日本人の知らない海外での致死性感染症~野兎病編~

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アメリカ西部ユタ州での野兎病感染拡大の情報

2024年3月23日から4月上旬にかけ、アメリカ西部ユタ州で少なくとも10匹のビーバー等が野兎病(やとびょう)に感染し死亡したという報告がなされています。自然保護や野生動物の専門家からは本件異例の事態であること、野兎病は人間にも感染しうることから注意が必要であること、が注意喚起されています。こうした事態を受け、ユタ州自然保護当局は住民らに対し、死んでいる野生のビーバー等を見つけたら触らずに自治体や政府機関に通報するようよびかけを行っています。

現時点ではユタ州政府及びユタ州の地元メディアを中心とした英語での報道がほとんどのため、日本語で「野兎病」と検索してもグーグル等ではメディア記事は発見できません。しかしながらユタ州にはオリンピックが開催されたソルトレークシティに加え、多数の国立公園、隣接するネバダ州内の一大歓楽地ラスベガス等に繋がる幹線道路も走っています。

人の往来が多い地域で野生動物由来の感染症が広がり、人間へも感染する可能性が拡大したとなるとどのようになるでしょうか?はっきりと証明されてはいないものの、コロナウイルスによるSARS、MERS、そして皆さんの記憶にも新しいCOVID-19 も野生動物から人間にウイルスが感染した可能性が指摘されています。

現時点では「念のため」ではありますが、最悪の場合を想定して、この手のニュースにも気を配っておくことは大切なのです。

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バイオテロ対応ホームページにも記載される野兎病とは

さて、野兎病=やとびょうは知名度がそれほど高い病気ではありません。日本国内から海外に駐在や出張、あるいは留学で出発される際のワクチン接種対象となっている疾病でもありません。しかしながら、この疾病は人間に感染すると場合によっては命にも関わる病気です。

 

日本政府厚生労働省のホームページでも野兎病は紹介されています。現時点でヒトからヒトへの感染報告はないため、新型コロナウイルスのような世界的な急拡散までは想定されていません。しかしながら病原体は常に変異が起きるものであり、その毒性や感染性がどのように変化するか現代医学では予測しきれないというのもまた事実です。このため、まずは基礎知識としてこの手の情報を参照しておくことが重要になります。

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簡単に野兎病の特徴を整理すると

・ダニを介して感染する細菌による感染症

・日本では非常にまれだが、野生のげっ歯類等で菌を保有している動物がいる可能性がある

・感染した場合、高熱、筋肉痛、関節痛が全身に広がる。

・肺炎を伴う症状が出た場合、呼吸不全や全身性ショックにより死亡する事例もある

2004年8月フランスで同じ場所に滞在していた15人の発症患者が報告されている。

 

という事になります。

また、本疾病は厚生労働省研究班の「バイオテロ対応ページ」にも記載されている疾病です。バイオテロ対応ページに並んで紹介されているのは炭疽菌やウイルス性出血熱(エボラ出血熱等)、狂犬病、そしてSARS(コロナウイルス)と言った皆さんも耳にしたことがある病気が並んでいます。これらのリストに野兎病が入っている、つまり野兎病の原因菌を空気中に拡散させた場合には同時多発的に野兎病を発症する方が増えかねない、という事になります。

過去野兎病菌を用いたテロを起こした事例は報告されていませんが、日本政府厚生労働省のHPでバイオテロに使われる可能性があると記載されている点は注意が必要ですね。

 

野兎病を予防するために必要なのは、感染経路として最も可能性の大きい死亡した野生動物に触れない、ダニに刺されないようにする、感染が確認されている地域でジビエ等野生動物を食べない、の三点です。感染しうる経路を認識し、そのルートから自分を遠ざけることで感染確率はグッと下げられるのです。そのため、聞いたことのない感染症が流行っている、というニュースに触れた際にはその疾病の特徴を把握することが大切なのです。

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海外に関係者を派遣するなら日本で稀な疾病にも目配りが必要

海外に長期間滞在駐在する場合、安全対策と並んでご心配の種になるのは現地での体調管理です。今回ご紹介してきたような、日本ではほとんど問題にならない感染症への対策が必要な国もありますので、ご注意ください。日々の体調管理を除き、日本国内で準備ができる感染症対策と言えば、ワクチンの予防接種です。新型コロナウイルスのような新しい感染症とは違い、安全性や効果が検証済みのワクチンが用意されているという病気もたくさんあるのです。

 

野兎病を含め、世界各地で感染報告がある疾病について正確かつ網羅的に確認できるサイトとして厚生労働省の検疫所HP(FORTH)をご紹介します。

 

こちらのトップページにある地図をクリックすると、世界各地の国・地域が選択できるようになっています。例えばインドを選択して表示された情報をお示しします。具体的に現地の気候と気をつけるべき病気のリスト、そしてどのような予防接種を受けるとよいかまで丁寧に説明されています。こちらは日本政府厚生労働省の一部門が公開している情報です。日本語でまとめられた情報でこれ以上に信用できる情報はまずありませんので、海外駐在を検討される際、特に衛生環境や駐在前に必要な予防接種はこちらのページをぜひご確認ください。

 

なお、外務省の安全ホームページにも「感染症危険情報」という枠が設定されています。しかしながら、情報がない国の方が多いというのが実態です。いくつものサイトを確認しなければならないのは不便ですが、ここは日本政府の中でも医療、衛生を担当する厚生労働省のHPをご参照されることをおススメします。

 

新型コロナウイルスはある程度対応策が進み、多くの方がコロナウイルス感染をそれほど気にせずに過ごすようになりました。国境の封鎖措置や移動制限も撤廃されています。しかしながら、新型コロナウイルスを乗り越えたからといって人類が感染症の脅威から解き放たれるわけではありません。まして、海外に渡航し、現地でお仕事や学業面で活躍される皆様、現地で思いっきり楽しみたい旅行者の皆様にとって感染症でダウンしてしまうことは大変もったいない出来事です。その観点で、日本ではほとんど発生事例のない感染症、日本のメディアではほとんど報じられないへの警戒を怠ってはいけないのです。新型コロナウイルス以外の感染症にも十分注意を払い、情報収集と必要な予防接種のご準備をされるようおススメします。

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