【情勢分析】アフガニスタンは平和になるか?

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アフガニスタンがそう簡単に平和にならない理由

 

お伝えしてきた通り、

 

・アメリカとタリバンが直接交渉を行ったことを公開した

・アメリカ軍のアフガニスタンからの撤退に関する何らかの合意があったこと

・タリバン側も和平交渉に前向きであることを表明していること

 

はこれまでになかった前向きで重要な動きです。他方で、アフガニスタン国内での和平協議の進め方が不透明であり、今後の大きな課題として残されています。

 

現時点ではこれ以上の詳細情報がないため、正確に未来を読み解くことは難しいのですが、当サイトとしては、アフガニスタンがそう簡単に安定化すると思えない理由を四点お伝えします。

 

まず第一にタリバンによるアフガニスタン国内での攻勢が当面続くであろうこと。事実アメリカとの和平協議が公になった後もタリバンはアフガニスタン軍、警察等への攻撃を実行しています。

 

第二に、ここまでアフガニスタン政府もタリバンとの衝突を控える様子が見えないこと。先般アフガニスタン軍はタリバンが管理していた「刑務所」を攻撃し、「囚人」を解放したと発表しています。ここまで、タリバンとアメリカの和平協議にアフガニスタン政府が深く関われていないため、タリバンの制圧作戦を止める理由はありませんね。

 

上記二つの動きは今後想定される「アフガニスタン政府とタリバンの和平交渉」をどちらが有利に進められるか、に関わります。交渉結果に影響があるとすれば、両者ともそう簡単に引き下がれないと考えられます。現時点では政府軍の定員割れが深刻で治安を維持し続けられる能力はないとも報じられており、タリバンは少しでも交渉を有利に進めるため攻勢を止めるとは思えません。

 

三つ目の要素は停戦合意がなされたとしても、アフガニスタンが世界の最貧国であり、国民は暮らしていくだけでも大変であるという点です。一般的に経済的に困窮し、生活が一向に改善しない状況下では犯罪が増えやすく、過激主義も広がりやすいとされています。

アフガニスタンでは長年大量の援助資金が流れ込んでいますが、国民所得が大きく改善してきませんでした。加えて現在同国は深刻な干ばつに見舞われており、来年以降農業、つまり国民の食糧供給に多大なる悪影響が見込まれます。国際的な援助がなくなれば極端な困窮状態に陥る人が数百万単位で発生しかねません。

 

前述のバーネット・ルービン氏も和平への支援以上にアフガニスタン国民の生活を国際社会が支え続ける重要性を主張しています。

Even after 17 years during which the United States spent the equivalent of more than the entire Marshall Plan on aid to Afghanistan, it remains one of the poorest countries in the world. It depends more on foreign aid than all but eight other countries, including four African nations and four island micro-states. Humanitarian indicators have improved in recent years almost entirely because of the massive aid expenditure on health and education. If aid declines, so will those indicators. If the United States and the international community walk back on aid after an agreement, Afghans could return to deprivation without the Taliban launching a single attack.

 

 

四つ目の要素は周辺の大国の動きです。実はアメリカとタリバンの直接交渉以前から、ロシアや中国ではアフガニスタンの安定に向けてアフガニスタン政府の代表者、タリバンの代表者双方も出席する会議が行われています。この背景としてアメリカによる影響力が低下するアフガニスタンで影響力を増したい周辺の大国の意図があると言って間違いありません。

アメリカもロシアも中国も、加えるならインドやパキスタンもアフガニスタンへの影響力を確保したいと考えているのです。この状況下でアフガニスタンの和平がアフガニスタン人同士の話し合いだけで決まると考えるのはさすがに楽観的に過ぎるでしょう。大国同士のせめぎ合いがアフガニスタンにどのような影響を与えるのか、長い目で注視しておく必要があります。

 

 

なお来週もロシア首都モスクワで会議が行われます。ロシア政府は本会議はあくまで非公式であり、ロシア政府は和平協議からもやや距離を置いていますが、来週の会議の会場はロシア政府所有の「プレジデントホテル」です。

そして、ロシアが主導する会議の場でタリバン側代表者は現在のアフガニスタン政府のトップであるガニ大統領とは会わず、現政権に批判的なカルザイ前大統領と個別面談する旨報じられています。こうしたアフガニスタン人の各勢力の動き、駆け引きも大国の付け入る隙を生み出す要素と言えます。

 

【次ページでは・・・アフガニスタン周辺の治安情勢も簡単に考察します】