【事案分析】ブルキナファソ政府とロシア・ワグネル社との軍事協力締結

この記事のURLをコピーする

アメリカ・アフリカ・リーダーズサミットでの出来事

(トップ画像はマリ北部に到着したロシア人兵士とされる写真。France24のウェブサイトより)

米国政府が12月13日~15日の期間に、アフリカ49カ国の首脳をワシントンに招き、「アメリカ・アフリカ・リーダーズ・サミット」を開催した。この際、ガーナ大統領が「ブルキナファソがロシア・ワグネル社との契約を結んだ」と発言し、波紋を呼んでいる。

 

  • ガーナのアクフォ・アド大統領が、米国ブリンケン国務長官に対して、「今日、ロシアの傭兵が我が国北部の国境に面したところに配置されている。ブルキナファソ政府が、マリ同様に、ワグネル社の軍を配置する合意を締結した。」「ワグネル社の役務に対する対価として、ブルキナファソ南部の鉱山が(ワグネル社に)提供されたと思う。ブルキナファソの首相が、直近の10日間、モスクワに滞在している。」と述べた。
  • ロイター社及びフィナンシャル・タイムズ社共に、ガーナ大統領の発言が事実であることを確認できていないと述べつつも、次のような情報を提供。
  • フランス外務省の報道官は、ブルキナファソとワグネル社との契約について把握しているか否かについて回答することを拒否。EU外交筋は、両者が接触していることは把握しているが、合意に至ったかどうかは確認できていないと発言。【ロイター
  • 今年10月にブルキナファソでクーデターが起こった際に、ロシア国旗を持って祝福する集団がいた。今年11月に、(フランスではなく)ロシアと協力すべきと主張する集団がいた。ブルキナファソとワグネル社との関係について、オクスフォード大学のロシア専門家は、「確証はないが、ありうることだ」と述べている。【フィナンシャル・タイムズ
  • ロイター社によれば、ガーナ大統領の発言後、ブルキナファソ外務省はガーナ大使を呼び出し、ガーナ大統領の発言を承認できないと抗議したとのこと。また、嫌疑については認否を留保しているが、ブルキナファソ政府報道官が「ブルキナファソはワグネル社に助けを求めていない」と述べたとのこと。一方、ワグネル社側は本件についてコメントしていない模様。
  • なお、今年10月に、クーデターを経て大統領に就任したブルキナファソのトラオレ大統領が米国の外交官に対して「ロシアの傭兵は雇わない」と伝えたとのこと。

 

<解説>ワグネル社とは

ワグネル社はロシアの民間軍事会社で、ロシア政府と近い関係にあり、表立って動けないロシア軍に代わり、他国への軍事協力を担っていると認識されています。元ロシア軍人が創設し、2014年にロシアがクリミアに侵略した頃に登場。近年では、「プーチンの料理長」と呼ばれ、米国の大統領選挙にも介入したとされる新興財閥(オリガルヒ)のエフゲニー・プリゴジン氏が出資していることでも注目を浴びています。同社は、ウクライナの他、ロシアによるシリア介入にも関与し、アフリカでは、スーダン(2017年)、中央アフリカ(2018年)、リビア(2019年)、モザンビーク(2019年)、マリ(2020年)といった脆弱国の政府を支援していることが指摘されています。

 

海外安全メールマガジン登録

ブルキナファソとワグネル社の関係が注目される理由

アフリカにおけるロシアの影響力の拡大やロシアの関与によるアフリカの不安定化を欧米諸国が懸念していることが背景にあります。

ブルキナファソを含むサヘル地域では、テロ活動を繰り返すイスラム過激派への対応に苦慮しており、これまでフランスが中心となってイスラム過激派の伸長を防ぐ目的で当該地域に軍事介入してきました。しかし、フランスが軍事活動の拠点としていたマリで、2020年と2021年に二度クーデターが発生し軍事政権が発足、また同国内で反仏感情が高まったことを踏まえ、フランスはマリから撤退し、拠点をニジェールに移すことを決めました。そして、この隙間を埋めるかのように、ワグネル社がマリ政府に接近し、マリ政府とワグネル社との間で傭兵の派遣契約が締結されたと言われています。

今回注目を浴びたブルキナファソでは、2022年に二度起きたクーデターを経て、現在軍事政権による統治が行われており、国内では反仏感情が高まるとともに、SNS上ではロシア寄りの情報発信が散見されています。つまり、マリと同様の状況がブルキナファソでも起ころうとしているのです。こうした動きを、欧米諸国やメディアは警戒しています。また、ガーナのようなサヘル周辺国も、ワグネル社の介入による国境付近の治安の悪化や、国内での新ロシア派の台頭(とそれによる欧米との関係悪化など)を危惧していると考えられます。

 

海外安全セミナー

なぜアフリカ政府はロシアの傭兵に頼るのか

ワグネル社からの軍事支援を受けたアフリカ諸国は、独裁的リーダーあるいはクーデターで政権を掌握した軍事的なリーダーが統治しており、欧米と距離を置いている状況にあります。そのような中で、国内外からの脅威に対抗する手段として、ロシアに頼らざるを得ないというのが実情だと思われます。また、ワグネル社は、人権などを無視し、手段を択ばずに行動していることが指摘されており、この点が切迫した状況にあるアフリカのリーダー層を引き付ける要素になっているとも考えられます。

一方のロシア側にとっても、欧米による経済制裁等で経済状況が苦しい中、ワグネル社を通じてアフリカが有する資源にアクセスできる点、また孤立する国際社会においてロシア寄りの国を確保できる点は、国家運営上の大きな意義があると考えます。

 

海外安全メールマガジン登録

ワグネル社の介入はサヘル地域の安定化に貢献するか

サヘル諸国にとって大きな関心は、イスラム過激派によるテロの脅威を如何に抑え込むかであり、欧米から十分な支援を受けられない中、ワグネル社からの軍事協力を受けることは当該国の国防力を高め、ひいては治安改善に貢献しうると言えます。一方、ワグネル社と関係を持つことで欧米諸国による支援を一層困難にし、サヘル地域の安定化に向けた国際社会の取組を後退させるリスクがあります。また、ワグネル社による人権を無視したアプローチやロシア関係機関によるとみられるSNSを通じた扇動が、当該国政府に対する不信感や社会の分断化を引き起こし、不安定化につながる恐れがあります。米国はこうした動きを公に批判しており、ロシアとアメリカ/欧米の対立はウクライナのみならずアフリカでも現在進行形で発生している点を認識する必要があります。

この項終わり