安全は’作るもの’
唐池さんの著作の中で安全が取り上げられているのは154ページから。外食業や不動産業への多角化が進み、鉄道事業一本やりではなくなったとは言え、大勢の人の移動を担う鉄道会社が絶対にないがしろにしてはいけないのは安全です。ただ、唐池さんは次のように記されています。
安全というものはあまりにも日常的な目標であって、ともするとマンネリ思考の愚に陥りやすい。それは安全への意識が薄らぐことを意味する。安全行動そのものを失する機会、つまり事故がもうそこには近づいている。
危ない。
それがいちばん怖い。鉄道会社のトップとして、最大の力を注がなければならないのが安全である。
ここまでの覚悟をお持ちで、直属の部下はもちろん、現場の最前線に立つ、つまり直接安全確保や緊急時の対応を担う従業員一人一人に安全の大切さを説き続けている経営トップはまだまだ少ないでしょう。
尾崎自身、こうした経営トップが増えて欲しいと願っています。事業の規模拡大や利益拡大はもちろん大切なことですし、そのための「攻め」の経営は必要ですが、「攻め」るためにはその土台となる従業員や関係者、お客様の安全対策を筆頭とした「守り」も重要なのです。
そのためには、誰かに任せるのではなく自分がやらないといけない、経営者自身が安全対策は自分事であるとして危機感を持たなければならない、と思います。
この事実を唐池さんは独特の表現で著作に記されています。曰く「安全は’作るもの’」。
「安全を守る」といった表現がよく使われる。
これは実は正しくない。
安全は、その現場にもともと存在している。何もしなくてもそこに安全がある。それをなくさないように”守る”。そんな思い込みから導かれる言葉だ。
安全は、決して誰かがあらかじめ用意してくれるものではない。以前からそこにあるものでもない。
(中略)
その瞬間、瞬間に基本動作を繰り返し、安全意識を呼び覚ましながら、みずからつくり、育むものなのだ。
安全対策の考え方、経営トップの安全に対する考え方の要諦を見事に表現した一節だと感じました。どの経営者の方にも、また海外に展開されている部門を担当されている方にはぜひお読みいただきたい一冊です。
- 1
- 2