2020年後半 リスクを伴うイベントリスト
2020年後半に治安や政情不安のリスクが高まりそうなイベントをカレンダーから抜き出してみましょう。
1)アルバイーンもしくはチェヘラム
10月8日ないし9日、フサインの死亡後40日目(アルバイーンはアラビア語で40の意味)に喪に服す宗教行事です。日本の仏教では故人の命日から49日目に供養を捧げますが、それに似て、イスラム教では死後40日目に再度追悼を捧げることが一般的です。アルバイーン(チェヘラム)はシーア派にとって重要なフサインの40日忌であり、年間通じても重要な宗教行事。イランやパキスタン等シーア派が多い国では、信者が多数集まり、行列をなして歩きながら鎖で自らの体を打つ(フサインの痛みを共有する)といった行進も行われます。
こちらはモスクではなく、路上で行われる行事ですので警備も比較的難しく、反シーア派グループの攻撃が何度も発生しています。こうした行進には近づかないことを強くおすすめします。
2)トルコ共和国記念日前後
1923年10月29日、トルコの建国が宣言された日です。トルコという国家にとって非常に重要な一日であるがゆえに、反トルコ政府活動を行うグループにとっては、この日にテロを成功させれば存在感を強く示すことができる日とも言えます。
昨年2019年はISが新たに「トルコ支部」の設置を宣言したビデオを公開した年でもあります。新しい武装過激集団の一番のアピールは衆目を集めやすい日に、目立つテロ攻撃を実施すること。特に今年はISISの指導的立場だったバグダディの死亡(10月26日とされる)から約一年というタイミングであり、新指導者であるアブ・イブラヒム・ハシミ・クレシらによる報復の計画があっても驚きはないと言えるでしょう。
現時点では確たる情報はありませんが、今年のトルコ共和国記念日やその他何等かトルコやイラク、シリア等でのイベントに標的を合わせたテロは排除しきれない状況です。
3)11月3日アメリカ大統領選挙前後
日本のメディアですら大きく取り上げているアメリカの大統領選挙前後も要注意と言えます。世界的に影響の強いアメリカという国の最高指導者を選択するイベントの結果如何で、地域情勢が変化する可能性を秘めているためです。特にアフガニスタンやイラク、サウジアラビア等アメリカが大きな軍事的プレゼンスを有する国・地域ではアメリカ軍やアメリカ大使館を含む欧米権益に攻撃をするといった動機がないとも言い切れません。
またアメリカ国内でも世論が分断されている状況下、選挙に関連し支持する候補者の異なる住民同士の小規模な衝突などが発生する可能性も否定できません。ただし、アメリカ国内は治安当局も十分機能しており、選挙結果を巡る政治的あるいは司法的な争いはあっても途上国でしばしば発生する暴動、政情不安にはつながることは予想されません。
4)クリスマス
言わずと知れた世界的に有名な宗教行事です。
イスラム教の過激派から見れば自分たちを攻撃している「異教徒」の宗教行事であり、世界的にもシンボリックであるため、攻撃の対象として大義を説明しやすく、また被害が大々的に報道される可能性が高いので、攻撃の優先度も高いイベントです。
また、多くの人がやや浮かれた状態で一か所に集まることから治安当局からすると警備の難易度も高めです。実際に、2016年のベルリンクリスマスマーケットテロでは12名が死亡、約50名が負傷するという事件が発生しています。イギリスでも2017年のクリスマスにテロを計画していた容疑者が逮捕されています。今年も油断は禁物です。
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