Global Law and Order Report(世界法と秩序調査)
2021年11月アメリカの調査会社Gallup社は世界の法と秩序に関する調査結果(2021年版)を公表しました。この調査では、世界115の国を対象として、
・自国の警察を信頼しているか
・夜中に、一人で歩いていても安全か
・過去1年間のお金や資産の盗難被害度合い
・過去1年間の暴行や強盗被害の発生度合い
を各国約1000人ずつにインタビュー。結果をポイント化し、各国をランク付けしたものです。調査結果の概要はこちらのリンクからご確認いただけます。
ベネズエラ、ガボンは実感治安が悪い
具体的にどのような国で「自分の国は治安が悪い」と感じられているのでしょうか?2019年版、2020年版で二年連続世界最悪のスコアを記録していたのは昨年タリバン勢力が権力を再掌握したアフガニスタンでした。最新版となる2021年版ではアフガニスタンが調査対象から外れていることもあり、最もスコアが悪かったのは南米のベネズエラとアフリカのガボンという結果になっています(100点満点中53点)。
特にベネズエラはこの調査の下位常連と言ってもいい存在です。長引く経済不況による治安の悪化から金銭の盗難が増加していること、また警官への信頼度が非常に低い(26%)こと、また夜間の一人での徒歩移動への不安などからこのようなスコアになったものと思われます。
なお、2017年や2018年の調査では事実上の「内戦状態」と言っても過言ではなかったアフガニスタンよりもベネズエラは悪いスコアが出ていました。数年後にアメリカ軍が撤退を余儀なくされる未来を知っている、そしてその時点でもタリバンによるテロやISの支部によるアフガン政府軍襲撃等が増加している、といった状況を見ていたアフガニスタンは相当危険だという印象が強いですが、ベネズエラに住む方はアフガニスタンに暮らす方以上に身の危険を感じていたと解釈できうる調査結果ですね。(ちなみに下から三番目に位置付けられているギニアでは昨年9月にクーデターが発生しています。
逆に自国が安全だと判断している人が多い国はノルウェーやアラブ首長国連邦(UAE)、中国、スイス、フィンランドといった国々。概ね妥当な国がならんでいますでしょうか?日本は世界全体で見れば安全なハズなのですが、不安を強く感じる方が多いのか23位タイの86点となっています(新型コロナウイルス感染症対策が他国と比して緩和されにくい、という現状は皆さんも感じておられると思います)。
総合ランキングの最下位二か国ガボンやベネズエラ、あるいは昨年の調査で最下位だったアフガニスタンに渡航される日本人の方はそれほど多くないと思います。ですので、ここまでの記事だけであれば
「へー、世界には治安の悪い国があるんだね」
という感想で終わってしまうでしょう。ただ、調査項目の一つである「夜間一人で徒歩外出して不安を感じますか?(Safe Walking Alone At Night)」という項目の調査結果を見ていくと、他人ごとではなさそうです。
その国の人でも夜間一人で徒歩外出が不安な国々
コチラがその調査結果のまとめです。日本では若い女性であっても夜間一人で徒歩外出が不安という方は多くはないと思います。一晩中空いているコンビニに、フラッと買い物に出かける方も多いでしょう。この記事をお読みの多くの方にとっても、(コロナウイルスの影響を考えなければ)東京や大阪といった大都市の繁華街では若い方が徒歩であちこち歩き回るというのはそれほど特殊な光景ではないハズ。そうした日本の光景を思い浮かべながらこちらのランキングをご覧ください。
左側は夜自分の国で一人で歩いても大丈夫と思っている方が多い国。右側が反対に自分の国で夜間一人で歩くのは不安だと思っている方が多い国です。世界で最も外出が不安と答えたのはやはりガボンとベネズエラの人たち。わずか31%しか夜間一人で外出しても安全だとは思っていないということですね。
少し目線を上に移動してみましょう。よく知られている国、日本人も比較的多く渡航している国では
南アフリカ ワースト3位タイ
チリ ワースト7位
メキシコ ワースト8位
ブラジル ワースト10位タイ
となっています。
日本国内では大都市/繁華街のごく一部の地域では“ちょっと嫌な感じ”を感じるところもありますが、一般人がそこを足早に通り過ぎようとしただけで突然拉致されたり、拳銃で強盗されたりということはさすがにありませんよね。
ではもし、同じような感覚でブラジルやメキシコ、チリ、南アフリカといった国でも夜間一人で歩いてしまったらどんなこと起こりそうでしょうか?復習ですがこの調査は自分の国で夜一人で歩いて安全だと思うか、のインタビュー結果です。土地勘もあり、言葉もわかる人ですら安心できない、と考えていることを踏まえれば、特に観光で数日滞在する人間がフラッと歩いて大丈夫、と思ってはいけないということを示唆してはいないでしょうか?
日本より「危ない」国に行くのに防御態勢は同じでいいのか?
海外での安全対策を考える際重要なのは「日本との比較」です。海外への旅行とはすなわち、日本と比べてリスクの高い場所に行くということ。日本での普段の状況を「当たり前」だと思って、無防備な状態のまま(日本と比べて相対的に危険な)海外に出かけていけば、予想していなかった危険な目に遭うこともあり得るわけです。海外に渡航する際には、日本国内で普段暮らしている時と違うレベルの心構えが必要になるということがわかっていただけますでしょうか?
我々が口を酸っぱくして、日本人の皆様に
「海外では日本と違って普段から安全対策を意識してください!」
と訴えているのかというと海外では日本よりもリスクが高いことが一般的だからです。日本国内のニュースだけを見ていると
新幹線や列車の中、あるいはクリニックでの無差別殺人が発生した
小さい子供が犠牲になる事件が繰り返し報道される
悲惨な交通事故が次々と起こっている
いじめや誹謗中傷に起因すると思われる自殺が増えている
ワクチン接種も遅いし、医療体制の整備も全然進んでいないのではないか?
といった暗いニュースが多い今日この頃。こんなに悲しいニュースが毎日起こっているのに、日本が治安がいいなんてことあるのか?、とお感じになるかもしれません。が、世界的でも、同じような暗いニュース、安全や健康の確保ができていない状況は各国、各地で発生しています。
学校やレストラン、政府庁舎等で銃の乱射事件が発生した
宗教行事やイベント等を狙った爆弾テロが続いている
隣国の武装勢力が民間の飛行機も使う空港にロケット砲を打ち込んだ
ある日突然隣の国が軍を送り込み、住宅やスーパーにミサイルを発射した
など、詳しく書くのもはばかられるようなニュースは日々我々の手元に入ってきているのです。日本に不幸な事件・事故が全くないわけでは決してありませんが、国を捨てて避難しなければならないという日本人の方はまずいらっしゃらないハズ。本当にひどい国・地域と比較して相対的に見ればやはり日本は平和で安全な国なのではないでしょうか?
その分、日本から一歩外に出るとき、つまり海外に渡航する時には、
「いつも暮らしている日本よりもリスクが高い場所に行くのだ。用心しなければ。」
ということを改めて認識していただきたいのです。客観的な調査結果として世界各地の治安を指数化したデータは存在しています。弊社が徒に危機感をあおっているわけではなく、皆さんの安全確保のために改めて皆さんの渡航先にどんな危険がありそうか、どのくらい危険だと評価されているのかを確認する出発点としていただければ幸いです。
この項終わり