民間企業で社員の健康を支援する取り組みが広がる
最近、民間企業の間で、社員の健康管理を積極的に後押しする取り組みが広がっているようです。
例えば、
・禁煙やランニングなどの目標を定め、それに取り組む社員には月5000円を支給する(タカギ)
・オフィス内に健康に配慮した惣菜が入った冷蔵庫を配置、購入費用の補助も出す(ANA、他1000社程度)
・仮眠室をオフィス内に設け、業務規則上も短時間の仮眠を認めるようにした(三菱地所)
・オフィス内にジムを設け、1日30分の利用を推奨。利用しなければ10分単位で賞与金を減額(タマノイ酢)
などなど。
喫煙や肥満による健康への悪影響が世の中で知られるようになってから久しいですが、これまでは個人レベルで健康増進に取り組むことがほとんどでした。
その流れがここ数年で大きく変わってきているようです。これまでは、健康診断を受診させたり、その結果をフィードバックして、禁煙を促したり、運動を指示したり、という働きかけにとどまっていました。これだけであれば、大きな企業が義務付けられている顧問医の仕事の範囲内です。どうせ法律上顧問医を雇用する必要があるのであれば、社員一人一人にアドバイスくらいはしてもらおう、という状況だったのではないかと思います。
ところが、上に並べたような社員の健康づくり支援はそうしたアドバイスとは明らかに異なります。何らかの設備投資や運転資金といった現金流出を伴う施策であるということ、また、法律的に義務ではない対応にも取り組んでいるからです。
「コスト」から「投資」への転換
民間企業の行動がここまで大きく変わってきたのはなぜなのでしょうか?
詳細な背景はよく承知していないのですが、日経新聞の記事や経済産業省のHPを見る限り、経営者層の意識として社員の健康を維持することは「コスト」ではなく「投資」である、という考え方に変わってきているようです。
既に日本国内の様々な業種で人手不足、採用難、人件費の高騰といった現象が現れてきています。労働力が不足すれば、本来得られたはずの事業利益が得られなくなりますし、業務に精通した従業員が離職すれば、その穴を埋める同僚に負担がかかる・新人の教育にも手間がかかる、といったデメリットが目立ってきますよね。
つまり一人の従業員が長く、安定的に働ける環境を確保することが、企業にとって大きな意味を持つようになったのではないか、と尾崎は考えています。そのための施策の一つとして、社員が健康を理由に業務からはずれないよう、会社が費用を負担してでも社員の健康維持に「投資」しようとしているのではないでしょうか?こうした社員の健康面への「投資」が経営判断となりつつあることを示す証拠の一つが次の図でもよくわかります。
平成29年9月に経済産業省が発表した「健康経営度調査」という調査報告説明資料を引用しました。こちらのスライドでわかることは、社員の健康管理の取り組み責任者の役職が企業上層部に上がって行っているということ。また、社員の健康維持に関する取り組みを推進する「責任者がいない」という企業が急激に減っていることも印象的です。
データからも社員一人一人の健康を維持することに対し、多少のコスト(金銭面でも、実務労力面でも)を払ってでも、社員に長く働いてもらったほうが企業にとってメリットがある、という価値観が広がっているのだと感じました。
社員の安全に投資する時代も間もなく?
社員一人一人に長く働いてもらう、という観点で言えば、病気だけではなく、怪我はもちろん、死亡事故も防止しなければなりません。これまで、安全への投資と言えば専ら工事現場や工場での安全管理が中心でしたが、もしかするとこの考え方も変わってくるかもしれません。
このHPでも何度かお伝えしていますが、日本企業の海外進出は近年増えています。日本国内の市場が先細ることを考えれば、当然の現象ですよね。
現時点ではまだ、「海外に進出すること」が目的として先に走っているように思いますが、海外に進出すれば当然、駐在員の健康と安全を守るための仕組みが必要になってきます。社員の健康への投資が当たり前になりつつある時代です。現時点では個人的な「予測」であり「勘」の域を出ませんが、遠からず社員の安全への投資も当たり前になる時代が来るのではないかと感じる変化です。