海外生活中の住民票に相当するのが「在留届」
早くも3月が終わり、日本の会計年度では新年度を迎えます。4月1日には新人が一斉に入社するという会社も多いでしょうし、この時期に人事異動を迎える方もいらっしゃるのではないでしょうか?グローバル化が進む時代ですので、海外への赴任辞令が出た方もいらっしゃるのではないでしょうか?
アメリカやヨーロッパの各国だけでなく、中東やアフリカなど「正直この国のイメージがわかない・・・」という国への赴任が決まっているという事態も珍しくはないのかもしれません。このコラムでは、そういった長期海外居住の際、現地到着直後にやっておくとよい「在留届」の提出について改めてご説明します。もちろん、大学や大学院在学中の方で、交換留学に出発する、という方もぜひお読みください。
さて、日本で生活していた時にはお住いの自治体(市区町村)で住民登録されていたはずです。住民登録をすることによって『あなたはこの自治体の住民ですよ』、ということが証明されますので、税金を使って行う自治体のサービスを受けられるようになります。
この住民登録によって、行政手続きの際には住民票を取ることができますし、選挙の際の投票用紙も自動的に送られてきていました。アルバイト先への提出が必要だったり、公立図書館の利用のために登録が必要だったりもしますね。
住民票ほど知られていませんが、実は海外で生活する方も住民登録に相当する制度があるのです。それが今回ご紹介する「在留届」。ご自身が滞在している都市を管轄する日本国大使館もしくは領事館にこの「在留届」を提出することで、日本政府があなたの所在地を把握することができるのです。この「在留届」、旅券法(旅券=パスポート)という法律でも3か月以上滞在する人は提出が義務付けられていることもお伝えしておきます。
赴任直後は住環境の整備やご家族の引っ越し、お子様の教育環境の確保、前任者からの引継ぎなどなど多忙を極めます。そういった対応に埋もれてついつい忘れがちになりますが、「在留届」の提出も忘れないようにしてくださいね。
「在留届」はWebでも紙でも提出できる
では、この「在留届」どうやって提出するのでしょうか?滞在先が首都でも大都市でもなく、日本人がほとんどいない町だったらどうしたらいいのでしょうか?
ご心配なく。「在留届」の提出は大使館や領事館に直接持っていく必要はないのです。便利な世の中になったもので、外務省が運営するHPからオンラインで提出することができます。また、外務省が定める「在留届」書式のPDFに手書きで記入し、FAXやメールで送っても受け付けられます。
そしてこちらが「在留届」の提出フォーマット(部分抜粋)です。見ていただければわかる通り、記入する内容もそれほど複雑ではありません。飛行機の中で記入するような「入国カード」とそれほど変わらないのではないでしょうか。記入にそれほど時間を必要とするものではないのです。
「在留届」を提出するとこんなメリットが!
そうはいっても何のために「在留届」出すんだ?
そもそも
・ 「在留届」なんて言葉を聞いたことがない
・ 自分の先輩や友人で駐在・留学していた人も出していなかった
・ 「在留届」を出しても意味がないじゃないのか
とお考えかもしれませんね。
では、この「在留届」を提出したときにメリットはあるのでしょうか?はい、もちろんメリットがあります。
ご説明した通り、この「在留届」は各自治体の住民票に似ており、大使館や領事館が担当地域に何人日本人が住んでいるかを把握するためにも使われています。そして、その大使館や領事館が提供する(無料の)行政サービスを受けるためにはこの「在留届」は必須です。
具体的にサービスを列挙してみましょう。
・ 「緊急メール/総領事館からのお知らせメール」が配信される(当然日本語で!)
・ 万が一大規模災害やテロ等に巻き込まれた場合に日本政府の援護(国外退避の支援など)が受けられる
・ パスポートを万が一紛失した際の再発行や各種証明書の発行がスムーズに行える
一点目、皆さんの安全にも関わる緊急メールの事例を示しましょう。一時期に比べると日本での報道は激減していますが、フランスのパリ等大都市で毎週末反政府デモが継続して発生しています。一部の参加者は凱旋門やシャンゼリゼ通りなどで暴力行為、文化財の破壊行為などを行っており、ニュースでも大きく取り上げられましたね。
在フランス大使館に在留届を提出しておけば、以下のような反政府デモに関する情報が具体的かつ詳細に記載されたメールが受け取れます。数日後に大規模な反政府デモが行われること、不用意に会場に近づかないほうがよいことが書かれていますね。もしこの情報を知らなければ意図せず反政府集会会場に入り込んでしまい、「身動きが取れない!」「暴動に巻き込まれた!」と最悪の状況になりかねません。
現地の言葉ではなく、日本語で情報が入るのでこういった情報を受け取らない手はないでしょう。
二点目は万が一に備えたメリットです。日本では地震や洪水といった自然災害が一定の頻度で発生しています。その時自治体が避難所を設置し、救援物資を配ったりしていますが、あれは住民に対する行政サービスですので、本体住民登録されていなければそうしたサービスは受けられません。
では海外で自然災害やテロの被害に遭った場合はどうでしょうか?海外での自国民保護は日本政府の役割の一つであり、税金を用いて無料で各種のサービスが提供されています。当然、緊急事態の際の日本国民の保護も役割です。ただし、在留届を提出済みで、大使館・領事館が確認できる滞在者リストに載っている方とまったく初めて出会う方とどちらがスムーズに援護を受けられるでしょうか?そう、当然リストに載っている方です。
言葉や習慣が日本とは異なる中、異常事態が発生しているとどんな方でもパニックになります。そうした状況に遭遇したことをイメージしてみましょう。現地の言葉で案内される安全な場所への避難や飲食品の確保、怪我の治療などなど、すべて自力で対応できるでしょうか?
もし、日本語でいろいろと助けてもらえるなら、こんなにありがたいことはありません。到着直後にオンラインもしくは紙を一枚提出するだけで、万が一の際に大きな差が出るのです。
住民票と違い、「在留届」の提出は義務ではあるものの、罰則規定がありません。そのため、一般的に数年~10年程度駐在し、お仕事をされる方に比べて留学生のみなさんは「在留届」を出さないまま過ごされる方も多いようです。ただ、「在留届」を出す手間に比べて、得られるメリットは圧倒的に大きいのです。ぜひとも、到着直後に担当の大使館もしくは領事館に「在留届」を提出してください。
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コロナ禍で急減した日本から海外への留学生。2022年後半から少しずつ海外留学が増えてきています。他方で、多くの方がパンデミックを経て海外での安全管理/健康管理に注意を払うようになってきています。「リスクをコントロールしながら学びを止めない」ためのノウハウが今こそ求められていますが、留学を勧める各国大使館/学校や留学仲介業者等にはそのノウハウがあまり蓄積されていません。世界各地の情報に目を配り、危機管理を専門にする当サイト代表だからこそ書ける一冊として注目されています。
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