2019年版報告書の概要
まず目につくのは、世界全体でのテロの死者数は過去最悪だった2014年と比べると52%減少しているという報告です。また、2018年版と比較してインデックスが改善した国が98か国、悪化した国が40か国と記載されており、世界全体でみると、テロの被害状況はやや改善傾向にあることが読み取れます。
ただし、テロの被害者数が減少した大きな要因はイラクでの治安の改善(2017年の死者数4200人超から2018年の死者数1000人強)となっています。欧州でもテロによる死者数は減少していますが、世界の大部分でテロのリスクが下がったと判断するのは時期尚早かつ危険な行為です。その証拠と言えるのはこの1年で1人以上の死者が出たテロ被害を受けた国が71か国に上るという記載です。これは2002年にインデックスが発表され始めて以来過去2番目の高水準(過去最悪だったのは2016年の79か国)であり、世界各地でテロによる死者が発生していることすなわち皆さんもテロの巻き添えと無縁ではないことを示唆しています。なお死者を伴わないテロも含めると2018年にテロが発生した国は103ヶ国、世界の過半数の国でテロが発生しているとされています。
西ヨーロッパではテロによる死者数は減少したものの、テロ発生件数は増加しているとされています。また、死者数そのものは少ないですが、極右的主張を唱える過激派によるテロが増えていることも明記されています。
2018年版の報告書で興味深いのは、テロの実施主体別死者数分析です。上のグラフからも読み取れるように、イラクやシリアで「領土」を失い、2019年には最高司令官とされるバグダディが殺害されたISILによるテロは退潮傾向が鮮明となりました。(参考:通称「イスラム国」(ISILもしくはISIS)の「建国宣言」は2014年6月、バグダディの殺害発表は2019年10月27日でした)
また、軍事的な掃討作戦によりナイジェリア等で活動するボコハラムによる死者も抑制が続いています。他方で、アフガニスタンにおけるタリバンやISILホラーサン支部による死者数は増加傾向です。こうしたテロ実行主体別の死者数の傾向からもイラクやナイジェリアでの死者数減少とアフガニスタンでの死者数増加という統計数値でも確認できます。
ご参考までに2019年版インデックス上位10か国は次のとおりです。
1位 アフガニスタン
2位 イラク
3位 ナイジェリア
4位 シリア
5位 パキスタン
6位 ソマリア
7位 インド
8位 イエメン
9位 フィリピン
10位 コンゴ民主共和国
【次ページでは・・・今回の報告書を踏まえ、テロ増加、深刻化に注意すべきと考える国をご紹介します】