2025年3月ミャンマー大地震発生 その時顧客と弊社はどう動いたか

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トップ画像はアルジャジーラの報道記事よりキャプチャ

2025年3月のミャンマー大地震を振り返る

2025年3月28日、ミャンマー中部で大きな地震が起きました。震源地周辺では建物が倒れ、道路が寸断され、通信も途絶えがちになり、しばらくは被害の全体像がつかめない状態が続きました。
この大地震とは別に、従来からミャンマーは軍事政権を中心とする政府と民主的国家を求める地方部国民らの戦闘が断続的に続いており、事実上の内戦と言ってもよい状況でした。また民主派勢力も必ずしも一枚岩とは言えず、少数民族など固有の権利を主張するグループも存在するなど複雑な治安環境にあります。そこに大地震が重なったわけですから、現地の混乱がさらに深まるのではないかという懸念が広がったのも当然といえば当然です。日本国内でもニュース番組が被害の大きい地域や寺院が崩壊する様子の映像を繰り返し流し国家がいよいよ破綻するのではないか、といった印象を受けた方もおられたかもしれません。

 

さらに日本で注目を集めたのが、震源から1,000キロ以上離れた隣国のタイ首都バンコクで起きた建設中ビルの崩壊でした。地震の揺れが原因なのか、構造上の問題なのか、当初は情報が錯綜し、SNS等では「バンコク全域で建物が倒壊している」「余震で都市機能が麻痺している」といった誤情報が瞬く間に拡散しました。またバンコクの高層ビルで渡り廊下と建物本体が離れる映像や、高層階のプールから水が大量にこぼれ出る様子が撮影されており、テレビでもセンセーショナルな映像として繰り返し放送されました。ミャンマー国内からの正確な情報が乏しかったことに加え、地震の震源から遠く離れたバンコクでの映像群が「東南アジア全体が地震で大きな被害を受けているのではないか?」という印象につながった可能性もあります。

earthquake pool
センセーショナルだった屋上プールからの水落下(ITVニュースのYoutubeよりキャプチャ)

ただ、現地の情報を丁寧に追っていくと、ミャンマーもタイも被害は地域によって大きく異なり、主要都市部含めて壊滅的な状況に陥っているわけではありませんでした。ミャンマーでは震源地周辺の被害は深刻でしたが、生活インフラが完全に崩壊したわけではありません。バンコクのビル崩壊も局所的な事故で、都市全体の安全性が脅かされていたわけではないことがわかってきました。むしろ揺れを感じている瞬間はさておき、揺れが収まってからは多くの一般市民が日常を取り戻していたというのが実態です。

ただ、震源からも、バンコクからも遠い日本国内の報道はどうしても「被害の大きい地域」や「映像としてインパクトのある場所」に焦点が当たりがちで、現地との「温度差」が生まれやすかったといえるでしょう。一般論として世界各地のニュースを日本のメディアが丁寧にカバーすることは容易ではなく、今回のケースは特にその「温度差」が大きい事例だったと言えるでしょう。

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大地震直後の弊社への相談

こうした状況の中で、当社には複数の顧客企業様から相談が寄せられました。(なお、代表の尾崎は当時弊社付近のデパ地下で買い物中に電話応対をしていたことを記憶していました)

地震発生直後に各社で危機管理を担当される皆様が気にされていたのは

 

「ミャンマー事業を完全に停止させるべきか」
「バンコクの社員を一時的に日本に戻すべきか」

 

といった、事業中断や避難に関する問い合わせです。

日本国内での報道ぶりや現地の動画とされるSNS情報が中心となる一般企業の担当者からすれば当然の悩みでしょう。弊社では世界各地に広がる現地情報源とのやり取りが確保されていますので日本人関係者の避難までは推奨しない、という方針を決めていましたが、現地社員以外にローカル情報を入手する手段がなければ最悪の事態を前提に考えることは悪いことではありません。

 

弊社にご相談をいただいた企業のうちミャンマーで事業を行っておられる企業様の場合、地震発生前から既に内戦に近い現地情勢を踏まえ駐在者は必要最小限に絞られていました。企業側も「いつ国外避難が必要になってもおかしくない」という前提で体制を整えており、緊急連絡網や避難計画も事前に準備されていました。そのため、地震発生後も駐在者の所在地や建物の安全性、生活インフラの状況を迅速に確認し、退避の必要性を慎重に検討することができました。

 

一方、バンコクについては、より日本に所在する本社側の危機感が先行していた印象があります。建設中ビルの崩壊映像が繰り返し報じられたことで、「バンコク全体が危険な状態にあるのではないか」という印象も強く、おそらく経営層幹部含め「すぐに帰国させるべきではないか」という声もあったように思います。しかし、現地の情報を冷静に分析すると、退避が必要なレベルの危険は確認されていませんでした。実際、現地の企業や他国の大手企業の動きを見ても、バンコクからの退避を決断した例はほとんどありませんでした。

こうした状況を踏まえ、弊社としては「退避ありきではなく、まずは現地の状況をより詳細に把握することが先ではないか」という姿勢を一貫して示しました。もちろん、経営トップ層が一旦バンコク(あるいはタイ全体)の関係者を避難させるというご判断をされる場合にはそれを尊重し、国外避難の支援を行う心づもりはしていましたが、避難することでのデメリットもありますよ、というお話を危機管理ご担当者に丁寧に説明させていただいた経緯があります。

 

危機感をあおるようなインパクトの強い映像や報道ぶりを日本で繰り返し見ているとどうしても「現地は大丈夫なのか?」「事業継続を最優先にして自分たちの命を軽視していないか?」といった本社ならでは発想が生まれがち。自然災害はもちろんテロや大規模デモなどの際に、現地のリアルを把握することは必須です。センセーショナルな映像やSNSの断片的な情報に引きずられず、現地の実態を多角的に把握する。今回のケースでも、その重要性が改めて浮き彫りになりました。

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弊社の助言内容と顧客企業さまのご判断

今回の一連の相談に対して、当社が行った助言は大きく二つでした。一つは「国外への避難は最後の手段であり、避難ありきで判断しないこと」。もう一つは「事業継続性と安全確保の両立を考えること」です。ミャンマーについていえば弊社のお客様が地震発生前から避難の可能性も念頭に準備を進めていましたので地震発生後も冷静に状況を確認し、結果として国外への避難は行われませんでした。本社の状況認識、常日頃からの備え、そして現地の駐在者の的確な対応を含め企業としての安全管理体制が整っていたといえるでしょう。

 

バンコクに駐在者や出張者がいたいくつかの企業には、弊社から「タイの事業現場を放り出してまで帰国するという経営判断をするのかがポイントです」とお伝えしました。余震が相次ぎ、生活インフラが完全に崩壊しているのであれば帰国は選択肢になりますが、今回のバンコクの状況はそれに当てはまりませんでした。むしろ重要なのは、現地の事業継続性、社員の心理状態、インフラの実態を総合的に判断すること、そしてタイの事業に協力してくれている現地雇用(タイ国籍)の関係者との信頼関係が維持できるか、です。日本人がバンコクから避難すれば、ひとまず今回の地震の影響からは逃れられるかもしれません。しかしながら、日本に帰国したとしても日本国内で地震被害に遭う可能性はゼロではないでしょうし、タイの被害実態からして事業を中断するだけの状況なのか、は冷静に判断してもらうよう各社にご説明させてもらいました。

 

結果的に弊社が助言した企業は、現地の状況を丁寧に確認し、最終的には全員が現地に残留しました。これは「地震があったけど何もしなかった」のではなく、「地震の影響と海外事業で取りうるリスクを比べたうえで今回は避難しない」という判断です。現地の企業や他国の大手企業の動きを見ても、バンコクからの退避を決断した例はほとんどありませんでした。日本企業の中でも、グローバルな危機管理会社と契約している企業は冷静に状況を分析し、現地残留を選択していました。こうした動きと照らし合わせても、当社が助言した判断は妥当だったと考えています。

 

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海外での大災害発生時の注意点

最後に2025年3月のミャンマー大地震とバンコク市内にも影響があった事例を振り返り、今後起こりえる海外での大規模災害が発生時にも生かせる形で教訓をまとめておきましょう。

まず、日本と現地の時差です。日本の通常業務時間が終わった後に災害が発生すると、初動対応が遅れやすく、現地との連絡も取りづらくなります。また、影響が複数の国や地域にまたがる場合、情報の集約そのものが難しくなり、どの国の情報を優先すべきか判断が揺らぐこともあります。さらに、現地からの通信が途絶えている場合には、国際報道に依存せざるを得ず、情報の精度にばらつきが生じることも避けられません。

企業としての安全配慮義務の範囲も要確認です。安否確認は日本人駐在者だけでなく、現地採用社員や第三国籍の従業員にも及びます。平時から連絡網を整備しておくことは、こうした場面で大きな意味を持ちます。加えて生活物資の確保についても同様で、災害発生後に慌てて調達するのではなく、最低限の飲料水や食料、医薬品を平時から備蓄しておくことで、初動の混乱を大きく減らすことができます。

以上6点を一般論として挙げさせてもらいました。当時を振り返る記事を執筆して、改めてこうした基本的な備えがいざという時の判断の質を大きく左右するのだと感じています。

 

【参考コラム】災害への備えができない旅先ではだれもが「災害弱者」になる

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