 

 

実際に、手元で「無料 口コミレポート」で検索したところ簡単に以下のようなサイトがたくさん見つかりました。(以下サイトは本事案とは一切無関係です。今回タイで発生した事案は薬物運搬役の募集窓口という違法活動に用いられていましたが、以下サイトがそういった違法活動に関与している疑いは一切ございません。勘違いなさらないようご理解ください)

 

合法的な「モニター」の募集例

 

こうしたHPがいくつもあるのであれば、旅行代金が無料になるモニターを募集することもあり得るのかもしれません。少なくともごくごく平均的な感覚からするとお取り寄せモニターは大丈夫だけど、旅行モニターは危ない、と判断する根拠はないように感じました。

当サイトは詐欺などは専門外ですので、もしかしたら「怪しい」サイトとそうでないサイトを見破る秘訣があるのかもしれません。今回の場合は旅行が無料になる上、さらに報酬が支払われるという案内だったので、この点はもしかしたら怪しかったのでしょうか?

 

ただ、大半の日本人からすればそういった秘訣は承知していないはず。そうであれば、旅行モニターへの応募そのもので男性を責めるのはちょっと難しいのではないかと思います。

 

 
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「正体不明の荷物は絶対に預からない」という危機管理

 

お取り寄せモニターと似たようなものだと思い込んで無料の旅行モニターに応募した男性。実際にホームページの指示通りでしょうか、日本国内で航空券の代金を含む約40万円(この金額もタイへの旅行費用として「高すぎる」わけではないのでますます見破りづらいように感じます)を受け取りタイの首都バンコクの宿泊先に入りました。

 

その宿泊先に現れたイラン人が日本人男性にスーツケースを預け、フランクフルトへ運ぶように依頼したとのこと。その中身というのはご存知の通り薬物をしみ込ませた衣服でした。事件を未然に防ぐのであればこの時点で断ればよかったのですが、今回は中身のわからない荷物を、誰かわらかない人物から預かってしまいました。

     

この状況は実は非常にまずいのです。なぜなら、タイでは薬物所持が厳しく取り締まられるためです。日本政府外務省の注意喚起から関連の記載を抜粋してみましょう。「最高刑は死刑」「長期間にわたり受刑中の日本人もいます」という生々しい記載があります。

旅行先、出張先、留学先の法律が日本の法律と大きく異なるということもあります。ほとんどの方は法律家ではないので、細かく現地法制度を調べる必要はありません。ただ、日本では問題ない行動でも、現地の法律上死刑もしくは長期の懲役につながる、といった法律違反を犯さないよう最低限の知識を身に着けておくことは大切です。

 
日本政府外務省が一般公開しているタイ滞在時の留意事項
   

荷物を預かってしまった男性はこの記述を見ていたのかもしれません。「他人から荷物を預かったりすることのないように」、また「弁解は通用せず」という日本政府外務省の記載もあり、タイの警察ではなく日本政府の現地組織である大使館に相談したのは最善の対応でした。自国民が無実であろうと思われる際には日本政府大使館は邦人保護を最優先します。

 

 

   

ここからは当HPの想像ですが、結果的に日本大使館を通じてタイ政府・タイ警察にも経緯を説明したものと思われます。旅行モニター募集のHPや宿泊先に現れたイラン人男性の情報などすべて男性が提供して確認がとれたのでしょう。この男性を保護し、違法な薬物をタイ政府に提供、密輸組織の一員と思われるイラン人の情報も提供したことで日本人男性の無実も証明できたのではないかと想像しています。(ただし最初にお伝えしたように日本政府から公式の情報発信はありませんので情報の正確性は保証できません)

   

極めてよくできた「甘い話」に乗ってしまい、かつ素性のわからない人物から正体不明の荷物を預かってしまうという状況に陥った男性。ただ、最後の最後で見事な危機管理能力を発揮し、何事もなく一件落着しました。本当に何よりです。

 

 

もし、反省点を挙げるとするならやはり

「素性のわからない人物から正体不明の荷物を預からない」

の一点に尽きるでしょう。日本政府外務省のアドバイスにもありますが、どんな言い訳をしても外国政府には通用しないことがあり得ます。しかも現地の法律で最悪死刑になる、と規定されていればそれには逆らえないのです。

 

海外でご自身に迫る危険はテロや強盗、スリ・置き引きなどの一般犯罪だけではありません。現地の法律違反で死刑、長期間の懲役を科されることも大きな危険の一つ。

 

何食わぬ顔をして荷物やバッグを預けるような人は絶対に信用しない。万が一預かってしまった場合は何をおいても日本大使館の邦人保護担当(領事部、領事班、領事警備班等)に相談してください。

今回の事案を踏まえて「怪しい荷物の預かりを拒否する」日本人の方が増えることを願っています。

 

     

この項終わり