緊急事態発生時 日本大使館/領事館ができること・できないこと

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イランやイスラエルからの邦人退避オペレーション

2025年6月、イランとイスラエルの直接的な軍事衝突が激化したことを受け、日本政府外務省はイラン及びイスラエルに滞在する日本人を国外に避難させるオペレーションを行いました。徐々に事態が悪化していく場合は「逃げられる人はいち早く逃げてください」でしたが、今回のような事実上の戦争の場合先制攻撃が圧倒的に有利であるがゆえに直前まで本当にミサイルや空爆が行われるかわからない、というケースがほとんど。軍や諜報部門と接点のない民間の方には正確な開戦情報を把握する術はないので、日本政府を含む各国政府が自国民保護のために国を挙げて避難を支援するのは当然のことです。

2025年6月19日~22日にかけ行われたイラン→アゼルバイジャンへの在イラン邦人退避について報告する日本政府外務省のプレスリリース

特に今回のイラン・イスラエル軍事衝突の場合には攻撃の応酬が発生した直後からイラン上空の領空封鎖が行われ、イランから空路での避難ができない状況でした。このため、日本政府は現地でバスを用意し、イランやアゼルバイジャンの大使館員が中心となって陸路で在留邦人の避難を誘導することになりました。イスラエルからは地続きの隣国ヨルダンに移動するためのバスが用意されています。これだけのオペレーションはイランやイスラエルに進出している一企業、あるいは一個人では困難です。現地にいらっしゃる方からすれば、日本大使館の支援は心強かったのではないでしょうか?

 

海外で急激時に事態が悪化するのは何も戦争だけではありません。例えば2024年ニューカレドニアで住民暴動が激化・長期化した際にも日本人の避難を日本政府が支援したことがありました。この時は太平洋に浮かぶ島国でありながら、国としてはフランス領であったことから、フランス政府が近隣のオーストラリア軍と調整し外国人の避難を主導していました。ニューカレドニアは新婚旅行を含むリゾート観光先としても有名で当時50人ほどの日本人旅行客が滞在していました。こうした旅行客にとってフランス政府が用意する避難機に座席を確保するなど不可能です。2024年の場合には日本政府として外交の力を活用することによってフランス政府に協力を依頼し、無事日本人の一般観光客の避難が実現しました。

このように、日本政府は緊急事態が発生した際、海外に滞在している日本人を支援、保護する役割を持っています。

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「邦人保護業務」を担う日本国大使館/総領事館

日本以外の国に滞在している日本人を国家として救援する取り組みを「邦人保護」と言います。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界各地に拡散する前には年間で2,000万人以上の日本人が海外に渡航していました。また、業務上の赴任や移住等の理由で海外に居住している日本人の方も150万人近くいるのが実態です。こうした状況下、残念ながら海外で事故や犯罪、トラブルに遭遇する人も少なくはありません。この辺りは日本政府外務省が毎年とりまとめ公表している「海外邦人援護統計」に詳しく記載されていますが、この記事では割愛します。

 

前項でご説明したような国家間の軍事紛争、あるいは国内の暴動が突然発生した際に日本人を助けてくれるのはやはり日本政府の関係機関。特に各国の首都や主要都市に設置されている在外公館と呼ばれる日本国大使館や日本国総領事館が日本人の救援、避難等を担当することになっています。日本国内でトラブルがあれば警察や自治体が支援してくれるのとできるだけ似た体制で支援ができるよう工夫されているのですね。こうした日本人の支援を「邦人保護業務」と呼び、各大使館/総領事館の「領事部門」が担っています。大使館や総領事館というと、国と国との交流、あるいは今話題の関税交渉のような「外交」が大きな仕事だと思われがちですがそれら業務と同じくらい大切にされているのが邦人保護業務なのです。

 

ただし、こうした邦人保護業務も、現地のどういった日本人の方がいらっしゃるのか大使館や総領事館が把握できていなければ十分に機能しません。このため日本政府外務省は「たびレジ」というシステムを用いて海外に渡航される日本人の方に、いつからいつまで、どの都市に滞在するのかを登録するように依頼しています。たびレジを登録しなくても海外旅行や現地滞在は可能なのですが、既にご説明した通り、緊急時の避難支援などは大使館/総領事館がその存在を把握されている日本人の方に優先的に案内が行きます。連絡先が分からない方の連絡先を探し出して安否確認や避難の案内ができるほどの人員はいませんからね。

 

こうした背景から当サイトでも繰り返しおススメしているのが海外渡航前の「たびレジ」登録。世界各地の情勢が不安定化し、イラン・イスラエルはもとよりロシアやウクライナ、あるいはインドとパキスタンといった日本人が旅行をしていてもおかしくない国で突然軍事衝突が始まることもあります。また、ニューカレドニアのような有名な観光地で突発的な住民暴動が発生する場合や、大規模な災害に伴って現地に救援機を派遣するといった事例も邦人保護業務の一部。日本政府にしっかりと助けてもらうために改めてこちらのサイトで図解しているたびレジ登録方法をご参照下さい。

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日本大使館/総領事館のできることとできないこと

さて、このコラムの最後に日本大使館/総領事館ができること、できないことをまとめておきましょう。

「邦人保護業務」は日本政府の役割とはいえ、なんでもかんでもやってくれるわけではありません。これは警察や日本国内の自治体がなにからなにまでやってくれるわけではない、というのと同じ。特に日本以外の独自の法制度があり、内政干渉になりかねないケースや個人間のトラブル、あるいは個人への金銭面での支援はほぼ不可能です。現地で皆さんがトラブルに巻き込まれた際、できる限りの手立ては尽くしてくれると思いますが、日本政府、現地大使館/総領事館ができることとできないことを知っておくことは皆さん自身の身を守るためにも重要なポイントです。

日本国内でも災害の際「自助・共助・公助」の順で対応すべし、とはよく言われているお話。万が一の際、政府や自治体が皆さんのお困りごとを全部解消できないのは公務員の数や予算から考えても当然です。ましてや日本から離れた外国においてどんな事態があっても絶対に日本政府が助けてくれる、という考え方は楽観的に過ぎます。緊急避難の支援や貴重品の盗難・紛失時、あるいは事故に巻き込まれた際、何らかの理由で皆さんが逮捕・拘留された際などそれぞれの状況に応じて日本政府外務省・現地の大使館/総領事館ができること、できないことはわかりやすく整理されています。

スマートフォンでは見づらいPDF方式ですので、本サイトでは外務省が公表している資料を画像の形で掲載し、皆様にお役に立てるようコラムにしてみました。パソコンでご利用の方はリンク先のPDFもご確認下さい。

 

 

 日本政府外務省が公表している「大使館・総領事館にできること、できないこと」のPDFより

この項終わり