システム・機材の運用経費/人材は「コスト」なのか

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みずほ銀行、経営トップ退陣の一因

代表の尾崎です。証券アナリスト資格(CMA=日本証券アナリスト協会認定アナリスト)を保有している身としては気になるニュースが入ってきました。

2021年に入り8回にわたりシステムトラブルが頻発したみずほ銀行で、グループ会社の会長と社長、そしてみずほ銀行の頭取の3トップが順次辞任することが発表されました。NHKや大手新聞社を含め多数報道されていますのでご存じの方も多いかもしれません。各種金融機関を支えるソフトフェアの仕組みやATM運営の詳細を把握していないので、具体的なシステムトラブルの原因究明やその背景については記載しません。

 

ただ、安全管理を生業にする身として、強く関心を抱いたのはみずほ銀行がシステム担当者を3年で57%も減らしていた、毎年10%ずつの経費削減が求められていた、という情報です。東洋経済誌がみずほ銀行のシステム関係者に取材したとされる記事によれば、ソフトウェアの障害もさることながら、フィジカルな機器トラブルも多数発生しているとのこと。その要因としてメーカーによる保守期限が切れた機器を故障するまで使い続けているといった背景があるそうです。

 

尾崎自身でこうしたみずほ銀行内部の事情を調査する能力はありません。ただ、一連の記事が本当なのであれば、金融機関の根幹となる決済システムに対し、(初期投資はともかく)運用・維持管理への投資の発想が不足してたのではないか、と感じます。多くの方が安心して使い続けられる、という条件が求められる大手金融機関のシステム。しっかりと設計・開発し、導入にこぎつけることも大事ではありますが、一度稼働をはじめた後も投資を続ける必要があります。これは尾崎が言わなくても経営者の皆様、世の中の皆様一般論として理解されているはずです。

 

利用客の立場からすれば、銀行側が運営・維持管理をするのは当然だろうというのはごもっとも。ただし、利用客としても必要な費用を手数料等の形で負担しなければなりません。自分たちが安心かつ、便利な生活を享受するためには一定の負担が必要なのですが、なかなかここに意識が向かうことがない、というのは世のあるあるかもしれません。

 

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インフラも住宅も運用・維持管理に「投資」が必要

改めて言われると、当たり前としか言いようがありませんが便利な道具、快適な生活環境を維持するためには一定の「投資」が必要です。

 

我々が無意識に使っている銀行のATMや振り込みの仕組みのみならず、水道やガス、電気といった生活インフラ、あるいは公共交通機関も見えないところで運用・維持管理がなされています。意識しなければ見えないだけに維持管理のための費用が必要なことすら忘れてしまいそうですよね。それでも安全や安心、便利、快適のためには人もお金も必要であることは言うまでもありません。

 

これがおろそかになるとどうなるか、極端な例を挙げるとすれば2021年和歌山県で発生した水道管橋破損と大規模な断水でしょう。決して周辺の住民が費用負担を渋っていたわけではないのでしょうが、結果的には老朽化に対する十分な投資が行われていなかった事例です。この事故により当該水道管で水を運んでいた地域では当たり前に提供されるべき上水供給が完全に止まってしまいました。

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老朽化に伴い崩落した和歌山県の水道管橋(朝日新聞のウェブサイトよりキャプチャ)

類似の事案が発生しないようにするには、行政として上下水道や道路、橋梁等の維持管理費用を増やすしかありません。そしてその必要経費は予算配分の変更もしくは税収の増加で確保しなければならないでしょう。普段自分たちが当たり前のように使っていた水道、道路等に追加の費用負担を求められたときに住民の立場では複雑な思いは生まれるかもしれません。

 

行政がもっとうまくやっていれば・・・という発想もあり得るのでしょうが、これは個人レベルでも起こりえる話です。例えば住宅を建てる、購入した後の維持管理。住宅の購入時にはどうしても数千万円に上る購入費用に目が行きがちです。しかしながら住宅は買ってすぐ使い切るものではなく、数十年にわたり人生の多くの時間を過ごす場所。

あちこちのメンテナンスを疎かにしてしまうと購入当初、暮らし始めはよくても徐々に生活の質は落ちてしまいます。ひどい場合には雨漏りがあったり、外壁が崩落したり、あるいは室内の空気が衛生的に保てなくなってしまったり、という弊害も想定されます。多くの住宅メーカー、マンション販売業者も情報提供はしているものの、どうしても目先数千万円の販売が先立つので説明は小さくなりがち。

 

ここで改めて考えたいのは住み始めてからの維持管理や生活に必要な費用の合計。住宅展示場関連のホームページでも提示されている通り住宅の購入費用は居住期間全体から考えればごく一部でしかありません。自分の生活を快適に保つためにも「ランニングコスト」の費用負担は避けては通れないわけです。自宅の老朽化に対し十分に手が打てていない場合、銀行のような民間企業の責任でも、行政の責任でもなくご自身の責任ということになります。現時点ではなんのトラブルも不具合も起こっていないとしても、皆さんご自身で先手を打って点検や修繕の取り組みを行うことが重要でしょう。

当然ならプロの工務店や職人さんに頼む必要があるわけですからそれなりのコストもかかるでしょう。10年や15年程度しか継続使用ができない機器もたくさんありますので皆さんが生きている間に数回は交換のための費用が必要です。みずほ銀行のように壊れるまで使うという選択肢もありますが、皆さんのご自宅の場合、壊れていない機器を早めに交換するという判断をなされますでしょうか?

 

国や自治体が管理するインフラにせよ、皆さんが責任を持つ住宅にせよ作って終わり、買って終わり、というのはあり得ません。人々の生活を支える目的で、長期間使い続けるからこそ運営・維持管理のための取り組みが非常に重要になってくるのです。そして初期投資だけでなく、運営・維持管理の「投資」は避けては通れないことを忘れてはならないのでしょう。

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住宅の購入時に必要な費用は一生の住居関連費用と比べるとごく一部(mamachiのウェブサイトよりキャプチャ)
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安全管理に必要なシステム・機材は初期投資と運用が必須

海外での安全対策についてもよくある勘違いがあります。経営者や本社の担当部門は安全管理のためのお金と人員を配置すれば仕事は終わったと思い込みがちです。例えば海外拠点に警備員を配置した、監視カメラや防護壁を導入した、あるいは安全な移動のための防弾車を配置した、などなど。しかしながら警備員はその仕事内容を雇用者側がしっかりと指示し、監督しなければ意味がありません。監視カメラや防護壁を設置することは犯罪を抑止することはできても完全に防御を固めるためのものではありません。カメラの映像を常時監視する人員が必要ですし、防護壁の周囲に何か異変がないか定期的にチェックしなければいつ防御態勢が破られてもおかしくないものです。そして防弾車は通常の車よりも数倍重量もありますし、運転技術もメンテナンスにかかる作業もコストもかなり違います。

 

現場にいなければ初期投資だけで安全対策は終わった、これで現場関係者の安全は守られる、と思いがちですが、実際はそうではありません。安全対策のためのお金や人材を継続的に「投資」せず削減対象となる「コスト」としてとらえている間は十分な安全は実現できません。皆さんがご自宅を購入したまま放置しないのと同様、安全対策も運用・維持管理こそ大事なのです。

 

みずほ銀行の場合にはシステムトラブルに関連して金融庁からの行政指導が入り、経営層のトップ3が次々と辞職するという大事になっています。システムを運用・維持管理するための「コスト」を削減し続け、必要な「投資」をしてこなかったツケだとすれば極めて大きな対価を払うことになってしまいました。安全管理についても必要な「コスト」を削減するという発想でいる限りいつかは人命が失われる結果になってもおかしくありません。

 

改めて初期投資だけではなく、関係者の命を守るということはどういうことか、運用・維持管理に必要なお金と人材は十分確保できているかについても考えていただきたいと思います。

 

【参考コラム】

(実務担当者向け教科書)「緊急時用資機材は「買って終わり」ではない!」

 

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