成功率が高く、「コストパフォーマンス」のよいテロとは?
前回の記事では「ヒト・モノ・カネ・情報」を駆使して目標を達成する点でテロとビジネスは似ていることを指摘しました。テロリストは全くの思い付きで標的を決めているのでもなければ、なんの準備もなしに攻撃を行っているわけでもありません。ビジネスのプロジェクト同様目標を定め、人材(実行犯)、施設・設備(武器や爆弾、車両等)、資金(給料や弔慰金、隠れ家の家賃等)、情報(標的の行動、警備状況)を準備しなければテロとて成功しないのです。
読者の皆様にとっても、テロリストの考え方はわからなくても、ビジネスで成功するための判断は想像しやすいと思います。そこで、今回は、テロリストの思考回路を想像しながら、どのような方がテロの被害に遭いやすいのか考えてみましょう。
ビジネスで以下の二つの選択肢があるとすれば、皆さんはどちらにクロージング営業を行いたいでしょうか?
A:商品の内容や原価構成を熟知し、できるだけ低価格で購入しようと交渉してくる相手
B:商品のメリットを理解しているが、価格設定や原価構成にはあまり詳しくない相手
では以下の二つの選択肢があるとすれば、どちらに投資しますか?
A:利益が見込める新規事業だが、政治情勢が不安定な国で、財務状況が一部不透明な現地企業との合弁案件
B:政治的に安定している国で、付き合いの長い健全経営の現地合弁パートナーと既存事業の拡大を試みる案件
正直に申し上げれば、上記二問ともビジネス上は「迷い」が生じないくらいの二択です。賢明な読者の皆様であれば、二問とも迷わずAではなくBを選択するのではないでしょうか?ビジネスにおいては、労力を抑えつつ、より低リスクで、より多くのリターンが得られることが重要です。
一問目であれば、きったはったの交渉を長時間行って、ある程度の値下げをしながらクロージングに向かっていくAと、値段がそれなりに適正であることさえ示せばクロージングできそうなB、迅速に契約まで持ち込めそうで、値引き幅も少なくてすみそうな後者を選ぶでしょう。
二問目であれば、将来の見通しが立たないAよりは、既に実績があり、外部要因の影響も少ないと思われるBのほうが圧倒的に魅力的なはずです。よほど将来への布石として取り組む必要があるか、もしくは政治的な背景がなければBよりもAという選択はしないでしょう。
では、ビジネスの観点でテロを考えてみましょう。テロリストも「ヒト・モノ・カネ」にはある程度の制約があります。そのため、限られた人材、限られた物資、限られた資金でできるだけ目標達成に近づくようにしたければ、より成功率が高く、より簡単な方法で(失敗のリスクを抑え)、より大きなインパクトを与えられるような計画を立てたいと考えるのです。
効率の良いテロで狙われるのは・・・
それでは、効率よく成果があがるテロとはどのようなものでしょうか?
先ほどのビジネスクイズのように、二択で考えてみましょう。
A:治安当局が頻繁に警備を行っており、周辺の人々も何か不審な動きがあれば、すぐに警戒態勢をとる場所
B:大勢の一般人がお祭り気分で集まり、治安当局が警備をしているものの警戒に限界がある場所
あなたがテロリストなら、どちらの標的に狙いを定めますか?
おそらく答えはBになるはず。テロへの警戒が薄い一般人が大勢集まり、警備が十分に行き届かない場所は圧倒的に狙いやすいです。また、爆発や銃撃を起こしたとして、死傷する人の数が多いのもBです。つまり、「低リスクでかつ効率よく被害を広げられる=大々的に報じられ、テロリスト側の主義主張が広がりやすい」選択肢がBということになります。
もう少し具体的に考えてみましょうか。例えば霞が関や永田町のような官庁街などはAに当てはまるでしょう。外国で言えば、観光地としていろんな人が来るものの、警備が極めて堅いホワイトハウス、バッキンガム宮殿などもこちらですね。他方で、何らかのお祭り会場や大規模な路上イベントはBに当てはまります。
近年、海外で発生しているテロにはBに当てはまるようなものがいくつも含まれています。例えばフランスニースで発生した花火大会へのトラック突入(80名以上が死亡)、ドイツベルリンで発生したクリスマスマーケットへのトラック突入(12人が死亡)などは典型的なBの事例です。
さて、ここまで読んでいただきありがとうございました。テロリストの思考回路をなぞってみましたが、最後に一つ問いかけをさせてください。
皆さん自身はテロリストから見て「A:警戒が固く狙いにくい存在」でしょうか、それとも「B:大勢の人が集まる場所に警戒なく近寄る狙いやすい存在」でしょうか。テロで被害に遭った場合、当然悪いのはテロリスト側です。ただし、テロリスト側に狙われやすい、もしくはテロに巻き込まれやすい体質を持っていないか、皆様ご自身でもチェックしていただければと思います。
もし、この記事を身近な方にも読んでもらったほうがいい、とお感じになったとしたら、大切なその方にも是非情報共有していただけると幸いです。
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