被害は一瞬、事後対応は一生

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事件/事故/災害では一瞬のうちに大被害が

 

こんにちは、代表の尾崎です。

みなさんは「注意一秒、怪我一生」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?ちょっとした不注意で一生影響が残る怪我をするかもしれないから気をつけようね、という意味です。尾崎は小さいころから親や祖父母によく言われた記憶があります。それだけヤンチャだったということかもしれません。

確かに、小さい子どもの頃に大きな怪我をしてしまうと後遺症や障害が一生残る可能性もあります。そこまで深刻な怪我でなかった場合でも皮膚に跡が残るなんてことは多くの方が経験されているのではないでしょうか。本当に怪我をする時は一瞬の出来事ですが、その影響は後々まで残りますよね。

 

似たようなことがリスク管理にも言えるんじゃないだろうか、と感じています。いろいろと調べていたら興味深い記事に出くわしました。それがコチラ。

 

【参考記事】減らせるか台風被害(4)一夜で150億円消滅 教訓に(2019年11月29日)

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2019年10月12~13日にかけて東日本を縦断する形で大きな被害をもたらした台風19号関連の記事です。多摩川沿いのタワーマンション周辺で浸水/停電が発生しトイレやエレベータが使えないといったことがニュースになったことを覚えておられるかもしれません。その同じ台風で、JR東日本が管轄する北陸新幹線の車両基地が水没してしまいました。浸水によって使えなくなった車両の被害総額は約150億円!。これほどの金額が一瞬で失われてしまう自然災害の恐ろしさを改めて痛感させられますね。

 

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中央部の「新幹線車両センター」は千曲川決壊地点のすぐそばだった(日経新聞サイトよりキャプチャ)

 

同じJR東日本が管轄する東北新幹線は台風の予想進路情報を受け、事前に避難をしていたそうですが、台風の進路からすこし外れていて北陸新幹線は川のそばの車両基地で通常通りの対応をしていたとのこと。これを「油断」と言ってしまうにはやや酷だとは思いますが少しの判断ミス、準備不足が一日で甚大な被害に直結することがよくわかる事例です。

金額だけではなくこれだけの車両が使えなくなったことで、約4カ月にわたり通常の運行ができなくなるという余波もありました。車両という再生産かのうなモノへの被害だけでも影響が長引くことも重要なポイントですね。ましてや代わりを作ることができない人間の命が失われてしまった時はその影響はより長く、重大なものになります。

 

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ご遺族対応は超長期の取り組み

自然災害だけでなく、交通機関での事故は時として一瞬の出来事ですが、人命が失われてしまうとその影響はかなり長く、より大きなものになります。例えば日本航空123便墜落事故いわゆる「御巣鷹山事故」は一度に多くの人命が失われた事故の一例です。

 

1985年8月12日、夏休み中の旅行客で満員だった東京羽田発、大阪伊丹行の航空機が離陸から約1時間後、群馬県の山中に墜落してしまいました。乗員乗客524名のうち、520名が死亡する悲惨な事故となり、今なお世界全体で発生した単独の航空機事故としては犠牲者数が最も多い墜落事故です。夏休み中ということもあり、小さなお子さんも犠牲になったという点でその影響は今もなお現在進行形と言っても過言ではありません。

ご家族・ご親族を亡くされた方々は「8・12連絡会」という遺族会で現在も活動を続けられています。御巣鷹山事故の犠牲を後世に語り継ぐために、そして悲惨な航空機事故を二度と起こさないために。事故からは既に40年近くが経過していますが、犠牲になった方の年齢が幅広いこともありお亡くなりになった方のご兄弟やお子様のみならずご両親も健在というケースも多くあります。

事故後、日本航空は現在に至るまで、ご遺族との窓口を設け、対話を続けています。異常事態発生から墜落までは一時間弱、というまさしく一瞬の出来事ではありますが、その事故後の対応、ご遺族との対話は担当者が変わろうとも企業として100年近く続けていくことになるでしょう。ご遺族と向き合う対応だけでなく、事故を再発させないという取り組みも決して終えてはならないものです。

 

日本航空は2006年に安全啓発センターを本社内に設置しました。時間の経過とともに、事故当時を知る社員が減ることを念頭に同社は同センターでの研修を3万人にも上る社員全員に義務付けているのです。現在羽田空港の近くのビルにあるセンターでは墜落機(JAL123便)の実物の一部に加え、事故に至った経緯の解説、また搭乗していた乗員乗客の遺品、遺書なども展示されており、部外者である尾崎も航空機の安全運航の重要性を痛感させられました。

 

パイロットは自身の身体よりもはるかに大きく、そして数万点の部品の集合体である航空機を操っています。どれだけ熟練のパイロットであれ、またどんなに航空機そのものが進化したとしても、どの航空会社も事故をゼロにすることはできないでしょう。しかしながら、日本航空が長く123便墜落事故を風化させまい、二度と繰り返すまい、と続けてきた取り組みの意義は大きいと思います。

事故当時に在籍していなかった社員(今や日本航空の現役社員の大部分が1986年以降の入社です)がご遺族との対話や関連の安全対策強化の取り組みに関わり続ける仕組みを作っているのです。一瞬で悲惨な出来事に繋がってしまう事故は起きてしまいますが、それをできる限り起こさないために一生をかけていると言っても過言ではありません。

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日本航空安全啓発センター (東京都大田区羽田空港 3-5-1 メンテナンスセンター1内)

 

ちなみに、本日このコラムを書いている日(2022年4月25日)はJR西日本の福知山線脱線事故の日です。こちらの事故も17年前の出来事ですが、当然のことながら多くのご遺族の悲しみが癒えるということはありません。この事故を起こしてしまったJR西日本も今なおご遺族と向き合い、そして二度と同じような事故を発生させない、という決意と共に明日からも安全最優先で業務を遂行すべく誓っているはずです。

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「一瞬」と「一生」を防ぐために日々の取り組みを

一瞬の出来事で人の一生が奪われる大事故は時として発生してしまいます。また従業員や関係者がそうした大事故で死亡してしまった場合、雇用者側である企業側もご遺族が亡くなるまで一生をかけて誠心誠意寄り添っていかなければならないのです。更に踏み込んで言えば、その企業が存続している限り、企業の一生をかけて事故の再発防止、被害の抑止に向けて取り組みを続ける必要があるのです。

 

これはテロや襲撃事件などで従業員や関係者が死傷してしまった場合も同じ。テロや襲撃事件は過激派や犯罪者によって引き起こされますので真に責任があるのはそうした実行犯である点は疑いの余地がありません。しかしながら、海外に展開している企業/団体であればそうした日本と違うリスクのある場所に従業員や関係者を送り出していることは認識しておく必要があります。

 

怪我をして自分で後悔・反省するのは原則自分のせいですが、企業としてみれば大事故・大事件に従業員や関係者が巻き込まれた後に一生の事後対応が続くのは決して望ましいことではありません。もちろん事件・事故に巻き込まれ死傷してしまうご本人やご家族にとっても望ましい事態でないことは言うまでもないですよね。

 

なにかちょっとしたことを背景に一瞬で甚大な被害、人命や業務体制、あるいは金銭的な被害が生じてしまうのが事件・事故の特性。起こってしまうのは一瞬なのに事後対応は本当に長く続き、個人にとっても企業にとってもいいことは一つもありません。であればこそ、事件や事故に巻き込まれないように先手先手で対策を打つことが必要不可欠です。

 

当サイトでは「安全対策を組織文化に!」を合言葉に、海外で事業展開する企業/団体の皆さん向けの啓蒙や低コストでいますぐできる安全対策の取り組みを提案しています。自動車の運転や料理はできない方からすると非常に複雑なプロセスですが、慣れた方であればほとんど考えずに適切な行動ができますよね?地震や火事発生時の避難訓練を小学校で繰り返すことで、大多数の日本人はそうした災害発生時も概ね冷静に対応できるように育っています。

テロや銃撃、襲撃事案などを念頭に置いた安全対策も日々の取り組みが頭と体にしみこんでいれば被害を避ける、あるいは被害を低減することは可能なのです。企業/団体としても一部の方だけではなく、全員に安全対策の取り組みを繰り返し、繰り返し訴えることができれば安全対策が組織文化として根付くことにもつながります。

 

事件や事故が起こってから対策するのでは遅いのです。「一生ごと」が発生する前、平穏な日常があるうちにぜひ安全対策の組織文化化を進めていただける方が増えることを願ってやみません。

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