安全対策担当者は情報に踊らされてはいけない

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もっともらしい情報の飛び交うコロナウイルス対応

世界的な新型コロナウイルス感染症の影響が継続しています。

大規模な自然災害の直後もそうですが、今回の感染症拡大の際も「もっともらしい」けれど根拠のはっきりしない情報が拡散しているようです。

 

この食品がウイルスを殺す

ぬるま湯を飲むとよい

このサプリメントを飲むと免疫が高まる

 

という個人レベルの話もあれば、

 

どこそこで感染者が大量発生している!

〇〇病院で医療崩壊が起こっている

医療関係者の情報では、こうすると診断/治療が受けやすいらしい

 

という医療面の情報も多く飛び交っています。特に医療面の情報は一般の方が専門知識を持っておらず、「もっともらしい」情報が拡散しやすい傾向にあるのかもしれません。

 

行き過ぎた事例としては、政府が死者数を隠している、であるとか新型ウイルスは生物兵器であるとか、完全に根拠不明の陰謀論も流れているようです。命に関わる感染症ということで、不安を感じる方も多いと思いますが、今一度冷静に、正しい情報が何なのか立ち止まって考えていただくことをおススメします。加えて、個人として事実かどうか確認できない情報をSNS等で拡散することも控えていただく方がよいと当サイトでは考えています。

 

実際に熊本県愛知県警といった公的機関も不確かな情報をSNS等で拡散してしまったとして謝罪を発表しています。個人レベルで根拠を確認することは難しいかもしれませんが、パニックによる買いだめや不安を煽りすぎることのデメリットを考えれば、不用意に情報を拡散してよいことはありません。

 

企業や団体の安全管理においても似たようなことが言えます。従業員・関係者の命に関わる措置を誤った情報、不確かな情報に基づいて判断してしまうと、その結果は破滅的です。

 

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大きなテロの直後も不確かな情報が飛び交う

世界的な感染症拡大とは別に、海外に進出する企業や団体が安全対策上気をつけなければならないのは大きなテロ等緊急事態が発生した直後の情報の扱いです。

 

例えば2019年1月、スリランカで発生した同時多発テロの際を例に説明してみましょう。日本はもちろん、アメリカ、イギリス、オーストラリアもスリランカに対するリスク評価を引き上げました。現地治安当局も過去にないほどのレベルで疑わしい関係者を摘発し、あちことで爆発物やISを模した旗なども押収しています。こうした事件の直後は報道も過熱しますし、現地に従業員・関係者が派遣されている企業や団体であれば経営層も担当者により多くの情報を早く持ってくるよう指示するでしょう。何でもかんでも情報を共有すればいいというわけではないのです。

 

 

さて、スリランカの大規模テロに関連して、特に事件発生直後に多くの情報が飛び交いました。同時にいくつの爆発があったのか、死者がどのくらいだったのか、犯人は誰だったのか、などなど。取材力や情報源として高い信頼性を誇る英BBCでも爆発直後には、コロンボ市内コッホチェード地区にあるセントアンソニー教会の場所をコロンボから北約30キロのコッホチェード行政区と間違って表示していました。(このため、当サイトの速報ではBBCの引用ができず、独自で爆発発生地の地図を作製しました)

 

 

合計8件の爆発があった日の夜にはコロンボのバス停付近で87個の起爆装置が発見されたのですが、英語メディアはもちろん、日本のメディアも速報は以下の通りでした。

colombo-bomb-or-detonator

実際に発見された物体の写真はこちら。

detonators-at-colombo-bus-stop

警察の発表では「detonators(起爆装置)」となっており、写真で見てもただのつぶれた鉄の棒で中身は空洞に見えます。もし爆発物だとすれば、警察が爆発物処理を行わず、捨てられた状態のまま長さを測ったりするわけもありません。

 

上記の二例とも「フェイクニュース」とも言えなくはないのですが、事件後の混乱に伴う速報時の誤情報はよくあること。こうした速報の誤りはどんな報道機関にも起こりえますし、後ほど事実誤認であることを認める前提で許容しなければならないでしょう。

 

 

各企業、団体で関係者の命を預かる安全対策担当者の皆さんは大きな事件直後には各種情報が錯綜すること、そして速報には(悪意のない)誤りも含まれていることをぜひとも認識していただきたいと思います。

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冷静に複数情報を重ね合わせることで事実を浮き彫りに

特に大きな事件の直後やセンセーショナルなニュースの直後には未確認情報や出所が不確かな情報が飛び交います。報道機関は重要性が高いと判断すればニュースを発信してしまいますし、悪意のない大勢もSNSやブログ等でその情報を拡散します。つまり、スリランカでの同時多発テロのような事案の直後には正しい情報も誤った情報もスピード最優先で広がってしまい、本当に正しい情報だけを把握することは極めて難しくなってしまいます。

 

また、「有識者」とされる方々も時として未確認情報を基に取材を受け、コメントを発することがあります。こうなってくると、結果的に誤った情報を踏まえた分析が報道機関等を通じて広がってしまい、余計に事実が何だったのかよくわからなくなってしまいますよね。「よりインパクトのある情報を掲載しよう」という傾向は何事も煽りがちなインターネットメディアのみならず、大手メディアでも存在しています。ですので、例えば今回のスリランカの事案を例にすれば

 

「スリランカで何百人も死んだ、ISが関与しているかもしれない、さらに爆発物も見つかった、危ない!」

 

といったストーリーが拡散してしまうのも無理はないのです。

 

 

ただし、こうしたストーリーが本当に正しいかどうか、は常に冷静に見極めなければなりません。特に関係者の命を預かる安全対策担当者は

 

 数多く流れている情報だから正しい、

 大手メディアが掲載している情報だから正しい、

 有識者がコメントしているから正しい、

 

と何事もうのみにしてはいけないのです。自分の感情や、先入観は横に置いて、本当に間違いのない事実は何なのか?そしてそこから導き出される合理的な見解にどのようなものがあるのか、冷静に考えなければならないのです。

 

スリランカの事案でも報道が誤っていたケースは多々ありました。

 

当初報じられた爆発の発生場所が正確ではありませんでした。

その後見つかったのは爆発物ではなく、捨てられていた起爆装置でした。

死者数も当局発表の訂正に伴い、突然100名減ることになりました。

 

安全対策担当者の役割はメディアやインターネットで流れてくる情報を経営層にそのまま伝えることではありません。健全な疑問を持って、メディアに踊らされず、裏が取れている事実とそこから導き出されるいくつかのシナリオを伝える必要があるのです。

 

安全管理の世界で、(たとえ悪意がなくとも)誤った情報が広まってしまうことは無理からぬこと。だからこそ、安全対策の担当者は緊急事態が発生した時こそ冷静にならなければなりません。どんなに派手なテロ事案が発生した際でも、どんなに世界的な大問題が発生しようとも、どんなに報道が過熱している時でも、氷のように冷静に、情報を多方面から集めて事実関係を検証しなければならないのです。

この項終わり