事故が起こって初めて「対策の不備」がわかる

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知床遊覧船事故で明らかになったこと

こんにちは、代表の尾崎です。今回は日本国内で発生した事故を題材としつつ、危機管理一般に通用するリスクへの向き合い方について考えてみたいと思います。

 

2022年4月23日、北海道北東部知床地方で、乗員・乗客あわせて26名が乗った遊覧船が沈没しました。この記事を執筆している時点で14名の死亡が確認されており、12名の行方が分かっていません。幼い子どもや、結婚直前の方が乗船されているといった情報も入ってきており大変胸が痛い事故です。

この事故は自然の圧倒的な力により予期せず事故が発生してしまった、人命が失われてしまったというわけではなさそうです。同じ地域で営業する多くの同業他社が運航を取りやめる強風の中、一社だけが遊覧船を運行したことが事故が起こる素地になってしまいました。遊覧船の運行は陸上での活動と比べれば多少のリスクを背負う行為ですし、自然条件の影響を受ける中でギリギリの運行可否判断を行う性質を帯びていることは理解できます。

しかしながら、問題はリスクを負って出航したことそのものよりも、運航中の安全を担保する仕組み、事故が発生してしまった際の緊急対応装置、体制構築が十分ではなかったことがより大きな問題です。風が強い、波が強い、といった要素だけであれば14名、あるいはそれ以上の人命が失われることはなかったかもしれません。

 

尾崎は船舶の専門家ではないですし、本件については当サイトの守備範囲であるテロや犯罪等への安全対策の範囲外と言えます。そのためあくまでメディア情報のレビューが中心ですが、以下の三点は特に問題です。

 

 ・事故を発生させないためのマニュアルが執務者に十分周知されていなかった

 ・緊急事態が発生した際の対応責任者にすぐに連絡可能な状態ではなかった

 ・緊急事態が発生した際の通信機器が使用できない状態だった

 

 

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2022年5月13日付日本経済新聞の記事より引用

一般的に安全対策の三要素は

1)予防措置(Prevention)

2)被害低減措置(Mitigation)

3)緊急事態対応(Emergency Response)

と言われています。事件や事故に巻き込まれる可能性を下げ、万が一事件や事故に巻き込まれても被害ができるだけ小さくなるよう準備しておく。その上で、緊急事態の際には本社を含むバックアップ体制を動員して救出・救援活動を行う。テロや犯罪への対策として有効な三要素ですが、地震や火災といったケースでも有効なのは想像に難くないのではないかと思います。

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(安全対策の三要素に関する動画での解説はこちらからご覧いただけるようになっています。)

 

今回、知床遊覧船事故ではこの三要素がいずれも不足していたことがわかっています。そしてまた、遊覧船事業を管轄する国土交通省の管理監督も不十分であったことを同省も認めています。書類上の検査が中心で、衛星電話が本当に通じるか、と言った実践的な検査が行われていなかったことに対し同業者も指摘している様子が報じられていました。

 

今回の事故が起こらなければ、おそらく事故を起こした会社の安全対策体制の不備は明らかにならなかったでしょう。国土交通省がそれまでの対応が不十分だったことを認める、国の組織が非を認めるという稀な事態もおそらく発生していなかったはず。人の命に関わる不備や不手際があったとしても、不幸にして事件/事故が起こってしまうまではその不備・不手際はわからないものなのでしょう。

 

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潮が引いたときにわかること

尾崎は安全対策のノウハウを生かして普段お仕事をさせていただいています。が、個人としては金融系の資格である「証券アナリスト」の資格も有しています。金融商品の運用や助言もリスクをうまく管理しつつ、成果を出すという点では安全管理のコンサルテーションと似た部分があります。

人の命に関わる不備や不手際があったとしても、不幸にして事件/事故が起こってしまうまではその不備・不手際はわからない、ということを先ほど書きました。これに関連して金融業界で有名な格言があるので、皆さんにもご紹介したいと思います。普段資産運用や金融業界に疎い方でも「ウォーレン・バフェット」という名前を聞いたことがあるかもしれません。見た目の価格ではなく、本質的な企業の価値を見極めることで、世界有数の資産を築き上げた投資の神様の一人です。そのウォーレン・バフェットの言葉にこんなものがあります。

 

It’s only when the tide goes out that you learn who has been swimming naked.

(日本語訳:潮が引いたときに初めて、誰が裸で泳いでいたのかが分かる)

 

相場環境が好調な時、つまり多くの金融商品が値上がりしている時は、誰も自分自身が抱えている価格変動のリスクを意識しません。なぜなら計算上は自分の利益(含み益)は積みあがっているわけで、損をしていないのですからリスクを気にする必要がないからです。価格変動の激しい(=リスクの大きな)資産を保有している人も、本質的に価値があり価格が急落しづらい資産を保有している人も同じように好調なのですから当然ですね。

しかしながら、ひとたび多くの金融商品の価格が下がり手元で計算可能な資産額が急落した場合どうでしょうか?大恐慌のように優良な資産でも価格が下がることはありますが、本質的な価値が担保されてない資産程より大きな値下がりに見回れます。例えば直近価値がゼロになってしまった仮想通貨LUNAなどはその典型例。2021年12月頃までは1LUNA=100ドルほどだったものが約半年で価値がゼロになりました。

まさに、水着を着ずに裸で泳いでいた方々が、急激な海水位の低下(金融市場環境の急変)に伴って裸であることが目に見える状態になってしまったと言えるのかもしれません。LUNAを持っていた方の多くはおそらくLUNAの価値がゼロになるとは思っていなかったと思います(もし価値がゼロになるとわかっていれば買うことはないでしょう)。まして自分が裸で泳いでいるけれどそれが見えていないだけとは思っていなかったハズ。相場の急変があって初めて、自分の保有する金融資産のリスクに気づく、といった典型事例かもしれません。

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コインゲッコのウェブサイトよりキャプチャ

 

 

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身近な「対策の不備」はいずれ暴かれる

尾崎のポリシーとして危機感を煽り、その不安感に付け込んだ商売をするというのは好みではありません。ただし、知床遊覧船事故や仮想通貨の価値急変などからもわかるように世の中には「気づかれないまま、放置された安全対策の不備・不手際」はたくさんあります。そして、そうした安全対策の不備・不手際は事件・事故が起こるまで明らかにはなりません。

今までトラブルが発生したことがないから

過去に危険な経験をすることなんかなかったから

わざわざ何も起こっていないのに利益にならない投資をする必要はない

といった理由で安全対策の不備・不手際は何らかの被害が発生するまでは放置される傾向にあると言っても過言ではないのです。尾崎の言葉でいえばこうした状態は「安全対策に未着手」であり、事件・事故による被害が発生するかどうかは「運任せ」なのです。あたかも海の中で裸で泳いでいるような当事者からすると運が悪かったので被害が発生した、損失が発生したと感じるかもしれません。しかしながら、事後に検証してみると知床遊覧船事故の事例でもわかる通り、あれも、これもできていなかった、という原因がはっきり提示できてしまうことだってあるのです。

 

安全対策は事件・事故が起こってから取り組むのでは遅いのです。日本語のメディアでも大きく報じられている知床遊覧船事故は大変不幸な事案です。改めてお亡くなりになった方のご冥福をお祈りし、ご遺族にお見舞いのお言葉をお伝えしたい。ただ、この種の不幸な事例が増えないよう遊覧船だけではなく、様々な場面での安全対策に意識を向けてほしいと願っています。特に尾崎を含む当サイトチームでお手伝いできるとすれば、海外での事業展開に取り組む方々が安全に業務を遂行するための各種対策。「気づかれないまま、放置された安全対策の不備・不手際」を世の中から一つでも減らすため、安全対策を「組織文化」にできる企業が一つでも増えるため、精進したいと考えています。

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この項終わり