予測されているのに軽視される「灰色のサイ」
実はコロナウイルスを含むパンデミックを起こし得る病原体についての報告書は存在していました。2018年、アメリカジョンズ・ホプキンス大学が公表していた「The Characteristics of Pandemic Pathogen」というレポートがあります。
このレポートでは今般の新型コロナウイルス騒動が起こる約2年も前に呼吸器系に感染するRNAウイルスであるインフルエンザウイルスやコロナウイルスの調査や監視、抗ウイルス薬及びワクチンの開発を急ぐべき、との推奨が記載されています。特にコロナウイルスに対しては、疫学的調査が必要であり、パンデミックの予兆をいち早く察知できるよう全世界で監視体制を築くことはその影響を考えてもコストに見合う、とされていました。
そうです、決して新型コロナウイルスは人類にとって「不意打ち」ではなく、既に専門家の間ではリスクは認識されていたのです。しかしながら、この報告書は日本やアメリカの政府はもちろんのこと、世界的にも大々的に取り上げられることはありませんでした。政治問題、経済問題、社会福祉や教育、環境問題に自然災害対策に至るまで、人間の社会には問題が山積みだったこともあり、報告書で指摘された感染症のリスクは重要視されてこなかったと言わざるを得ません。
金融の世界ではこうした「将来大きな問題を引き起こす可能性が高いにもかかわらず、その時点で軽視されがちな潜在的リスク」のことを『灰色のサイ』(Gray Rhino) と呼びます。体は大きくても普段はおとなしいサイが、いったん暴走し始めると誰も手を付けられなくなることに由来し、2013年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、政策アナリストのミシェル・ワッカー氏が初めて使用した言葉と言われています。
まさに新型コロナウイルスは「灰色のサイ」だったと言えるのではないでしょうか?
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