「雑踏事故」で被害を受けないための工夫

この記事のURLをコピーする

「雑踏事故」の恐ろしさ

10月27日お隣韓国の首都ソウルで大変悲劇的な事故が発生してしまいました。メディアでも多く報じられているとおりハロウィンの仮装をして多くの若者が集まっていたイテウォン地区の路上で大勢が密集し圧死する事故が起こっています。

seoul-cnn-report
アメリカCNNテレビも事件直後に特派員を現場に急行させたほどの大惨事だった(CNNのウェブサイトよりキャプチャ)

普段当サイトで取り上げるニュースやコラムの題材は銃撃や爆弾テロ、あるいは著しい政情不安等が大多数を占めます。こうした事案は日本でほとんど発生しないがゆえに海外に駐在・出張される方、あるいは留学される方向けの注意喚起として意味があるからです。しかしながら今回発生した「雑踏事故」はその土地の治安や政治不安とは無関係に発生しうる事案と言えます。今回犠牲になった方の多くは10代~20代とのこと。日本の同世代の方は知らないかもしれませんが、2001年7月には兵庫県の明石市の花火大会後に似たような事件も発生し、2歳の乳児を含む11名が死亡、250名近くが負傷する痛ましい事案が発生しているのです。

 

以下参考リンクでも示しているとおり、世界的に見れば韓国や日本の治安はかなり良いと言えます。それでもその国でまったくノーリスク、ということはあり得ません。特に「群衆事故」の怖いところは、特段暴力行為や発砲・爆発等がなくても圧迫による身体へのダメージや最悪の場合将棋倒しなどで死に至ることもある点です。大規模なデモで集まった方々のボルテージが上がっている時はもちろんのこと、政情不安がない国でも大規模なイベントや伝統行事等で過密になった場合に事故が起こりえることも覚えておいてください。

海外安全メールマガジン登録

【参考】韓国(大韓民国)治安最新情報

【参考コラム】世界は日本の治安をどう見ているか2022

 

海外安全セミナー

群衆は「武器」であるという教え

「雑踏事故」の原因、そして不幸にしてなくなってしまう方の死因になるのは群衆=Crowdsの存在です。国連関係機関では人道支援の一環として食料や衛生用品の配布を行うことがあります。こうした時に課題になるのが配布物を求めて集まってくる群衆のマネジメント。万が一人道支援を行うスタッフがもみくちゃにされ、「雑踏事故」と同じ状況になってしまうと、国連関係者はもちろん、そこに集まった支援が必要な人々にも犠牲が出かねません。これを防ぐために国連関係機関向けのセキュリティ研修で配布されるテキストには「群衆あるいは暴徒と安全(Crowds, Mobs and Safety)」という項目が設けられています。

crowds is weapon

弊社代表の尾崎が国連関係機関のセキュリティ講座を受講した際にこの項目で習ったことの一つが

「群衆はそれそのものが武器である=crowds is weapon」

というもの。上記がその当時のテキストに代表がメモした講師の発言の記録です。この言葉一つとっても、いかに人道支援を行う国連関係機関が群衆をリスクと捉え、関係者を群衆事故から守るために工夫を凝らしているか伝わるのではないでしょうか?銃や爆弾といった日本人が思い浮かべやすい武器では決してありません。むしろ一人一人は我々と同じ人間ですが、人間が集まった際のインパクトを知っているが故に「群衆はそれそのものが武器である」とセキュリティ研修で伝え続けているのです。

 

ちなみに、上記のタイトルの後に、細かい講義内容のメモが続いています。この講義で習うことは生活物資等を配布する前に行っておく準備、人々が集まってきた際の対応、群衆に飲み込まれてしまった際の体の守り方を机上で教わります。また代表が参加した講座では実際に小さな部屋の中に参加者が集められ、「群衆事故」が起こる直前の様子を模擬体験するといった実技訓練もあったとのこと。こうした講座の内容は月額コンサルティング契約をいただいている企業・団体の皆様にはお伝えしています。有料コンサルティングにご関心をお持ちの方はこちらの案内ページをご確認の上、弊社窓口にお問い合わせくださいませ。

 

海外安全メールマガジン登録

群衆事故から身を守るコツ

その国の治安情勢や政治情勢とは無関係に、世界中どこの国で発生してもおかしくない「雑踏事故」。このコラムをご覧になっている方のほとんどは海外での安全管理に関心がある方ですが、日本を含めこうした「群衆事故」での深刻な被害を避けるためのコツとして以下三つの注意点をお伝えします。日本国内で何らかのイベント等に参加される際も以下を覚えていただければ少なからず皆さんの命を守る確率が上がるはずです。

 

1つ目、大勢の人が集まる場所に不用意に近づかないこと。これは簡単なようで実践するのは非常に難しいのですが…。先述のハロウィーン事故にせよ、明石市の花火大会事故にせよ、「ごく普通」のイベント、誰もが集まっておかしくない場所で事故が起こってしまっているからです。近づかなければよいのに…が結果論というご指摘があるのは致し方ないでしょう。

ただ、近づく必要がまったくない群衆というのも存在します。例えば、政治的なデモや特定の主義主張に関する集会です。特に海外では外国人としてデモに参加しても、得られるものはほとんどありません。短期の出張や留学であればなおさらです。こうしたデモや集会の近くにいたというだけで当局によって身柄を拘束されるケースも存在すること、また治安当局はもとより、異なる意見を持つグループとの衝突に巻き込まれれば怪我を負うリスクもあります。一般論として海外にいる時には群衆や治安当局が集結している地点には近づかないことがセルフディフェンスにおけるセオリーと言えます。

そして、あまりにも人が多く集まっているイベント等への接近もおススメしません。こうしたイベントにどのくらいのリスクがあるのか、は現地の文化や社会情勢を理解していないと正確に把握することが難しいでしょう。日ごろから、滞在先のニュースをチェックするようにし、また現地人の同僚やクラスメイト等と情報交換することが危険な場所に近づかなくて済むコツです。

 

2つ目は自分の周りに人が集まってきた際、早めにその場を離れることです。

明石市で発生した花火大会を特集した関西テレビの報道を見ていただくとよくわかると思いますが、「群衆事故」の最も恐ろしいところは、人が集まりすぎると個人の力でその場から抜け出せなくなることです。状況がよくわかっていなかったとしても、皆さんのいる場所の近くに大勢の人が集まってきた場合は、動ける間に素早く混雑地点を抜けることがリスクを避ける秘訣です。

大勢人が集まりすぎると個人の力で群衆を抜けることは困難になります。韓国のハロウィーン事故のように壁や障害物が近いとなおさら。感覚として東京のラッシュアワーでの満員電車程度の密集具合になる前にその場を離れられるようにすることが皆さんご自身を守る秘訣です。

 

3つ目は群衆から抜け出せなくなった際に皆さんの命を守る確率を少しでも上げる豆知識です。まずは群衆が動いている時は決して流れに逆らわないこと。転ばないように慎重に流れに身を任せることで踏みつけられたり、誰かが皆さんの上に次々覆いかぶさられたりすることを避けられます。転んでしまった場合は、体を丸め、頭を両手で覆って脳と内臓を保護するようにしてください。群衆の中で転んでしまうことは最悪ですが、こうすることで多少は生き残る可能性を上げることができるとされています。

この項終わり