フェイクニュースに惑わされるな

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アフガニスタン情勢にまつわるファクトチェック

8月15日以降、アフガニスタン情勢が大きく動いています。アフガニスタンから遠く離れ、紛争による直接的な影響がほぼないといっていい日本の皆様も関心をお持ちいただいている様子。代表の尾崎がリソースパーソンとして2018年から記事を提供しているQuoraでもアフガニスタン関連のご質問を多くいただいています。

 

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尾崎が回答した上記の記事は何と8月20日の一日で10万回もの閲覧があり、その関心の高さに我々はもちろんのこと、Quoraの本社があるカリフォルニア州シリコンバレーの日本語版総責任者も驚かれていました

 

本日にはカブール空港周辺で最後まで残っていた米軍関係者も完全に撤退が実現。タリバン勢力との合意事項の一つであった「2021年までの外国軍の完全撤退」が本当に達成されました。今後現地に残っている外国人や、これまで外国人関係者と協力関係にあったアフガニスタン人の安全な出国が認められるかどうかが焦点になりそうです。

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米軍が撤退したカブール空港でメディア対応を行うタリバンの報道官(CNNのウェブサイトよりキャプチャ)

 

タリバンによるアフガニスタン全土の掌握以降、国際社会が懸念しているのは女性の権利の保護や、出国を望む’旧’アフガニスタン政府、外国軍への協力者の状況です。世界的に注目が集まっていることから多くの報道がなされており、またおのずとSNS等での投稿も増えています。ただし、中には事実関係の異なる情報も混交しているというのが実態です。

フランス拠点の大手メディアFrance24がアフガニスタン関連のファクトチェック記事を掲載しています。このサイトでは

 

 ✕ガニ大統領がタリバンの首都占拠直後に出国したシーンとして広まった映像

 〇ガニ大統領が側近らと共に、国際会議に出発する報道映像

 

 ✕タリバン勢力の支配下にあるアフガニスタンでの女性の扱いとして広まった女性が鎖でつながれている写真

 〇過去に行われたパフォーマンスの一幕

 

 ✕「米軍機で避難するアフガニスタン人」と紹介された写真

 〇台風の影響で避難するため、輸送機に集まったフィリピンの人々

 

といった事実関係のチェックをしています。文字で読むと明らかに誤報なのですが、パッと写真を見せられるとそうなのかもしれない、と感じてしまうのでしょう。特にSNS経由では誤った情報がはやく拡散してしまうという傾向にあるようです。

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カブールから退避する800人のアフガン人として紹介された写真は台風に見舞われたフィリピンでの避難の様子だった(France24のウェブサイトよりキャプチャ)

 

話は変わりますが、昨年来世界的に話題になっている新型コロナウイルス感染症拡大の際も「もっともらしい」けれど根拠のはっきりしない情報が拡散したのは皆さんも経験済みのはず。

 

この食品がウイルスを殺す

ぬるま湯を飲むとよい

このサプリメントを飲むと免疫が高まる

 

という個人レベルの話もあれば、

 

どこそこで感染者が大量発生している!

〇〇病院で医療崩壊が起こっている

医療関係者の情報では、こうすると診断/治療が受けやすいらしい

ワクチンの副作用が隠蔽されている

 

という医療面の情報も多く飛び交いました。特に医療面の情報は一般の方が専門知識を持っておらず、「もっともらしい」情報が拡散しやすい傾向にあるのかもしれません。

 

行き過ぎた事例としては、政府が死者数を隠している、であるとか新型ウイルスは生物兵器であるとか、完全に根拠不明の陰謀論も流れた時期がありました。命に関わる感染症ということで、不安を感じる方も多いと思いますが、今一度冷静に、正しい情報が何なのか立ち止まって考えていただくことをおススメします。

加えて、個人として事実かどうか確認できない情報をSNS等で拡散することも控えていただく方がよいと当サイトでは考えています。実際に熊本県愛知県警といった公的機関も不確かな情報をSNS等で拡散してしまったとして謝罪を発表しています。個人レベルで根拠を確認することは難しいかもしれませんが、パニックによる買いだめや不安を煽りすぎることのデメリットを考えれば、不用意に情報を拡散してよいことはありません。

 

 

アフガニスタンの紛争から直接影響を受ける会社はごく少数だと思いますが、海外で事件や事故、自然災害発生した際、その地で事業展開している企業や団体の安全管理において正しい情報と間違った(本物に見せかけた)情報に惑わされてしまうと悪い結果に一直線となります。従業員・関係者の命に関わる措置を誤った情報、不確かな情報に基づいて判断してしまうと、その結果は破滅的になるのはご想像の通り。正しい情報は何か?報道されている写真や、SNS経由で確認した情報の信ぴょう性は確認できているか、など各社・各団体ごとに冷静に事実関係を確認するというプロセスは必須と言えます。

 

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冷静に複数情報を重ね合わせることで事実を浮き彫りに

特に大きな事件の直後やセンセーショナルなニュースの直後には未確認情報や出所が不確かな情報が飛び交います。報道機関は重要性が高いと判断すればニュースを発信してしまいますし、悪意のない大勢もSNSやブログ等でその情報を拡散します。先に例に挙げた世界的に大きく報じられているアフガニスタンでのタリバン復権といった事案の直後には正しい情報も誤った情報もスピード最優先で広がってしまい、本当に正しい情報だけを把握することは極めて難しくなってしまいます。

 

また、「有識者」とされる方々も時として未確認情報を基に取材を受け、コメントを発することがあります。こうなってくると、結果的に誤った情報を踏まえた分析が報道機関等を通じて広がってしまい、余計に事実が何だったのかよくわからなくなってしまいますよね。「よりインパクトのある情報を掲載しよう」という傾向は何事も煽りがちなインターネットメディアのみならず、大手メディアでも存在しています。

 

 

「アフガニスタンタリバンが復権した。多くの女性が奴隷扱いされる!」

 

といったストーリーが拡散してしまうのも無理はありません。過去の事実と、直近流れてきたインパクトのある画像が混ざることによって思い込みが強まってしまうというのは致し方ないようにも思います。

アフガニスタンでの女性の地位がどのようになっていくのか、は現時点で欧米諸国含め多くが注視しています。タリバン側も前回自分たちがアフガニスタンを統治していた際の反省点として挙げており、彼らの人生観、宗教観、周辺地域の伝統との折り合いをつけようと苦心しているように見えます。例えば、日本政府が国連機関と連携して育成してきた女性警官はタリバンが国を治める場合でも重要であると報道機関にも回答しているわけです。

 

アフガニスタン国内における女性の扱いであれば多くの日本人、日本企業に影響はでないかもしれません。しかしながら大きなテロ事件が発生した直後に流れる類似のストーリーはどうでしょうか?例えば2019年4月にスリランカで発生した連続爆破テロ事件の直後には「バス停付近で90個近い爆発物が見つかった」という日本語ニュースが流れましたが、実際には「爆発物のついていない起爆装置が見つかった」ものでした。

思い込みを含むストーリーやそれに付随するいわゆるフェイクニュースに惑わされてしまうとリスクを正しくとらえることができません。勢い、過剰な安全対策を指示してしまい、現地駐在者との軋轢が生まれることもあるでしょう。反対に、「大丈夫そうだ」というストーリーが広まってしまった場合、油断した状態でさらなる被害を受けるという一層深刻な事態にもなりえます。

 

特に関係者の命を預かる安全対策担当者は

 

 数多く流れている情報だから正しい、

 大手メディアが掲載している情報だから正しい、

 有識者がコメントしているから正しい、

 

と何事もうのみにしてはいけないのです。自分の感情や、先入観は横に置いて、本当に間違いのない事実は何なのか?そしてそこから導き出される合理的な見解にどのようなものがあるのか、冷静に考えなければならないのです。

 

安全対策担当者の役割はメディアやインターネットで流れてくる情報を経営層にそのまま伝えることではありません。健全な疑問を持って、メディアに踊らされず、裏が取れている事実とそこから導き出されるいくつかのシナリオを伝える必要があるのです。

 

安全管理の世界で、(たとえ悪意がなくとも)誤った情報が広まってしまうことは無理からぬこと。だからこそ、安全対策の担当者は緊急事態が発生した時こそ冷静にならなければなりません。どんなに派手なテロ事案が発生した際でも、どんなに世界的な大問題が発生しようとも、どんなに報道が過熱している時でも、氷のように冷静に、情報を多方面から集めて事実関係を検証しなければならないのです。

 

この項終わり