パリ五輪に向けたフランス内務大臣の声明
2023年5月19日、米国を訪問していたフランスのダルマナン内務大臣は2024年に迫ったオリンピックに関連し、同国内でテロが再発しうる旨発言しました。 フランスを代表する立場として公開された声明では「フランスを含むヨーロッパにおいて主要なリスクはイスラム教スンニ派の過激主義に基づくテロである。情報機関同士の対テロ協力が必要不可欠であることをアメリカと協議するために渡米した」と発言しています。ただし、具体的な脅威情報があるとは言及しておらず、イスラム教スンニ派系過激主義だけを名指しする背景はわかっていません。
他方で、フランスは来年2024年に世界的に注目の集まるスポーツイベント、オリンピックを主催することが決まっています。オリンピックほど世界の耳目を集めるわけではありませんが、2023年のラグビーワールドカップもフランスで行われます。首都パリを含む国内主要都市で多くの人が集まるスポーツイベントを控えているフランスとして、今後治安維持、そしてテロの防止は大きな課題になっていると言えるでしょう。 特にオリンピックについていえば、前回日本が会場となった東京オリンピックがコロナ禍で行われ、関係者以外はほとんどスタジアムに入れない事実上の「無観客」で実施されています。つまり、入場制限のない夏のオリンピックは2016年以来約8年ぶりということになりますね。オリンピックを標的にしてテロや襲撃等を計画していたグループがあったとしても、感染症対策を背景としてオリンピック会場はもとより日本国内への入国が困難な状況では犯行を断念せざるを得ませんでした。
一般的に「リベンジ消費」という言葉が生まれているように、コロナ禍で思うに任せなかったテロ行為がアフターコロナのこれから増えてくる可能性を多くの政府機関、シンクタンクが指摘しています。フランスで行われるオリンピックは前回オリンピックでテロ計画をスキップせざるを得なかったグループによって狙ってみたい「テロ・襲撃が実行可能な大規模スポーツイベント」の一つであると言えるでしょう。
これを踏まえ、国内治安を管轄するフランス内務大臣がわざわざ米国訪問時に「テロにも十分警戒が必要であり、米仏両国の協力が必要である」旨発言したのではないかと考えられます。
大きなイベントは一年以上前から開催日・場所が決まっている
さて、オリンピックのような世界的大イベントは、我々が日常的に行っている会議や飲み会のアレンジとは全く別次元の準備が必要です。そのため、「来週から開始します!」という日程の決まり方は絶対にありえず、数年前から開会式、閉会式、主な競技の決勝戦のスケジュールが発表されています。2024年に行われるパリオリンピックの場合は既にチケットの販売が始まっており、競技日程もほぼすべて具体化されていますね。
大きなスポーツイベントは急に開催が決まるのではなく、一年以上前から開催日・場所が決まっているという点で、テロ・襲撃を企図する側からみても「狙いが定めやすい」性質があるのです。そしてオリンピックと言えば巨額の放映権料が動き、全世界的に中継されるスポーツイベント。警備は当然厳しいのですが、もしうまく攻撃を成功させることができれば過激主義者にとっては自分たちの主張とテロ実行能力を全世界に訴えることができるのです。こうした大きなイベントは我々がエンターテイメントとして楽しむ機会であると同時に、リスクが高まる機会でもあります。
当サイトでも繰り返し取り上げている選挙や伝統的な祝祭日と同様、一年以上前から予定が決まっている大きなイベントは安全管理上も注意が必要であることを覚えておいていただければと思います。当サイトでは、主要国でリスクが高まりそうな宗教的、歴史的背景のある日や、大規模なスポーツイベント、選挙等をまとめた「リスクカレンダー」を無料公開しています。ここに記載しているリスクイベント等を意識して頂くだけでも皆さんの安全対策は一段上のレベルに移行すると言っても過言ではありません。
2023年版リスクカレンダー(無料ダウンロード可)
予見できるリスクを摘み、対策を講じるのが安全対策の本質
さて、現実にテロや襲撃が起こるか起こらないか、は別としてリスクが高まる状況下ではその被害を被らないよう予防することが極めて重要です。人間の健康で言えば、病気になる前に生活習慣を見直すことが本質的な健康管理でしょうし、台風が予想される時期は数日前から暴風域に入る地域で住宅や田畑で一定の備えをしますよね。実際に被害に遭った後、手術・治療あるいは復旧・復興に使うお金や時間よりも被害が生じる前に手だてを講じた方が一般的には経済的にも時間的にも手間の面でも負担を抑えられると言われています。
テロや襲撃被害においても、実際に被害を被る可能性がありそうなタイミングでは予防的な安全対策を講じておくことが重要です。実際に事件が発生し、被害が生じた後に事後対応を迫られると被害に遭った方の救出や援護が日常業務に追加して必要になります。場合によっては日常業務をやりながらそうした緊急事態対応を行うことが難しくなることだってあり得ますよね。日常業務が大きく遮断され、機会損失・逸失利益が膨らみ、最悪の場合は死傷した関係者・ご遺族への補償問題にもなりかねません。 あらかじめリスクが高まる可能性があるという場合にはまずリスクを回避する「予防策」を講じることが安全対策の本質と言えるでしょう。この点で、フランス政府が主張するテロの危険性を念頭に、オリンピック本番から一年以上前から対策を講じることは理にかなっているのです。
もちろん、我々のような安全対策コンサルタントと呼ばれる人間も、未来が見える予言者ではありません。このため、正確にいつ・どこで、どのような事件が発生するか読み切れるわけではないのですが、世界情勢やあちこちの過激派武装勢力のこれまでの実績、声明文、各地でのイベント、政治情勢などを把握している人間にご相談いただければどういったイベントが狙われそうなのか、あるいは特に注意すべき時期はいつなのかをお伝えすることが可能です。
今後、コロナ禍明けで海外への関係者派遣を再開・規模回復される場合にはまずいつ、どのようなリスクが皆さんに起こりえるのか、リスクカレンダーを活用して考えていただくことを第一歩にしていただきたいと思います。
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