【事案分析】スリランカイースター同時多発テロ事件

トップ画像は爆発によりレストランの窓が破壊されたシャングリラホテルの様子(Gulf News HPに掲載された写真より)  

事案の概要

〇 2019年4月21日現地時間8時45分頃から9時頃にかけてスリランカの最大都市コロンボ市内及びその北側近郊都市にある2つの教会及び3つのホテル、また東部バティカロアの教会、合計6か所でほぼ同時に爆発が発生

〇4月22日現在、死者は290名に上り、500名以上が負傷した

〇死者の中には外国人も含まれており、日本人一名も死亡したことが確認された

 

〇21日朝に爆発があったのは以下の6か所

コロンボ市内  セントアンソニー教会、シャングリラホテル、シナモングランデホテル、キングズバリーホテル

ネゴンボ    サンセバスチャン教会

バティカロア  シオン教会

 

〇各ホテルでは朝食の時間で混雑していた低層階のレストランやロビーで自爆テロが発生した

〇爆発発生時、3つの教会ではいずれもキリスト教の復活祭(イースター)礼拝が行われていた

〇大勢の信者(500人以上のキリスト教徒が集まっていた教会もあった)が狭い空間に密集している状況で自爆テロが発生した

 

 

爆発被害にあった教会内部の様子(インスタグラムより)

 

〇自爆犯として3名のスリランカ人の男性の名前が報じられており、いずれもイスラム教徒であった

〇21日午後にはコロンボ市内の動物園でも爆発が発生

〇また犯行グループの拠点と思われる住宅を捜査しようとした際、住人が自爆し、警官3名が死亡

〇さらに21日夜には国際空港付近の道路で手製の爆発物が発見されたが当局により処理された

治安当局は22日朝までに24名を逮捕済み

〇現時点で特定のテロ組織から犯行声明は発表されていない

〇情報通信大臣であるフェルナンド氏は4月11日付で「教会を標的とした脅威がある」と題された文書が存在していたことを公表

 

 

 

 

簡易な分析コメント

〇本事案は2009年に内戦が終結して以降大規模なテロ事案が発生していなかったスリランカで発生した大規模なテロ事案と言えます。

〇6か所の爆発(うち少なくとも3件は自爆テロ)をタイミングを合わせて実行していること、また特にキリスト教徒が多く集まるイースター礼拝中に実行したこと、等を踏まえれば綿密に計画が練られており、目標達成にコミットしたかなり大規模な集団による犯行であったと言えます。

〇現地治安当局の取り調べ状況は入手できていませんが、現在まで24人が逮捕され、4名が自爆している事実だけを見ても、少なくとも20名以上の集団によるテロ行為だったと考えるべきです

 

〇一連のテロの主たる標的はイースター礼拝中でキリスト教徒が多く集まっていた教会と外国人や現地の富裕層が朝食のために集まっていたホテルの二種類に分類できます。

〇ただし、この二種類を攻撃して得られる「成果」は異なります。キリスト教徒のみを標的にした攻撃はキリスト教徒やキリスト教中心の欧米社会への攻撃の意味合いを持ちます。他方で、外国人中心とはいえ、ホテルのロビーやレストランでの無差別テロの場合は社会不安を煽る、もしくは現在権力を担っている集団への反逆の意味合いを持ちます。

〇今回目的の異なる攻撃が同時に実行されているため、グループとして一体全体何が目的だったのか、は極めて不明瞭です。

〇死者の約半数はネゴンボにあるサンセバスチャン教会で被害に遭った方であること、また教会における自爆テロの死者が150名を超えていることから、教会に集まるキリスト教徒が主たる標的であった可能性を想定しています。

 

 

地元英字紙による死傷者の場所別統計(daily news紙

 

〇爆発が発生したホテルはいずれも地元では超高級ホテルの位置づけであり、外国人が多く集まる場所として有名でした。キリスト教徒に加えて外国人や地元富裕層も標的であったと言えます。

〇スリランカでは超高級ホテルと呼ばれる施設でも、政府要人や国賓等が訪れる場合を除き、敷地内や建物内に入るためのセキュリティはそれほど強固ではないと言えます。特にいずれのホテルでも爆発が発生したロビーや低層フロアのレストランは出入りが比較的自由だったと思われます。

〇シナモングランデホテルのマネージャーは「自爆犯は朝食ビュッフェの列に並んでいた」と証言しており、爆発物を身に着けたまま怪しまれずにレストランの客としてふるまっていた様子がうかがえます。

〇教会にせよ、ホテルにせよ、過去大きなテロ事件が発生していなかったこともあり警備体制がやや緩かったと言えます。

 

 

〇本事案に関し犯行声明は出されておらず、現時点で事件の背景は不明です。ただし、自爆を実行した人間として特定された実行犯の名前や職業から実行犯らはイスラム教徒の集団であろうことが推測されます。

〇キリスト教会へのテロという点で標的や手口共に類似しているのは本年1月、フィリピン南部ヨロ島で発生した爆破テロです。しかしながらこの事案ではISがアマク通信を通じて速やかに犯行声明を発表しており、事件から約1日経過した今も犯行声明が出されていない点は大きく状況が異なります。

〇もう一点ヨロ島の事案と異なるのはスリランカ国内の宗教人口バランスです。ミンダナオ島ではイスラム教の人口が多い中でキリスト教徒が狙われており、異なる宗教間の勢力争いという背景が動機になりえます。しかし、スリランカでは仏教徒が多数派(約70%)、ヒンドゥー教徒が二番目(約13%)に多いという状況下、イスラム教徒(約10%)がキリスト教徒(7%弱)を標的としている点で事案の背景としては状況が異なります。

〇直近スリランカで発生していた異なる宗教信者同士の争いは仏教徒VSイスラム教徒や仏教徒VSキリスト教徒の構図が大半でした。(参考:仏教徒とイスラム教徒の若者同士のトラブルがコミュニティ同士の争いに発展し、一時非常事態宣言が発令された事例

 

〇加えて、スリランカ国内でイスラム教過激派と呼ばれる組織の活動は過去目立ったものがありません。昨年末にNTJ(National Thowheeth Jama’ath)と称するグループにより仏教の像が破壊された事案があり、NTJは本事案への関与も疑われています。ただし仏像の破壊と6か所もの同時爆破テロでは犯行のレベルが大きく異なると言わざるを得ません。

〇ヒト・モノ・カネの調達力や入念な準備状況から推測する限りにおいて、スリランカ国内で活動していたイスラム教過激派単独で実行可能な規模のテロ行為ではないとの印象が強い状況です。

 

〇国内政治の観点ではウィクラマシンハ首相とシリセナ大統領の間での権力争いの様相も見受けられます。ウィクラマシンハ氏は本件対応に関し「なぜ事前に情報があったのに適切な警備強化が行われなかったのか」と治安を担当するシリセナ大統領に対する批判ともとれる発言をしています。

〇シリセナ大統領は昨年末、ウィクラマシンハ首相を解任し、政敵であるラジャパクサ氏を後任に指名(後にラジャパクサ氏が辞任)するなど、両者の関係は必ずしもうまくいっていないとの見方があります。

〇本事案の真相究明においてもスリランカ国内政治の情勢を踏まえ、進展を見守る必要があります。

 

 

〇本事案について真相や犯人の全体像は見えてきていません。しかしながら、個人レベルでは常に安全を確保するよう心掛けることをおススメします。具体的にはリスクの高いタイミング、リスクの高い時間帯に、リスクの高い場所にいないようにすることです。

テロ巻き添え被害は「ダイヤルロック」式

〇イースターのように、あらかじめ把握可能な宗教行事の際は極力標的となる場所に近づかないことが安全対策の第一歩と言えます。また、ホテルの朝食会場であれば、人が大勢増える前の時間帯に食事を行うなどの工夫は可能と思われます。

〇当HPでも世界の主要な国における宗教行事、政治イベント等は「リスクカレンダー」として公開していますのでご参考まで。

 

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