「ムハッラム」とは
読者の皆様はめったにイスラム教のカレンダーを意識されることはないかと思います。イスラム教の暦は月の動きを基礎とした太陰暦であり、起点となる日も西暦622年です。太陰暦であるがゆえに我々が普段使うカレンダーとは毎年10~12日ずれていくことになり、有名なラマダン月をはじめイスラム教のイベントを確認するためにもイスラム教のカレンダーを理解しておく必要があります。
さてそのイスラム教の暦では来週6月27日前後から新年最初の月、ムハッラムを迎えます。今年は6月27日~7月25日がムハッラムの一ヶ月となる予定です。(イスラム教の暦は日本でも用いられている太陽の動きに基づくグレゴリオ暦ではなく、月の動きに基づく太陰暦ですので、月の見え方によって一日前後する可能性有)
イスラム教の暦における月の名前では断食を行うことで有名な
「ラマダン」
(イスラム教の暦で9番目の月の名前)
が挙げられます。このラマダンは断食をして、先祖の苦難を追体験する、という行為に表れている通り、イスラム教徒にとっては最も神聖な月です。こちらのラマダンは正確な理解は別として、日本でも多少名前が知られていますのでイスラム教圏でビジネスを展開される皆様は警戒の対象となっているかもしれません。他方で、今回ご紹介するムハッラム月間は日本で知名度がほとんどなく、その分リスクの高まりに比して警戒が弱くなりがち。警戒が不十分な状態を油断と表現するならば、まさしくこのムハッラム月間は油断による不用意な被害が発生しかねないタイミングと言えます。
今月下旬から始まる
「ムハッラム」
(イスラム教の暦で1番目の月の名前)
はラマダンに次いで二番目に神聖な月である、とされています。ラマダン期間と同様に、各種の宗教行事が集中的に行われる月でもあります。
イスラム教の教義の上では、ムハッラム月は争いを禁じられた月の一つ。そのため、本来であればテロによる攻撃も抑制されるはずなのですが、残念ながら近年ではむしろ、神聖な月に対するむしろ宗教心の高まりを利用してテロを煽る行為も頻発しています。
特にムハッラムの10日目はイスラム教シーア派にとって極めて重要な
「アシュラ」
という祝日が予定されています。この日に行われるシーア派の宗教行事や宗教施設、シーア派が多く住むエリア等を標的としたテロが発生するリスクが通常よりも高まりますので要注意です。具体的には7月9日~12日に、特にイスラム教徒が多く、かつシーア派が少数派である国では(スンニ派が多数派である国)そういったシーア派関係者が多く集まる場所を避けるようにすることをおススメします。
イスラム教徒にとってみれば、現在イスラエルとその周辺地域の軍事衝突はイスラム教への迫害ととらえてもおかしくない事態が続いています。宗教心が高まる時期に抗議集会が呼びかけられれば当然参加者数も増え、関連の犯罪や襲撃なども起こりえるというロジックが成立しますね。
なお、パキスタンでは例年犯罪やテロの予防を目的にアシュラの期間中、バイクの二人乗りを禁止しています。逃走担当の運転手と銃撃や強盗/ひったくり担当で役割分担できる二人乗りに罰金を科すことで、少しでもテロ・殺人や犯罪を防ごうと対策を講じていることがわかりますね。
具体的には
〇宗教的に特に神聖で集団礼拝が行われる金曜日はできる限り外出を避ける
〇テロの標的となりやすい施設にはできる限り近づかない。また不特定多数の人が集まる場所や時間帯は避ける。
〇路上で行われる宗教行事や多くの信徒が集まる宗教施設には近づかない(モスクの観光は別の月にもできる)
〇群衆が集結している場所を見かけたら速やかにその地点を回避・迂回する
といった行動がおススメです。
予期できるリスクの高まりは意識的に避けよう
当ウェブサイトでも繰り返しているように、テロの被害、特に巻き添えを避けるためには
テロが発生しそうな日時
テロが発生しそうな場所
テロに関連しそうな怪しい人や物
を避けることが重要です。
(参考コラム⇒「2025年特に注意すべきは3月、7月、10月と読むリスクカレンダー活用術」)
上記の日時・場所で必ずテロが発生する、とは当然言えませんがテロの巻き添え被害のリスクを可能な限り低減するためには
「何もないことを祈りながら最悪に備える(リスクの高まる日時・場所を避ける)」
ことが大切であると考えます。
例えば滞在中の国で
大規模な宗教行事が行われる、
独立記念日の祝祭日で軍事パレードが行われる、
接戦になりそうな大統領/首相選挙、議会選挙が行われる、
といったイベントは明日急に行われるのではなく、数週間から数か月前からわかっていることが多いはずです。そうしたリスクが高まる可能性があるタイミングがわかっているのであればそのタイミングで普段よりもちょっと安全に意識を向けてみてくださいね。
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