2023年版グローバルテロリズムインデックス概説

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グローバルテロリズムインデックスとは

オーストラリアに拠点を持つInstitute for Economics & Peaceという団体が毎年発表しているGlobal Terrorism Index(グローバルテロリズムインデックス)という指数があります。これは世界各地で発生したいわゆる「テロ」に分類される事件の数や被害規模を指数化して、ランキングしたものです。

このインデックスの特徴として

 ・世界中のほとんどすべての国・地域が評価されること

 ・同じ基準に基づき、国別に0~10の間で指数が算出されること

 ・毎年発表されるため指数の変化や順位の変化が見えやすいこと

 ・色分けされた地図が公表されるため、本文を読まずともテロ危険度が把握しやすいこと

などが挙げられます。

 

このインデックスの最新版となる、2023年版が3月14日に公開されており、こちらからダウンロードが可能になりました。全体で約100ページの英文レポートとなっており一般の方が通読するにはちょっと大変かもしれません。当サイトでは例年最新版が発表されるたびに内容を確認し、過去分とも比較した上で、概要をお伝えしていますので以下是非ご一読下さい。

 

なお、2018年版から各国のランキング順位の変動が明記されるようになりました。代表の尾崎は2016年から

 

「テロリズムインデックスの各国順位の変動、特に急に順位が上がった国ではそれまで起こらなかったような大きなテロが起こることが多い。『アノマリー』ではあるものの、先行指標として有効かもしれない」

 

と発言していました。本稿の最後にランキングが急上昇(インデックスが悪化)しており、リスクの高まりが示唆されている国を挙げます。

ランキング順位の変動が明記されるようになった2018年版
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2023年版報告書の概要

まず目につくのは、世界全体でのテロによる死者数は2022年の一年間で6701人となり、過去最悪だった2015年の約6割まで減少したという報告です。テロの件数自体も2021年の5463件から2022年には3955件と減少していた、と記載されています。

過去数年間、組織別のテロ実行数トップだったグループはアフガニスタンタリバンでしたが、上述の通り2021年8月にアフガニスタンでの権力を事実上掌握しています。タリバンは「統治する側」に回っていますので、今回の報告書ではタリバンによる襲撃等はすべて集計から除外されています。

本報告書でのテロ事件数の大幅な減少要因の一つはタリバンによる襲撃事案がテロとしてカウントされていないことですが、それ以外にもイラクを含む中東/北アフリカ地域での事件数減少も目立っています。他方、アフガニスタン以外の南アジアではテロ事件数は増えている他、欧米等先進国でのテロ件数は2021年と同水準にとどまっています。

加えて、2022年のテロ統計で特徴的なのは、テロ1件当たりの死亡者数が1.7人と2021年の1.3人に比べ30%増となっている点です。過去5年で初めてテロ1件当たりの死亡者数が増加しており、テロ事案がより致死的になっていることを示しています。

 

最も多くのテロを実行したのは8年連続でISIS及びその関連グループであり、アルシャバーブ(ケニア等)やバロチスタン解放軍(パキスタン)、イスラム教及びイスラム教徒の守護者(JNIM、マリ/ブルキナファソ等)、ボコ・ハラム(ナイジェリア)といったグループが続いてなっています。

 

世界全体から見れば、西洋諸国でのテロ発生件数や死者数はそれほど大きな割合を占めているわけではありません。しかし、だからと言って欧米を含む先進国でテロの心配をしなくていいわけではありません。一人以上の死者が発生した国はこの3年間42~44カ国となっています。この数は2004年と比して大きく、コロナ禍が収束した後には再度増加する可能性があるからです。

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当サイトにて過去のグローバルテロリズムインデックスから作成

ブルキナファソやマリ、トーゴ、ベナンといった国では直近テロの発生件数、死者数ともに急増しており、今回の報告書でも「今やテロの震源地である」と表現されています。これらの国を含むサヘル地域及びサブサハラアフリカ地域ではこれまで通りの安全対策では不十分=今までと同じ感覚で過ごしているとテロや襲撃に巻き込まれかねない、という点で警戒しすぎるということはありません。

 

加えて、2022年のテロ・襲撃統計には表れていないものの、ロシアによるウクライナ侵攻が集計対象期間に始まっていること、そして集計期間中ずっと継続していることは念頭に置いておく必要があるでしょう。既に当サイトでも何度か取り上げていますが、アフリカにはロシア系民間軍事組織である「ワグネル」が浸透しつつあります。特にアフリカ中部、西部では武装勢力とロシア系武装組織が衝突するといった新たな事象も発生しており、テロや襲撃の発生状況の変化に注視が必要です。

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テロ事件数が増加している地域(赤)と減少している地域(青)の傾向は明確

 

ご参考までに2023年版インデックス上位10か国は次のとおりです。トップ10入りしている国の顔ぶれは2022年と変わっていませんが、イラク、ナイジェリア、ニジェールが2022年版と比してランキングを下げている(テロの被害状況が相対的に改善している)のに対し、ブルキナファソ、マリ、パキスタンはランキングが上がっている(テロの被害状況が相対的に悪化している)と言えます。

1位 アフガニスタン

2位 ブルキナファソ

3位 ソマリア

4位 マリ

5位 シリア

6位 パキスタン

7位 イラク

8位 ナイジェリア

9位 ミャンマー

10位 ニジェール

 

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当サイトが注目するテロの傾向

報告書からは世界全体でのテロ被害改善傾向が読み取れました。しかしながら、注意しなければいけないのはアフガニスタンやイラク、ナイジェリアといった皆さんが行かないであろう国での被害改善が世界全体の統計に大きく影響しているという点です。つまり、アフガニスタンやイラク、ナイジェリア等過去にテロの死者数が多かった国・地域に滞在されない方にとってはテロの死者数減は額面通りには受け取れません。

 

また、冒頭ご紹介したように、当サイト代表の尾崎はグローバルテロリズムインデックスの各国ランキング変動やその他各種治安情勢を踏まえて、近い将来どういった国が危険か毎年検討しています。残念ながら警戒していた国で大きな事件が発生することもありますし、注意して情報を集めていたものの特段なにも起こらなかったという国もあります。

 

ご参考までに当HPが考える向こう一年間のテロ要警戒地域、またテロ発生傾向を提供します。

 

・インデックスの順位が上がっている国のうち治安に関係する情報などを踏まえ特に注意が必要ではないか、と当サイトが考える国はトーゴ(73位⇒27位)、ベナン(53位⇒37位)、ノルウェー(77位⇒49位)

(イラクやアフガニスタンのような大規模なテロが次々と起こるという意味ではない。小規模ながら現在の警備状況では防ぎきれない無差別テロなどによって、一般人に被害が発生しても驚かないという意味合い)

・上記の他、特にインデックスの順位が悪化している国はイラン、スロバキア、ベルギー、ウズベキスタン、アラブ首長国連邦等

・新型コロナウイルス感染症とロシア・ウクライナ紛争に伴う世界的インフレは経済格差の拡大に直結しうる。孤立を深めた貧困層など過激派に参加しやすい層も生まれている点に十分注意

・ウクライナからの避難民や経済的背景から移民/難民が増えれば極右による過激な活動が一層活発化することも想定される。西洋諸国を中心に過去数十年とは傾向の違うテロ被害が深刻化しても不思議ではない

・ヨーロッパ及び欧米では引き続き銃の乱射や車両の突入といった「誰でもできてしまう」単独犯によるテロへの警戒を解いてはいけない。過激派組織、国際テロ組織に属さない犯行主体によるテロが増加している点要注意

 

最後に一点目で指摘した要注意国に対し、日・米・英・豪各国がそれぞれの国民向けにどのような旅行前アドバイスを提供しているかまとめたぺージのリンクをご紹介しておきます。

 

トーゴ治安最新情報

ベナン治安最新情報

ノルウェー治安最新情報

 

なお、2023年版の報告書ではAIを用いたテロ抑止の最新情報や気候変動とテロ発生状況の関連性分析、テロ組織の資金源基礎知識といった分野横断的なレポートも掲載されています。当サイトが主催するセミナーではこのようなテーマを日本語でも解説する機会を設けたいと考えております。

 

弊社では過去のGlobal Terrorism Indexレポートを参照し、特定の国ごとのインデックスの経年変化、直近のテロ発生傾向、今後の要注意点等を取りまとめて提供することが可能です。海外展開中の国・地域のリスクが気になる方や、ポストコロナの新たな海外事業展開を計画中の方、進出先候補を比較検討されている方などには是非ご活用頂きたいサービスです。

簡易な分析であれば一か国54,000円(税別)から承ることが可能です。ご要望の方はコチラの問い合わせフォーマットよりお気軽にお問合せ下さいませ。

 

この項終わり