テロや暴動は一定程度予測できる
気が付けば2024年も12月を迎えました。2023年後半から本年は「選挙イヤー」であるとの指摘が多くなされていました。ご存じの通り、全世界に影響が及ぶアメリカ大統領選挙をはじめ数多くの選挙が終了した一年でもありました。来年1月からはトランプ大統領の第二期目が始まり、より一層世界情勢は見通しづらいタイミングになってくるものと想定されます。
ただし、各種の混乱やテロ・襲撃等がまったくのランダムで起こっているわけではありません。自然災害のように人智の及ばない、現代科学でも全く予見不可能な種類のものではなく、人が引き起こすトラブルは一般の方が思っている以上に予見が可能な事象です。リスクが高まりやすいタイミングで、リスクが高まりそうな国には近づかない、というのがトラブルを避ける絶対原則です。
企業の皆さんの場合、通常の海外出張申請/承認手続きは費用とルート、そして業務の目的が問題なければ承認されているのではないでしょうか?しかしながら、何らかのリスクイベントがあるなら、そのリスクに応じた心構え、安全対策ができますよね。リスクの高そうなタイミングでは出張を控える、あるいはリスクをある程度含んだ上で従業員・関係者を業務に送り出さざるを得ないのであればそれ相応の心構えと現地の物理的対策を指示する。出発前の時点で渡航先のイベント等が把握し、出張承認の条件を設定するといった決裁プロセスを構築するだけでも、企業・団体としての安全対策は一歩前進です!
もちろん、我々のような安全対策コンサルタントと呼ばれる人間も、未来が見える予言者ではありません。このため、正確にいつ・どこで、どのような事件が発生するか読み切れるわけではないのですが、世界情勢やあちこちの過激派武装勢力のこれまでの実績、声明文、各地でのイベント、政治情勢などを把握している人間にご相談いただければ、テロや襲撃、暴動などが発生する可能性をいくつかのシナリオを基に想定することが可能なのです。
当サイトで繰り返しお伝えしているように、海外における安全対策の第一歩は事前の情報収集です。どんな背景で、いつぐらいに事件が発生しやすいのかを把握することができれば一定程度リスクを事前に回避することが可能ですよね。過去日本人が海外でテロや襲撃の被害に遭ってしまった事例は存在しますが、日本人だけを標的として狙い撃ちされた事例はありません(一般犯罪の延長や個人的怨恨による殺人事件等は別の話です)。 皆さん自身が直接攻撃を受けるような身に覚えがない場合、被害が発生するとすれば誰か別の人や場所を狙ったテロや襲撃による巻き添え被害となります。そのため、海外でテロや襲撃による被害を避けるためには皆さんご自身というよりも、攻撃が発生しやすい時間帯に、攻撃が発生しやすい場所にいないこと。巻き添え被害を避けることが大切になってきます。そして、巻き添えに遭わないためには以下の三つの「カン」が大切です。
1)空間:テロが起こりそうな空間に近づかない
2)時間:テロが起こりそうな時間を避ける
3)観察力:テロの予兆がないか観察する
空「カン」、時「カン」、そして「カン」察力。上記三つを意識すれば、意識しない場合に比して被害を受ける確率を格段に下げることができます。
特に重要なのは1)空間、と2)時間、です。こちらのコラムで詳述していますが、テロや襲撃の実行犯/実行グループもやみくもに事件を起こしているわけではありません。そのため、特に大規模なテロや襲撃は、事前に狙われそうな場所、狙われそうな時期・時間を多少なりとも予測することが可能なのです。
【参考コラム】「テロは〇〇〇〇に似ている!?」
『リスクカレンダー』という考え方
リスクの高まるタイミングやその対象国・地域は専門家でなくてもわかるのでしょうか?という問い合わせも多くいただきます。もちろん全く何も基礎知識がなければ調べていただくことは難しいかもしれませんが、例えば
渡航先滞在中に現地の大型連休、祝祭日等がないか?
渡航先滞在中に現地で政治イベント(選挙、首相等の就任式など)がないか?
渡航先滞在中に世界的な宗教行事がないか?
あたりは海外進出先の一般的なビジネスリスクとして、現地カレンダーから調査が可能と考えます。日本語のサイトであれば日本貿易振興機構(JETRO)でも各国の祝日情報などはまとまっていますので、ぜひご参考になさってください。危機管理を専門としない方でも調べられる範囲ではないかと思うのです。そして、これらは危機管理以上に皆さんの海外業務をスムーズに進めるためにも必要な情報だと思います。日本でいえば、お正月に海外の方が出張されても業務上ご案内できるところがほとんどないので、「スケジュールを再検討しましょう」という提案をされるはずですよね。せっかく旅費をかけ、日程を費やして海外出張するのであれば、業務停滞リスクがないタイミングで出張に行こうというのが自然な発想ですし、一般論としてはそのようなタイミングを避けるだけである程度危機管理上もリスク管理ができるのです。
ただ、何度も特定の国に出張を繰り返される方や、世界各地を飛び回るビジネスパーソンの皆様は都度出張先のあれこれを調べるのは面倒になってくるかもしれません。インターネットで検索すればある程度の情報は揃うとは言え、調べる頻度が多くなれば、だんだんと嫌気がさしてくるというもの。
そういう場合に活用いただきたいのが『リスクカレンダー』です。あらかじめ、世界各地の宗教上のイベントや主要国の政治イベント、伝統行事などを整理し、一覧表にまとめておくと大変便利です。そして出張前、ご旅行前に、こちらのカレンダーをちらっと眺めていただき、ご滞在期間中に大きなイベント等がないかを確認するだけでOK。もし、なにかイベント等があるようであれば、そのイベントが滞在先でどんな影響があるのかを調べればよいのです。 例えば、実際に出張に行く方であれば、ご自身の出張時期に現地でどのようなイベントがあるのか、皆さん自身が現地でトラブルに巻き込まれやすい要素は存在していないだろうか、ということをリスクカレンダーを参照することでスピーディーに調査して頂くことが可能になります。実際に出張に行く方だけでなく、出張計画を承認する側の管理職の皆さんもリスクカレンダーの活用方法があります。それは予算・出張期間や出張目的に加えて、出張している時期が現地のなんらかのイベントに重なっていないか確認し、もしリスクが高いようであれば少し出張時期をずらせないか検討依頼を出すことが可能になりますね。
このリスクカレンダー、一定の基礎知識と作成技術があれば各宗教のイベントや祝日や各国の伝統行事等を調べるのはそれほど大変ではありません。ただし、多忙なビジネスパーソンのみなさんがそうした基礎知識や作成技術を身に着けるのはなかなか時間が足りないと思います。このため、皆様の安全確保に役立てばと考え当サイトでは毎年12月頃に翌年分のリスクカレンダーを無料公開しております。(前年12月の時点では日程が未定のものも多いため、随時アップデートしています)2025年分の最新版はこちらのリンクからご確認ください。
2025年版リスクカレンダー(無料ダウンロード可)
もし、皆さんの企業・団体で特定の国に対するより詳細なリスクカレンダーが欲しい、という場合には当方お問合せ窓口からコンサルティングのご相談をお願いします。オンラインないし対面で、皆様の海外展開状況を把握し、適切なカスタマイズをさせていただきます。
来年世界的にリスクが高そうなのは3月、7月、10月
当方が無料で提供している来年2025年のリスクカレンダーを眺めてみると、あくまで現時点での推測ですが、以下3つの月がちょっとリスクが高まりそうかなという想像ができます。その3つの月とは以下の通り。
3月=イスラム教のラマダン月
7月=アメリカ独立記念日/フランス革命記念日
10月=イスラエルとパレスチナ武装勢力の衝突開始から2年
3月はイスラム教のラマダン月間(イスラム教の暦上、第9番目の月)で、イスラム教徒の多い国では断食が原則義務付けられる一か月です。この時期には宗教行事も多く、2025年に限らず例年注意が必要なのですが、今年は特にイスラエルと周辺国の衝突に端を発してイスラム教徒らの反感は高まっており、例年よりも高めの警戒が必要ではないかと考えています。
7月は国民間の分断が深刻になっているアメリカの独立記念日である7月4日前後のリスクの高まりには注意が必要です。2025年1月に就任するトランプ大統領の政策や米国景気次第で情勢がどうなるか、現時点では読み切れませんが「独立の精神」を盾に大規模な反政府運動、あるいは意見の異なるグループ同士の衝突が発生してもびっくりはしない時期です。また、欧州でも反移民主義やロシア、イスラエル問題への対応等で国民間の分断が広まっています。特にフランスでは国内に多様かつ強硬な主張をする7月14日の革命記念日前後や関連イベントを標的としたテロや襲撃には注意が必要と考えています。加えて、日本ではほとんど知られていませんが、イスラム教の暦でラマダンの次に神聖なイスラム教暦第9月=ムハッラムが来年の7月である点にも注意が必要です。
10月はイスラエルとパレスチナ武装勢力の衝突が開始してからちょうど2年の節目を迎えます。現時点では来年の10月に衝突が継続しているかは見通せませんが、イスラエルによるパレスチナ人への大規模な攻撃に対して反発が根強く残っていることはほぼ確実と言えます。組織だってイスラエルあるいはイスラエルを支援する国々に対抗するための計画をじっくり練っている組織があるとすれば、その攻撃のタイミングはイスラエルがハマスを含むパレスチナへの攻撃、そして一般のパレスチナ人への攻撃を強めた10月が想定されると考えています。大きな衝突が再度発生した場合には中東一帯で再び領空封鎖等も起こりえる可能性は否定しきれないと言えるでしょう。
半年以上先の話も含まれていますので、鬼も半笑いというところでしょうが、今から警戒できることは警戒しておいて損はありません。例えば来年3月、7月、10月に上記で触れた地域では少し駐在者や出張者のリスク対応を強める心構えがあってもよいでしょ
当サイトではこれから先、順次リスクカレンダーを更新し、無料で公開していきます。上記の見通しはあくまで2024年12月初めのものであり、今後の更新情報にも十分ご注意下さい。
この項終わり