海外での安全配慮義務を履行するために(後編)

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予算措置よりも意識付けが重要

 

さて、ここまでお読みいただいた方の中には一つ違和感が残ったのではないかと思います。安全配慮義務の中に防御壁や防弾車、警備員など物理的な対応は必須ではないのか?と。

 

もちろん、派遣される国や地域の治安情勢によって、そういった物理的対策を一切講じないでいると企業・団体の責任が問われることがあります。しかしながら、例えばインドネシア、ベトナムやマレーシアのような東南アジアの国、インドやバングラデシュのような南アジアの国、ヨーロッパ各国といった日本企業が多く進出している国で防弾車がたくさん走っている、警備員なしには外出できないという国・地域はほとんどありません。

 

パキスタン地方部に移動する際の警備の事例。万が一襲撃された際に反撃、撃退するためには警備要員の数は5名以上、武器も相応のものが必要。

 

こういった物理的な安全対策を万全に講じるためにはかなりの費用がかかります。そして、その維持管理や運用にも継続的に費用が掛かってきます。よほど規模の大きな活動を行っていない限り、多額の予算を割くことは合理的ではないかもしれません。

 

その一方で、今回挙げた三点の対応に必要な予算は最小限で済みます。

 

1)渡航先の治安リスクを十分に説明する、派遣される人がそのリスクを理解できるように取り組む

2)現地治安情勢の変化を派遣する企業・団体が常に把握し、派遣されている人と情報共有を行う

3)万が一の事態が発生した場合に、派遣する企業・団体の対応が円滑に行われるようマニュアルや連絡網を整えておく

 

日本政府外務省や当HPなどが無料で公開している情報、ガイドブック等の整理するために必要なのはインターネットと数冊の本の購入費。

定期的に海外にいる関係者と情報共有・意見交換するために必要なのは通信設備(携帯電話で十分)とその通信費。

緊急事態発生時の対応マニュアルと連絡網の整備に必要なのは手間と時間と少しのコンサルティング費用。

 

つまり、海外に関係者を派遣する際、最低限の安全配慮義務を満たすために必要なのはお金ではないのです。上記のような対応を馬鹿にせず、しっかりとやり切ることができるかどうか。お金よりは経営陣や人事・総務部門のやる気なのかもしれません。

 

 

この項終わり