タイの観光地で相次ぐ「自撮り」死亡事件
2019年11月14日、タイの観光地サムイ島(Koh Samui)で33歳のフランス人観光客が自撮りをしようとして誤って滝に転落し死亡しました。同じ滝では7月にも別の観光客が同様に自撮りをしようとして足を滑らせ転落死しています。
また、2020年12月には新型コロナウイルスの感染をかなり抑え込んでいるオーストラリアで38歳の女性が写真撮影の際、崖の上から80メートル転落して死亡しました。
悲惨な転落死と言えば、2018年中米パナマで、「自撮り」をしようとしていた女性が27階のバルコニーから転落し、死亡しました。ツイッター上では、この女性の転落の瞬間をとらえた動画も公開されていますが、ここでは、転落前の様子だけ静止画で紹介します。報道によれば、この女性はポルトガル人の教師で、二人のお子さんがいたそうです。大変痛ましい事故としか言いようがありません。
タイの観光客やパナマ駐在中の女性教師がなぜ、これほどまでに危険な状態で「自撮り」をしようとしたのか、はわかりません。が、命を賭けて「自撮り」をする価値があったのか、疑問を持たざるを得ない状況です。
こうした事故が単発のものであれば、当HPで取り上げるまでもないのですが、残念ながら実際はそうではないようです。皆さんも知らず知らずリスクを冒しているかもしれませんので、世界的な統計も踏まえて「自撮り」事故の実態をご説明します。
2011~17年の「自撮り」死者数は報じられているだけでも250人以上
過去インドの医療研究所が「自撮り」事故に関してまとめた研究論文が発表されています。
この論文は2011年10月から17年11月までの約6年間、グーグル等の検索で確認できた「自撮り」事故の情報をまとめたものです。要点を整理すると
・過去6年での「自撮り」死亡事故は全世界で259件に上る
・死亡原因は溺死や交通事故死、転落が多い
・事故の約半分は20代。次に10代の被害が多い
・事件数は年を追うごとに急激に増加中
(2013年2件、14年13件、15年50件、16年98件、17年93件(ただし11月まで))
・状況がわかる死亡事例の内、客観的に「リスキー」な行動と判断される事例は約7割に上る
といったところです。思っている以上に死亡者数が多くて驚きました。
テロや襲撃による死亡者数は一年で6000人以上(2017年)になることもあります。これと比べれば少ないように見えますが、「自撮り」事故は治安や政治情勢が不安定ではない地域でも発生しうる点でリスクの種類が異なります。安全な国だから旅行/留学先に選んだ・・・にも関わらず、自分自身で「リスキー」な行動をとって結果死亡する、そんな事態が望ましくないのは言うまでもありませんね。
あくまで危険を冒しがちな外国人が世界中で「自撮り」死亡事故を起こしているのであって、日本人は関係ないとお考えでしょうか?残念ながら日本人もインドのタージマハールにある門の上で「自撮り」をしている最中に転落死(2015年9月)しています。本稿をお読みいただいている方の中でも、「自撮り」がお好きな方にとっては他人事では済まないかもしれません。
一瞬で人生を失うよりも、人生の中の一瞬を失うほうがマシ
最後に冒頭紹介したパナマでの事故死を踏まえて、現地消防が呼び掛けている「自撮り」事故死防止のツイートをご紹介します。
タイトルは「あなたの人生は『自撮り』よりも価値がある」(Tu vita vale mas que una SELFIE)。
・歩きながらの「自撮り」
・電車等を背にしての「自撮り」
・船に乗っての「自撮り」
・野生動物と一緒の「自撮り」
・銃器を操作しながらの「自撮り」
・高い建物の端での「自撮り」
・交通機関を横切りながらの「自撮り」
・崖などでの「自撮り」
これらはみんな、危険なのでやめましょう、との呼びかけ。同国消防は、「(自撮りによって)人生を一瞬で失うよりも、(自撮りをする)人生の一瞬を失うほうがよっぽどマシ」とも訴えているとのこと。まさに、その通りですね。
当HPで、海外の治安情報やテロ対策などをしっかり予習して、万全の体制で渡航されても、「自撮り」事故で命を落とされては、本末転倒です。海外旅行中や出張中はそこでしか撮れない写真も多くあるでしょう。写真という記録を残しておきたい気持ちもよくわかります。が、「自撮り」に命を賭ける意味があるのか、は今一度冷静になって考えていただければと思います。
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