【緊急寄稿】進化する犯罪/襲撃 我々は被害を防げるのか 

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(トップ画像は事件翌日、京王線改札に設置された事件の影響を伝える看板。京王電鉄には罪はないが…)

またしても発生した電車内傷害事案

2021年10月31日、ハロウィーンのイベントも行われている東京都内でまたも悲惨な傷害事案が発生してしましました。東京新宿を起点に西側へと延びる京王電鉄の特急社内で刃物を持った男が乗客を刺した上、ライターオイルと思われる液体をまいて火をつけるという凶行に及びました。

この事件により刃物で刺された70代の乗客が重体となっているほか中学生を含む16人が負傷しています。犯行は単独犯によるもので、事件直後に当該社内で警察が男の身柄を確保しました。警察が取り調べを行っており、各種報道で事件前後の様子が徐々に明らかになってきています。

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車両内であがる火の手(ロイターのツイッターよりキャプチャ)

本事件は電車の車両という密閉空間に乗り合わせた乗客らを無差別に狙うテロ行為の一種と言えるでしょう。ただし、犯人が意図していたか、していなかったかはわかりませんが、確実に命を奪うという犯行手法ではなかった模様です。それでも意識不明になっている方もおられるわけで、断じて許される行為ではありません。負傷された方や逃げる際に怖い思いをされた方に心よりお見舞い申し上げます。

 

今回の犯人は特段何か奇異な行動をしていたというわけではなく、事件直前までは普通に乗客の一人として乗車しています。また、目撃証言によれば犯行中もほとんど無表情で淡々と襲撃を実行していたとの報道もありました。公共交通機関という性質上、不特定多数の人が乗り合わせることは避けられません。世の中にはいろんな人がいますし、大きく刃物を振り回している、であるとか「殺してやる!」と絶叫しているとかそのレベルで異常な行動をしていない限りどこからどう見ても一緒にいたらまずい、という判断は難しいでしょう。

まして事件の当日は10月31日ということでハロウィーンのイベントが行われていた日です。犯人が事件直前に立ち寄ったという渋谷も含め、複数の都市で仮装した方が街なかにいても不思議ではないタイミング。被害に遭われた方の行動にはリスクの高い場所に意図的に身を置いていたであるとか、リスクがある状態に気づかず逃げるタイミングが遅れた、といった落ち度はなく、犯人と同じ電車に乗ってしまったことが全くの偶然、運が悪かったとしか言いようがありません。(当日は京王線を利用するお客さんも多い東京競馬場で天皇賞・秋が行われていました。尾崎の知り合いの競馬ファンも実は同じ電車に乗っていたと聞いています)

 

この事件は本年8月6日に小田急線の車両内で発生した刺傷事案と類似点が多い事件です。実際に犯人も「小田急線の事件を参考にした」と供述したとの報道もあります。ただし、類似と言っても今回の犯行は小田急線での事件よりも洗練されていると言いますか、犯罪者の目線で改善された点がいくつかあります。

犯罪の手口についてこうした場で公にすることは、他の誰かが真似しやすくなるという点で好ましいものではないと考えます。ただし、犯行手法は過去の事例を参考としながらどんどん変化していくことを理解しなければ皆さん自身は身を守れません。これは次々に生み出されるコンピューターウイルスの防御のためにアップデートされるウイルス対策ソフトをイメージしていただくとわかりやすいでしょうか?

 

今後8月の事件、10月の事件を真似た事件が発生した際、皆さんがより適切に身を守っていただけるよう次のページで解説したいと思います。

 

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犯罪を実行する側も「失敗」から学んでいる

8月に発生した小田急線の事件を参考にした、という京王線内切りつけ・炎上事案の犯人。まずは類似しているポイントを列挙してみましょう。

 

 停車駅が少ない=駅間が長く犯行中に乗客が逃げにくい列車を選択(小田急線では快速急行、京王線では特急)

 刃物を持ち込んで乗り合わせた他の乗客を無差別に刺す

 油を撒いて車両に放火しようとする

 

の三点は共通点と言えるでしょう。今回の犯人が8月に発生した小田急線の事件を参考にしたというだけあって、犯行手口は類似性が高いと言えます。いずれも、簡単にマネできてしまうと言えばマネできてしまうポイントですので、今後も類似の犯行が続く可能性は頭の片隅に入れておくと万が一巻き込まれた際の対応がイメージしやすいかもしれません。

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停車駅の少ない列車種別は駅間が長く、その間「逃げ場」が少ない。小田急線の事件は「快速急行」で行われた

他方で、京王線の事件が8月に発生した小田急線の事件よりも工夫されている点が少なくとも二つあります。それは次の二点です。

 

 ハロウィーンのイベントが行われている日に仮装して犯行に及んだ

 小田急線の事件よりも可燃性の高い液体を用いた

 

近年ハロウィーンのイベントが行わる日には若者を中心に普段とは違った奇抜な衣装を着ていても目立つことはなくなりました。特に東京では渋谷を中心として街全体が仮装パーティー会場のようになり、お祭り騒ぎが行われることも大手メディア等で報道されています。「今日(ハロウィーン当日)は奇抜な衣装を着ている人もいるだろう」と思う人が増えれば増えるほど、逆に目立たなくなるという意味で巧妙なカモフラージュと言えるかもしれません。もっともこれは犯行を怪しまれないために犯人が意図してやったのか、単に渋谷のハロウィーン騒ぎにも参加したかったからなのかは現時点では不明です。

 

二点目については意図的な行為と思われます。その証拠に犯人は「小田急線の事件ではサラダ油に火が付かなかったので、可燃性の高いライターオイルを撒いて火をつけた」という趣旨の供述をしています。小田急線の事件では犯人は車両内にサラダ油を撒くところまでは実行したのですが、残念ながらサラダ油にライターやマッチで火をつけようとしても簡単には燃えません。今回の犯人はそれをニュースで知っていたのでしょうか、よりインパクトの強い犯行を実行するために犯行手口を「改良」してきています。その結果、前のページでご紹介したような火の手があっている様子につながっています。もしこれが〇〇〇だった場合にはもっと深刻な事態になっていた可能性もあり得ます。

(本記事の目的は類似の事案に巻き込まれた一般の方が適切に身を守るためのご説明です。犯罪を助長しかねない部分は確固たる意図をもって伏字とし、また本稿と関係のない手口の詳細は記事で取り上げません)

 

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類似の被害に遭わないためのヒント

ご説明したように、「小田急線の事件を参考にした」という犯人の供述の意味合いは「小田急線の事件の犯人が『失敗』した点を自分なりに改善して犯行を計画し実行した」という意味に読み取れます。既に発生した過去の襲撃事案やテロの手法は未来の類似事件の犯人も調査できますよね。犯人側から見て思った通りいかなかった、あるいは目指していた被害規模に至らなかった、という『失敗』を改善してより効率的に、より確実に目的を達成したいという思考回路はごくごく普通のものです。

当サイトで過去に解説したこちらの記事ではテロを中心に解説していますが、皆さんが取り組まれているビジネスと同様、テロや襲撃もヒト・モノ・カネを活用して目的を達成しようとするという点では同じ。目的達成を妨げるような課題があれば先行事例からの教訓を得てやり方を改善するのは当然のことと言えるでしょう。

 

今回のような電車内の襲撃事件はもとより、公道での自動車暴走事件や人が多く集まる場所での通り魔行為などは誰でもできてしまうと言えばできてしまいます。そして今後は過去に発生した事件よりも(犯罪者側から見て)洗練された手法や武器などが用いられることだってあり得るという点に十分ご注意下さい。過去に発生した事件であれば逃げられる、怪我しなくて済むという対策を考えておく、というのでは不十分な可能性があるからです。

攻撃側(犯罪者側)が過去の事例からの教訓を得て、攻撃手法を洗練させてくるならば、我々防御側(被害を受けかねない一般人)はそれに応じた対応手法を工夫しなければならないのです。

 

 

最後に、小田急線や京王線で発生した事件に類似した犯行に巻き込まれづらい行動、万が一遭遇しても死傷する確率を下げるヒントをお伝えしてコラムを終えたいと思います。

 

急いでいない時はあえて各駅停車、あるいは停車駅が少し多い電車を用いる

⇒小田急線の事件も京王線の事件も停車駅がその路線で最も少ない電車が舞台になっています

電車内では周囲の様子を時々観察するようにする

⇒スマホ等に夢中になる=視覚による注意力を自分でブロックすること、イヤホン等で周囲の音を遮断する=聴覚による注意力を自分でブロックすること

万が一の際逃げるとしたらどこに逃げるのが適切か、複数の選択肢をイメージしておく

⇒車両のドアはもちろんのこと前後の車両への逃げ方、出口に至るまでの人の数などを確認する癖を
(ただし、逃げる先が安全かどうか、特に電車の場合はやみくもに車外に出ると対向列車に轢かれる可能性もあるので十分ご注意下さい)

刃物等を持っている犯人に立ち向かわない、写真や動画を撮るのに夢中にならない

⇒ご自身だけが執拗に狙われている場合は別として、緊急事態に巻き込まれた際に大切なのは「RUN・HIDE・FIGHT」の原則です

この項終わり