「逃げる」というプロセスを分解する
「RUN:逃げる の具体的な例(何メートル逃げればいい?)」のコラムでもご紹介しましたが、2017年に発生した、イギリス・マンチェスターでのアリアナ・グランデさんのコンサート爆発事件のように犠牲になった方の85%までもが、自爆した犯人のすぐそばにいた、という事例もあります。
このため、ほんの数メートルでも、自爆犯ないしは、襲撃犯から距離を置くことができるかどうか、が緊急事態発生時の重要な分岐点です。では、その「ほんの数メートル」をどのように確保すればよいのでしょうか?
結論に進む前に、我々がどのようにして逃げるという行為を行っているのか、順を追って考えてみましょう。我々は運動解析や神経系の専門家ではありませんが、自分たちの経験からは以下の三つのプロセスに分けられるのではないか、と考えています。
1.異常を認知する
2.認知を受けて逃げるという判断をする
3.足を使って物理的に距離を置く
前回のコラムでフォーカスしたのは、3.のプロセス、実際に足をつかって自分自身を現場から離れた場所に運ぶプロセスでした。しかしながら、このプロセスは実は逃げるという行為の最後の段階です。しかも移動すべき距離はよほど高性能かつ大量の爆発物が用いられない限りは「数メートル」ですので、逃げるまでの時間にそれほど個人差はでません。
ではどこで差がつくのか、と言えば、1.の認知と2.の判断です。
違和感に気づくタイミングを早めるために
数百メートルもの距離を逃げるのであればともかく、数メートル横にずれるという行動そのものはウサイン・ボルト氏のような陸上短距離の選手と皆さんでもさすがに何秒も違ってきませんよね。
つまり、爆発物や襲撃犯から距離を置くために重要なのは、足の速さや体力ではなく、いち早く
この人は何か変だ
誰のモノでもなさそうな鞄が放置されている
よくわらかないけれど何か変なことが起こっている
といった「違和感」を捉える力だと言えるでしょう。
こうした「違和感」はどのように感じればよいのか、と言えば、それはひとえにできる限り周囲に気を払っておくことです。ただ、常に緊張感を持ち、周囲の人物すべからく怪しいと思って暮らしていると逆に自分自身の神経が持ちません。
あくまで常識的な範囲ではありますが、特に人混みの中などでは、定期的に周囲を見渡したり、異常な音が聞こえてこないか注意したり、という程度の注意力を発揮すれば一般の方にとっては十分ではないだろうか、と弊社では考えています。
例えば、コンサートを楽しみテンションが上がっているはずの同世代の人たちの中に、一人、浮かない顔でバックパックを背負いぶつぶつと独り言を言っている青年がいたら・・・。
例えば、雨も降っておらず、雨予報も出ていないのに、混雑した地下鉄でビニール傘を持って緊張している青年が隣にいたら・・・。(1995年地下鉄サリン事件の直前の様子です)
その瞬間に少しでもその場から離れよう、と決断することが重要です。どちらに??それは言うまでもなく、「違和感」の原因から遠ざかる方向に、です。
スマホとヘッドホンが「気づき」を阻害する
弊社代表尾崎からよく聞かされる話があります。
それは、
「日本は周囲に気を配らない人が多すぎる。通勤電車の中でほとんどの人がスマホでゲームなのかSNSに夢中で画面だけ見ている。同じくらいの人が周囲の音も聞こえていないであろう音量で音楽を聞いていて、もし隣の人がパニックになって叫んでも気づかないんじゃないか、と思う。あれじゃあ爆発物でも化学物質でも何か事件があっても逃げられないよね」
といった内容。
言われてみれば・・・と思い、先日電車の中で数えてみたのですが、私の目に入る方のうちスマホ等の画面を見ておらず、ヘッドホンも付けていない方は43人中5人でした。もちろんこの一回だけで言い切るつもりはありませんが、私がチェックした瞬間は90%近い方が電車の中でそれほど周囲を警戒はしていなかった、とは言えるでしょう。
どれだけ、瞬発力や運動能力に自信がある方でも、異常に気付くのが遅れれば、不審人物や不審物から離れるだけの十分な時間は確保できず、結果最悪の事態にもつながりかねません。
いち早く、正しく逃げるためにも、特に海外旅行中はスマホやヘッドホンを外で使用するのは避けることをおススメしたいと思います。
なお、先般在パラグアイ日本大使館や在ブリスベン日本総領事館から発せられた現地在留邦人向けの一般犯罪防止のための注意喚起で、以下のようなコメントが含まれていました。
「歩きスマホやイヤホン使用など,犯罪者に対して自ら『どうぞ,盗ってください』と思わせるような隙のある行動はしないでください」
スマホやヘッドホンの使用は一般犯罪のリスクも高めるものです。後ろから銃やナイフを持って近付いてもほとんど気づかないでしょうから、当然と言えば当然ですね。
以下、フリー画像から見つけた、街中の「あるある」映像です。普段何気なくやっている行為も実は安全確保の観点からは望ましくないこともある、ということを理解していただけばと思います。