【事案分析】フィリピン南部ヨロ島教会爆破テロ

トップ画像は爆発により内部が破壊された教会の状況(現地ABS-CBNニュースのHPが掲載した動画よりキャプチャ)

 

事案の概要

〇 2019年1月27日現地時間8時45分頃、フィリピン南部スールー州ヨロ島のカトリック教会を標的として、二回の爆発が発生

目撃証言によれば、一回目の爆発は教会の内部で発生し、警備要員や治安当局が駆けつけたところでより規模の大きな二回目の爆発が発生したとのこと。二回目の爆発はバイクに仕掛けられた爆発物によるものと報じられている

〇二回の爆発により、20名が死亡、110名以上が負傷した 

〇事件直後にISが傘下アマク通信を通じて犯行声明を発表し、2名の自爆犯によるものと説明

〇死傷者の大半は日曜礼拝に参加していた一般人だったが、一回目の爆発で集まっていた当局関係者も5名が死亡、17名が負傷

〇事件に関与したグループの一味が依然として逃走中であることを背景に、治安当局は現在もヨロを封鎖して捜査中

〇フィリピンのドゥテルテ大統領は事件翌日に現地を視察。事件への怒りを表明するとともに、当局の捜査を待って必要な対策を講じる旨発表

〇なお、現地当局は実行犯として、事件現場周辺でISと連携し、テロ行為を続けているアブサヤフグループの関与を疑っている。ただし、ISの発表と異なり、爆発は起爆装置を用いて引き起こされており、自爆の証拠は見つかっていないとしている。

〇現在当局は事件現場周辺の監視カメラに映っていたアブサヤフグループの副リーダーSurakah Ingogの弟で、爆発物製造担当であるAlias Kamahを特に追跡しているとのこと

アブサヤフグループの一味で、爆発物製造担当とされるAlias Kamahの監視カメラ映像(PhilstarのHPよりキャプチャ)

 

〇(1月30日追記)この事件の後、ミンダナオ島南部に位置し、スールー州ヨロ島ともほど近いサンボアンガのモスクに手りゅう弾が投げ込まれ、宿泊していたイスラム教指導者らが死傷する事件が発生。

〇(1月31日追記)本事件について、ドゥテルテ大統領は犯行声明通り夫婦二名による自爆だった旨発言治安当局は自爆だったかどうかはまだ結論を出していないと言及しつつも、ばらばらになった遺体の一つは自爆犯のものである可能性を含め捜査を進めていると発言。

 

簡易な分析コメント

〇本事案は治安事案が頻発しているフィリピン南部でキリスト教徒(カトリック)を標的とした爆弾テロです。ヨロ島を含むスールー州は日、米、英、豪の四か国政府ともに自国民に立ち入らないよう呼び掛けている地域でした。

〇一度目の爆発に対応するために治安要員が集まり、やじ馬も集まってきたタイミングを狙ってより規模の大きな爆発を引き起こしたとみられており、被害を大きくするための計画がうかがえます。

〇事件直後にISが傘下アマク通信を通じて犯行声明を発表しています。自爆犯2名が関与したとの声明内容を治安当局は否定していますが、発表のタイミングや爆発が二回あった旨の記載があるなど一定の信ぴょう性があると考えらえます。

〇犯行声明に信ぴょう性があると考えられるもう一つの要素は今回の事件現場周辺地域で過去ISに忠誠を誓う地元武装勢力アブサヤフグループが繰り返し治安事案を実行している点です。当HPが把握している限りにおいて、2017年1月以降ヨロ島では13件の治安事案が発生しておりアブサヤフグループ/ISの関与が疑われています。

〇今回の事件の直接の標的はキリスト教徒であり、また爆発被害者救助のために集まるであろう政府治安当局者であることは疑いがありません。明確な標的に対し、十分に計画された爆発テロであり、爆発物製造も含め、組織的に実行されたと言えます。

〇今回の事件は、長らく紛争が続いていたミンダナオ島を含む地域でイスラム教徒を中心とした自治政府の設立可否を問う住民投票が行われた直後(投票は1月21日)に発生したものです。事件が発生したスールー州を含むエリアで300万人弱の有権者が新しい自治政府に参加するか意思表明を行ったタイミングでの犯行は地域和平の動きを妨害する意図を感じさせます。

特にスールー州は住民投票が行われた行政区分では唯一バンサモロ基本法に反対する声が大きかった土地柄です。投票結果の正式発表前ではありますが、一部強硬派がフィリピン政府や治安当局に対する徹底抗戦を表明するために、事件を計画したとも読み取れます。

〇今後住民投票結果の正式発表や、バンサモロ基本法の施行、新しい自治政府の設立など重要なイベントが続きます。それぞれの節目でキリスト教徒が集まる教会や治安当局の拠点、フィリピン政府関係施設などへの攻撃が計画、実行される可能性は否定しきれません。

〇事件現場を含むスールー州はこれまでもアブサヤフグループ/ISが爆発事案や襲撃を繰り返しており、主要政府は自国民に対し立ち寄りを控えるよう呼び掛けています。よほどの必要性がある方もしくは現地の土地勘がある方を除き、スールー州への渡航はおススメできません。