尾崎が答えにくいご質問
皆さんこんにちは、代表の尾崎です。
日本国内は毎日暑くなってきました。日本以上に猛暑に見舞われている欧州在住の方、山火事被害が住宅街にも及んでいるスペイン、ポルトガル、イギリス、フランス、アメリカ、ギリシャ等在住の方いつも以上に健康管理及び安全確保に気を配っていただきたいと思います。どうぞみなさま安全・健康でお過ごしください。
さて、本日はセキュリティコンサルタントとして感じていることをありのまま、書き連ねてみたいと思います。日々セキュリティコンサルタントとしてお客様にコンサルティングする際、よく聞かれるものの、回答に困る質問があります。それは
「どの国・地域ならば安全でしょうか?」
という質問です。この質問は二つの意味で回答に困ります。
一つ目の理由は絶対に安全と言える国・地域というものはあり得ない、ということ。さらに言えば、どれだけお金をかけて警備をしたとしてもそれを打ち破って襲撃を実行したり、標的を殺害することはできてしまうため、こうすれば絶対に安全に行動できます、と言える対策もありません。なので「安全に活動できる場所を指定してもらえませんか?」という趣旨の質問には回答しづらいのです。
もう一つの理由はクライアントの皆さんはそもそもどこに行って何をやりたいのか?が正確に把握できなければ、私の回答に意味がなくなってしまうという点です。本来事業活動であれ、何らかの研究/学習であれ目的があって渡航先を決めているハズです。渡航先が中国でもいい、インドでもいい、ブラジルでも、なんならツバルでもモザンビークでもいい、という方はまずいないでしょう。
日本向けの工業製品を大量生産するなら中国、
人口が増加している新たな市場開拓であればインドやブラジル、
島しょ国の環境対策を研究するならツバル、
まだ未開発の海底資源開発であればモザンビーク。
皆さんのミッションや目標に合わせた渡航先が先に決まっているハズなのです。安全対策はあくまで皆さんがやるべきこと、やりたいことをやり続けるために(心身に被害を受けないように)行うものであり、セキュリティコンサルタントの知識と経験はそのツールです。安全対策の専門家を掲げているとはいえ、その人が「ここが絶対に安全だからこの範囲で行動しなさい」ということはあり得ません。なぜなら安全対策はミッションや目標の後に分析・計画・実行するものだからです。
私自身安全対策の専門家であると自覚していますし、多くのお客様から信頼を頂いてお仕事をさせていただいていることは間違いありません。私の提言は日本経済新聞にも掲載いただいており、客観的にも評価はされていると思います。それでもなお、私自身回答を避ける質問が
「どの国・地域ならば安全でしょうか?」
という質問なのです。
セキュリティコンサルタントを「活用」するために
どの国・地域ならば安全でしょうか?という問いに安全対策の専門家、セキュリティコンサルタントが答えないのであれば誰が回答するべきなのでしょうか?尾崎の考え方はもうお分かりですね。そう、皆さんご自身です。
皆さんが何をやりたいのかを明確にすることで世界のどこで活動しなければならないのか、はある程度決まってきます。皆さんがやりたいこと、やるべきことを達成できる国・地域のうちでどこならば自分の取れるリスクの範囲内に収まるだろうか?ということをまずは考えてみてください。
そう考えた時に、自分が思っているリスクの程度と実際にその国・地域で起こりうるリスクの見積もりは合っていますか?もし、リスクが思っているより大きい場合どうやったら身に降りかかるリスクを更に低減できますか?ということがわからないのであれば…そこは我々安全対策の専門家の出番です!是非、皆さんのミッション、目標を達成できるよう、安全に活動を継続できるよう貢献させてください。
さて、安全対策の専門家、セキュリティコンサルタントを名乗っている方は当然のことながら安全管理に関してなんらかの強みを持っています。
特定の国・地域の現状をよく知っている/機微な情報を入手する人脈がある
安全対策に資する各種手段の長所・短所を熟知している
大勢の警備員を統率して警備体制をマネジメントしてきた経験がある
紛争地と言われる地域で長年生き残ってきた
緊急事態が発生した後のアシスタンス業務/保険料申請について実務経験が豊富
といった、およそ一般の事業会社の方、あるいは大学教職員の方ではまねできないリソースを持っているはずです。ただし、これらを一人ですべてカバーできる方はまずいません。少なくとも尾崎自身、そんな方に出会ったことがありません。法律や金融経済、感染症と言ったイメージしやすい専門家でも得意とする範囲が違うというのはよくあることですよね。傷害事件に強い弁護士さんが離婚調停をうまく捌けるかというとそうではないでしょう。コロナウイルスの専門家と蚊を媒介とする日本脳炎やジカウイルス等の専門家では必要とされる知識・経験は全く違います。あるいは人事部という大抵の事業会社にもある部門でも、人材マネジメントか福利厚生、労働安全衛生、リストラ対策/シニア層再就職先紹介、などなどまったくやっていることが違う人も多いと思います。
安全対策の専門家と一口に言っても何から何まで全部を一人でこなせるわけではないのです。それぞれに得意・不得意があって当然。一人の専門家に依存するのではなく、様々な強みを持つ人をうまく「活用」することが大切です。一人の独断で何事も進めていくのではなく、多様性のある経営層が求められる現代の経営理論も似ていますかね?
ただし、複数のセキュリティコンサルタントを常時雇用するのは非現実的です。このため「安全対策のコンシェルジュ」を社内あるいは社外に一人確保するという対応を私はおススメしています。実際に尾崎が日々お客様のために行っている活動は「安全対策のコンシェルジュ」そのもの。自分でサッと対応できる情報収集やその分析をレポートにすることは自分で行います。他方で、自分が必ずしも詳しくない国・地域の相談が来た場合には、その地域が専門の協業先と情報交換を行って顧客に報告書を提出します。あるいは、実技訓練を手配して欲しい、と言われればテロや襲撃の犯人役ができる複数名を雇用している緊急事態トレーニング専門の会社をご紹介します。
お客様の求めに応じて、必要な対応をいち早く検討し、最適と思われる担当者・専門企業をご紹介する。呼び方は『安全対策のキュレーター』でもいいですし、『セキュリティコンシェルジュ』でもいいのですが知識と経験、そして人脈を兼ね備えた人が日本に増えてくるといいなぁと考えています。そしてこういったコンシェルジュを中心に様々なジャンルの安全対策人材を「活用」していただくことで安全対策はレベルアップするはずです。すなわちこういう人材を育成し、各企業ごとに確保することが日本企業や日本の大学がより関係者の安全に責任をもって世界展開に取り組めるようになる第一歩でしょう。
専門家のいうことを鵜呑みにしない
最後にもう一つ付け加えたいポイントがあります。それは「専門家」を名乗っているからと言ってその人のいうことを鵜呑みにしなければならないというルールはない、ということ。特に海外の治安情勢や政治情勢を正確に読み解くことは不可能です。安全対策の専門家の一部は各種データから治安や政情の先行き見通しをレポートすることが生業になっています。が、彼らとて百発百中で未来を見通すことができるわけないのです。この手の専門家はあくまで情報の収集と分析の専門家であって予言者あるいは占い師ではないですからね。
こういうと、皆さんはじゃあ専門家なんか口先だけじゃないか?とお感じになるかもしれません。でも経済や金融のアナリストも似たようなもんですよね。2022年1月の時点で115円前後だった米ドル/日本円が経ったの半年で140円に迫ると力強く宣言していた方を私は知りません(笑)。このため安全対策分野でも金融分野でも、あるいはビジネスコンサルティングの分野でも専門家のいうことをそのまま鵜呑みにしていてはダメなんですね。
特にこの種の「シナリオ提示型」の専門家の場合、陥りやすい誤りのパターンが三つあります。
一つ目は自身の得意分野(国・地域や治安情勢のパターン等)ではないケースでもシナリオを提示してしまうこと。
二つ目は大手メディアや業界内の「一定のコンセンサス」をベースにシナリオを考えてしまうこと。
三つ目は安全対策以外の自身の利害を踏まえた「ポジショントーク」と一緒くたになってしまうこと。
いずれも私含め誰が陥ってもおかしくないパターンです。個別具体的な事例はまた稿を改めて書いてみようと思いますので少しお待ちください。なお上で例を挙げた金融のアナリストでも似たようなことはあるようでいずれも専門家でありながら、予測が的外れだったり、あまり意味のない予想を披露してしまったり、というケースをよく見つけます(注:代表の尾崎は日本証券アナリスト協会認定証券アナリスト(CMA)でもあるため、この分野も常にウォッチしています)。金融の場合は「一定のコンセンサス」から外れたがらない人が多い、という二つ目のパターンが多いかもしれませんね。
ただし、質の高い予測を理論だてて説明できるプロフェッショナルは金融業界にも安全対策業界にも間違いなく存在しています。(尾崎もその末席には名を連ねていると自負しています・・がこれは皆さんの評価にお任せします)そうした方の情報収集力、分析力やノウハウを取り込みつつ皆さん自身あるいは企業・大学として世界情勢・関係者派遣先の治安シナリオを用意することをおススメします。大切なのは専門家からの情報を「正解」として扱うのではなく、皆さんのミッション実現に役立つ情報として咀嚼することです。専門家からの情報はSNS上の匿名情報やゴシップ誌等によく出てくる「〇〇関係者によると…」といった記事に比べれば確かに信頼度の高い情報です。ただし、それそのものが絶対的な真実では決してありません。皆さんの行動様式、海外展開指針に合う形で情報をフィルターにかける姿勢をぜひ大切にしてください。こうすることで、皆さん自身が専門家を「活用する」側の人材に近づくことができるはずです。
この項終わり