システム開発の内製化が始まっている
11月27日、日本経済新聞が興味深い日本企業の動きを報じていました。これまで業務の効率化や経費の削減を目的に多くの日本企業が進めてきた「外注」=アウトソーシングの流れが変わりつつある、というのです。
『システム開発丸投げ脱却 小林製薬や良品計画、DX急ぐ』
これまで各企業で使われる経理や営業管理用のシステムは大手ベンダーに一括して外注することが一般的でした。大手ベンダーは各社の希望をあらかた聞きとった上で、顧客企業の手を煩わせずにシステムを開発する、顧客企業は「こんな風に仕事ができるようにして」とお願いして任せれば終わり、という利便性が評価されてきたのでしょう。また、発注者である企業側からすれば、エンジニアやウェブデザイナー等の人件費を負担することなく、またその作業の管理監督をする人材も雇用することなくシステムが出来上がるのでIT投資を節約できる、という利点も強調されてきました。
ただし、近年「外注して終わり」=丸投げを行うことのデメリットも目立つようになってきました。
例えば
発注側の意図を反映するための仕様打ち合わせに時間がかかる
事業現場の変更に応じたシステムの柔軟な変更が難しい
外注により、自社内に必要なノウハウが蓄積されない
といった点が、懸念材料として指摘されているようです。加えて、外注時の費用は一見安くなるものの、運用・維持管理のコストもシステムを構築したベンダーに支払い続けることをよしとしない企業も増えているようです。
これを踏まえ、例えば小林製薬や「無印良品」で有名な良品計画、日清食品ホールディングスなど比較的有名な企業がITシステム開発の外注化を取りやめる動きが目立ってきているのだそうです。大手ベンダーに開発や開発人材の管理を任せるのではなく、自社の内部人材としてエンジニアやデザイナーを直接雇用する会社も出てきています。
事業環境の変化スピードが早すぎて、外部の企業と打ち合わせを繰り返す余裕がない、都度柔軟にシステムを変更できるように事業の方向性を理解している人とエンジニアが直接やりとりできるようにした方がよい、自社内でノウハウを蓄積したいという意図もあるように思います。
ITシステムに対し、「単なる道具(ツール)であり、外部から買えばいいもの」という発想ではなく、自社の事業戦略と表裏一体、ツールというよりも経営計画の一部と言ってもいいような存在になりつつあるのかもしれませんね。
重要な機能こそ自社内で対応すべき
こうしたITシステム開発について、日本とアメリカのアウトソーシング状況を調査したデータがあります。日本の国家機関である情報処理推進機構(IPA)が発行するDX白書で調査結果が報告されています。
同調査によれば、日本とアメリカにおいてそもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組み率に違いがありアメリカの方が進んでいるという説明がなされています。それ以上に我々が驚いた統計がこちらの図に表現されています。
日本では自社の根幹的価値に関わる「コア事業」ですら外部委託に依存する傾向が高いというのです。アメリカでは約57%が内製による自社開発を行っており、外部委託による開発を行う約21%と比して圧倒的に内製化が進んでいます。対して、日本では内政による自社開発も外部委託による開発もいずれも約31%。
根幹的価値に直接影響しない部分でツールとして外部からシステムを購入する、外部に作業を任せるというのは業務の効率化やコストカットの観点から理解はできます。しかしながら、本来自社が直接関与し、他社との差別化を図らなければならない部分。本質的価値を担う領域で、外注に依存していては将来的にその企業の価値を棄損してしまわないでしょうか?経営戦略上重要な機能こそ、正しく内製化することでノウハウの継続、適切な投資を実現したいですよね。
加えて、ITシステムの開発・維持管理業務を外注し、委託先に任せきりにした結果委託先の主張を受け入れざるを得なくなる、というケースや異なる委託先に別々に発注したシステムを統合できず、非効率なシステム活用を継続せざるを得ないケースもあります。ある種システムを「人質」に取られた結果本質的な事業戦略に制約が加えられるとすれば、ツールを優先して事業目的が達成できないという本末転倒な結果にもなりかねません。
このコラムではITシステムについて主に書いていますが、我々の本業である安全管理についても同じようなことが言えます。安全管理はセキュリティコンサルタントへの外注ですべて解決、保険会社と契約しているからOK、という考えで本当に問題ないのでしょうか?ツールとしてのセキュリティコンサルタントや保険の活用は必要です。しかしながら、皆さんの事業の本質的価値を担う人材の命を会社が直接守る必要はありませんか?ボディーガードや警備員を直接何人も雇用する必要はありませんが、安全対策の本質を理解し、いざという時に自社内の人材として危機管理対応を指揮できる内部人材、部門はこれからの時代必要不可欠でしょう。
本来企業にとって重要な人材をどのように採用し、どうやって活用していくか、安全・健康を担保していくか、は事業戦略の中でも最も中心に位置していないければならないように思うのです。新型コロナウイルス禍で世界的に安全管理・健康管理の重要性が再認識されている今、ぜひとも考えていただきたい問いかけです。
正しい内製化に経営層の覚悟と学習は必須
ただし、ITシステム開発にせよ、自社従業員の安全管理・健康管理にせよ、企業の・団体の事業継続に関わるテーマについては
担当部門に指示は出したし、後は任せておけば大丈夫だろう
というスタンスでは絶対にうまくいかないことも事実です。担当部門がしっかりやればいい、というスタンスで進めてしまうと外部の委託先がシステム開発部門なり危機管理部門なりに置き換わるだけで「社内外注」に陥る危険性もはらんでいます。本来システムも安全管理・健康管理の仕組みはあくまで事業目的達成のためのツール。そのため、ツールの開発や運用を担当する部門と事業に直接関わる人々、特に事業現場の最前線にいる人が腰を据えてコミュニケーションし、密に連携して開発・運用しなければ意味がありません。そしてその全体統括、複数の部門間の調整・調停ができるのは経営層の皆さんだけです。
つまり、正しい内製化、効果的な内製化のためには経営層の皆さんが事業戦略を再認識し、事業目的達成に向けてどのようなツールが必要なのかを明確化することが必要不可欠なのです。そして、事業を担う方々とツールを開発・運用するシステム部門/危機管理部門双方の働きを理解していなければなりません。そのための覚悟と経営層の現場理解力がなければ会社にとってあるべき内製化は実現できないでしょう。
安易な外注や「社内外注」に陥らないためにも、事業戦略上何が大事なのか、を考えて内製化を検討いただきたいと思います。もし、安全対策/健康管理の分野でどのように内製化を進めるか意見交換をしたい、具体的にどこを内製化し、どこを外部委託にするか再検討したい、といったご相談は喜んで承ります。
弊社の代表はリスクの高い国・地域で直接安全管理業務を担ってきた経験に加え、JICA(国際協力機構)の安全管理部立ち上げ時に多くのセキュリティコンサルタント、外務省、警察関係者等への外部委託も経験してきた日本でも希少な存在です。皆さんの課題をどのように解決すればよいか、複数の外注先候補のご紹介も含めいつでもご相談をお受けしますので、お気軽にお問合せを頂ければと思います。
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