【事案分析】モロッコでの北欧女性旅行客殺害事案

トップ画像は女性旅行客の遺体が発見された場所付近にあるアンリル村の遠景(GardianのHPで公開された参考写真よりキャプチャ)

事案の概要

〇 2018年12月17日モロッコ中部マラケシュの南方にある山中でデンマーク人およびノルウェー人の女性旅行客の遺体が発見された(遺体を発見したのはフランス人観光客のグループとのこと)

〇遺体が発見されたのはモロッコへの観光客にも人気のツブカル山エリアで、旅行客がよくたちよる地元のアンリル村から10キロほど離れた山中

ガーディアンのHPに掲載されている現場周辺の地図

〇殺害されたのは24歳のデンマーク人女性および28歳のノルウェー人女性の2名

〇遺体はいずれも首が切り落とされていた

〇現地治安当局は事件直後に容疑者1名を、3日後に残る3名を逮捕。テロの容疑で取り調べを行っておりISISとの関連を疑っているとのこと

〇逮捕された4名はISISに忠誠を誓うビデオに登場しており、本事件についても「欧米諸国によるシリアへの空爆に反撃するため」「神の敵である(欧米人を)殺す」と主張していた

〇ただし、犯行声明と思われるビデオに掲げられているISISの黒い旗は手書きの粗い作りであり、デンマーク情報機関は映像を精査中と発表。ISISとの関連を正式には認めていない

〇なお、現時点でISIS本体による直接的な犯行声明は出されていない。

   

 

簡易な分析コメント

〇本事案はモロッコの郊外でイスラム教過激派と思われる集団によって外国人が殺害されたテロとしては初めてのケースと言えます。

〇また、通常は優先的な殺害対象とならない女性だけを狙い、また首を切り落とすという極めて凄絶な手法でのテロ実行手法が特徴的です。

〇これまでモロッコはイスラム教徒が多いものの比較的穏健で、特に欧州各国のバカンス先となっていました。今回の事件により、既に当事国であるノルウェーおよびデンマークは自国民に対しモロッコ滞在中厳重な警戒(extreme caution)をするよう呼びかけており、モロッコ観光産業への影響は必至です。

〇事件を報じるニューヨークタイムズはモロッコ人でイスラム教過激派の活動を研究しているAbdellah Rami の以下の発言を引用しています。

「犯行がイスラム教過激主義に基づくものは明白だが、どういった組織による犯行なのかは不明。犯人グループが独自に実行したのか、長年モロッコに潜んでいたISIS戦闘員だったのかが重要なポイント。加えて、モロッコの基幹産業である観光に影響を与えモロッコ経済が標的だったともいえる」

“The ideological identity is clear, but the organization they’re affiliated to isn’t,” he said on Thursday of the suspects. “So the question is, did they commit this independently or was it a sleeper cell?”

He noted that the attack “targets very sensitive matters like tourism, which is an essential component of the Moroccan economy.” He added, “It is hard for the authorities to protect these areas and easier for organizations like ISIS to start operating in these places.”

〇犯行声明の映像が極めて稚拙なこと、これまでISISが優先的な標的としてこなかった女性だけを狙っていること、またこうした欧米人殺害時には「成果」を誇示する傾向にあるISIS本体からの犯行声明が出ていないことは重要なポイントです。捜査による詳細な情報が必要ですが、現時点では本件実行犯が独自にISISに傾倒し、ISIS本体の指示とは無関係に動いた可能性も考えられます

〇他方で、少なくとも4名のモロッコ人がISIS的な思想に共鳴し、外国人を殺害したことは大きな治安情勢の変化と言えます。類似の思想を持ったモロッコ人が存在する可能性は排除できません。

〇モロッコへの渡航を一切止める必要まではありませんが、これまでの治安情勢分析に基づくトラベルアドバイザリーよりも少し注意レベルをあげることを推奨します。(今後各国のトラベルアドバイス上も本事件を踏まえ更新されると思われます)

2018年12月21日時点での日本政府モロッコに対する危険情報
(事件発生地域も含め「レベル1:十分注意してください」)

〇なお、モロッコ人とISISの関連で言えば、2018年7月31日に発生した、フィリピンのミンダナオ島バシランでの自爆テロ実行犯がISISに所属するモロッコ人であるとされています。