安全対策の費用対効果を定量化してみると…投資額の何倍の効果があると言えるか

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安全対策は『コスト』ではなく『投資』であるという視点

企業や団体にとって、安全対策に関する費用は長らく「コスト」として扱われてきました。予算会議で安全対策費と聞けば、真っ先に削減対象にされることも珍しくありません。実際、世界中で24時間365日の情報収集とアシスタンスを提供する包括契約は高額であり、「必要な国・地域だけカスタマイズでき、かつ安価だ」ということで弊社に乗り換えていただいたお客様もいます。

もちろん、相対的に安価な弊社サービスを利用したとしても、直接的に売り上げの向上に寄与するわけではないのでコストと言えばコストです。しかしながら、海外の事業現場で起きる事故や不測の事態がもたらす損失を冷静に試算してみると海外事業における安全対策費は「コスト」ではなく「投資」ではないか、というのが我々の見解です。また、安全対策の投資をすればいろいろな効果がある、というのは理解されている方は多いと思います。ただ、問題はその投資がどの程度が妥当なのか、費用対効果をどのように経営上層部に説明するかが課題、というお声も聞きます。

こうした背景を踏まえ、今回は概算ではありますが安全対策投資の費用対効果をご説明したいと思います。

 

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安全対策の3つの効果とそれぞれの被害想定額

安全対策の効果は、実は三層構造で広がっています。その3つとは① 現場の従業員・関係者を守る(直接効果)、② 危機管理・人事労務担当者を守る(間接効果)、③ 企業・団体全体の価値を守る(ブランド効果)、です。

 

最も直接的な効果は、海外事業現場で奮闘する従業員や関係者の命と健康を守ることです。危険な目に遭わせない、あるいは身の守り方を教えることで、企業としての責任を果たすことができます。

仮に事件・事故で従業員が死亡した場合、本人や遺族への補償は1億円前後に達することがあります。さらに、死傷した方と同等以上の人材(海外事業を主体的に担える方)を採用・育成するために最低でも数百万円規模の追加コストが発生します。特に中小企業では、海外事業を担える人材の確保は容易ではなく、損失はさらに大きくなります。

 

二つ目の効果は、本社側の管理部門を守ることです。緊急対応に追われれば通常業務は停滞せざるをえません。他部門から2週間×2名を緊急対応に招集し、本来期待される業務が滞った場合には数十万円、いや数百万円単位で逸失利益が生じると言っても過言ではないでしょう。

しかし、事前のマニュアル整備や訓練によって海外事業現場の皆さんがトラブルに巻き込まれる確率を下げることができれば、こうした業務の空白を最小化できます。また、被害が発生しても対応手順が明確で、社内の別部門から迅速に支援が得られる体制があれば、危機管理部門や応援部門の業務が完全に止まることはありません。日ごろからの安全対策投資は、本社機能の負荷軽減と組織全体のレジリエンス向上に直結します。

 

三つ目は、企業全体の価値を守る効果です。安全配慮義務違反は、社会的名声の失墜や株価下落につながります。記者会見やSNS対応だけでも数百万円規模の支出が必要ですし、上場企業であれば株価下落による価値棄損は億円単位になり得ます。さらに、「海外展開は積極的だが、従業員の安全支援は後回しらしい」といった風評が広がれば、採用市場での悪影響は長期化します。この点で安全投資は、企業価値を守るブランド保険としても機能するのです。

 

上述した通り、安全投資は

  • 被害を減らす(直接効果)
  • 復旧を早める(間接効果)

という二重構造で費用対効果を発揮します。これは理屈ではなく、現場で繰り返し証明されてきた事実です。直近の例でいえば、サイバーセキュリティ分野への投資はまさに好例です。世界的にサイバー攻撃は年々高度化し、企業規模を問わず被害が拡大しています。ランサムウェア被害額は一件あたり数億円規模に達するケースも珍しくなく、復旧までに数週間を要することもあります。こうした背景から、各国でセキュリティ関連予算は右肩上がりで、専門人材の採用競争も激化しています。サポート切れのPCや旧式システムを使い続けることは、もはや「節約」ではなく重大リスクの放置に等しいのです。だからこそ多くの企業が、定期的な更新費用や外部専門家のアドバイスを当然の投資として予算化し始めています。

 

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潮目が変わる瞬間に顕在化する「差」

平時には、安全投資の有無は目立ちません。安全教育を受けた従業員も、危機管理マニュアルを整備した部門も、日常では成果を実感しにくいのでしょう。だからこそ「安全はコスト」と誤解されやすいのです。しかし、国際紛争・テロ・災害が顕在化した瞬間、備えのある組織とない組織の差は一気に開きます。

 

投資の神様と呼ばれるアメリカの資本家ウォーレン・バフェットの言葉に

「潮が引いた時、誰が裸で泳いでいたか分かる」

というものがあります。株式や不動産の価格が上がっている時はどんな投資家でもある程度共通して利益があがるので、リスク管理度の良し悪しは目に見えません。むしろ、相場全体が好調な時はやや無防備にリスクを取った方が見た目の利益が上がるケースだってあります。しかしながらひとたび潮目が変わり、相場が崩れ始めるとリスク管理をしっかりしているファンド・投資家だけが生き残れるようになります。

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投資の世界ではたびたび引用されるウォーレン・バフェット氏の名言(ビジネス・インサイダーのウェブサイトよりキャプチャ)

 

これは安全対策でも同じです。世界が平穏な時にはトラブルに巻き込まれる社員・関係者はそれほど多くないでしょうし、組織的に対応が必要な危機の経験頻度は高くありません。しかしながら、ひとたびトラブルが頻発し始めた際、社員・関係者がトラブルに巻き込まれにくい会社やトラブルに巻き込まれても速やかに適切な対応が可能な会社かどうかが浮き彫りになってっきます。まして2026年現在、世界は不安定化の只中にあります。日本語メディアでも大きく報じられており、このコラムを読んでいただいている方にもわかりやすい事例を三つあげるならば1)中国による台湾周辺海域での大規模軍事演習(正義使命‐2025)、2)アメリカ軍によるベネズエラ国内への軍事作戦及びその反発としての周辺国での反米デモ、3)イラン国内の大規模反政府・反体制デモとアメリカによる介入可能性の示唆、といった事案はまさにこれまでの常識を揺るがしかねない事案と言えるでしょう。

 

こうした潮目の変化の際には安全対策に投資してきた企業とそうでない企業の差が顕在化するのです。当然ながら世界各地で事業展開される企業にとっても、世界情勢の変化に応じて従業員の安全確保体制を再検討しなおさなければなりません。そして、既にご存じの通り、これらは「万が一起こったら…」という仮定の話ではなく「既に予兆が明確になっておりいつでも起こり得る」事態です。これらに加えて、日本であまり報じられていない事象も多数存在します。こうした事態は日本で報じられていないだけに経営者の皆さんや危機管理担当の皆さんにとってもなじみが薄く「心地よい無知」に陥っている可能性もあります。

 

備えのある組織は、こうした潮目の変化に即応できます。体制構築・予算配分・人材育成を進めていた組織は、危機時に業務を維持し、ブランドを守ることができます。逆に「安全はコスト」として軽視していた組織は、被害増大・責任追及・炎上対応に追われます。差は一瞬で顕在化し、取り返しがつかなくなります。安全投資は「見えない資産形成」であり、危機時にブランド維持・信頼確保の形で顕在化します。これは単なる防御ではなく、競合との差を広げる攻めの戦略と言ってもいいかもしれません。

 

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今まさに少額でも安全対策投資を始めるべき理由

今一度安全投資として期待される金銭面の効果をご確認下さい。例えば弊社の一般的なコンサルティング契約(年額100~200万円前後)はもちろん、よりシンプルな情報提供とメール相談パッケージ(年間60万円前後)と比較すれば、圧倒的なコストパフォーマンスであるということが実感できるのではないでしょうか。会社の規模や影響の範囲によっても異なりますが、ざっくり申し上げれば投資額の数十倍から数百倍の効果があるというのは誇張でも何でもありません。

 

しかし、ここで多くの企業が抱く疑問があります。

「世界が不安定なのはわかるが、うちに直接被害が出るのはいつなのか」
「危なくなってから投資すればいいのでは」

理屈として支出を先送りしたいのは理解できますが、この先送りこそが最大のリスクです。例えば製造工程や建設現場の事故で従業員・関係者が死傷した際の保険を空白にすることはあり得ないないでしょうし、自社製品の不備に伴う顧客への補償保険を「まだ事故が起こってないから」という理由で先送りすることもあり得ないはずです。

 

こうした前提を踏まえながら今皆さんを取り巻く世界情勢を思い返してみてください。今まさに不確実性、予測不可能性が急激に高まっているはず。こうしたタイミングで重要なのは「今まさに始める」ことです。安全投資は一度に巨額を投じる必要はありません。最初は少額でもいいのです。例えば、従業員向けの安全教育研修を一回実施するだけでも、事故発生確率は下がります。危機管理マニュアルを一度レビューするだけでも、緊急時の対応精度は上がります。

 

安全投資は積み重ねであり、いち早く着手し、細く長く継続することに本質的価値があります。世界情勢の潮目がいつ本格的に変わるのか、また自社とその従業員・関係者にいつ具体的な被害が出るかはわかりません。しかしながら、何か緊急事態が起こった瞬間までにどれだけ多くの備えがなされているか、関係者の危機対応能力が高まっているかで、組織の存続が決まるのです。

結論として、企業や団体は「安全はコスト」ではなく「投資」であると認識し、今まさに少額でもいいので安全対策投資を開始すべきです。従業員を守り、危機管理部門を支え、企業のブランド価値を維持するために、世界が一気に不安定化しつつある今こそ安全投資の費用対効果を冷静に見直すべきではないでしょうか。

 

この項終わり