【代表のつぶやき緊急寄稿】小田急線車内切りつけ事件

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東京小田急線車内での切りつけ事件

2021年8月6日夜、東京都世田谷区内を走っていた小田急電鉄の車内で、刃物を持った男が乗客らを刺した上、逃走する事案が発生しました。

最初に切り付けられたとみられる女性が7か所を刺され重傷、その他合計10名が事件に関連して負傷したと報じられています。事件発生から約1時間半後に逃走していた犯人の身柄が拘束されました。犯人の供述によれば、逃げ場がない電車内でできるだけ多くの人を殺そうとしていた、幸せそうな女性をターゲットにしていた、とのこと。サラダ油のようなものを車内にまき、火をつけようとしていたとの情報もあります。

一連の凶行の動機・手法、そして実際に実行に移したことについては言語道断としか言いようがありません。死亡者が出なかったことが唯一救いではありますが、何ら理由なく怪我を負わされた方の早期の回復を心より願っています。また、まったくの偶然でその場に居合わせ、怖い思いをされた方にも心よりお見舞い申し上げます。そしてコロナ禍での深刻な状況にも関わらず、迅速に対応し事態を収拾させた警察や医療機関関係者には心より敬意を表したいと思います。

 

今回事件に巻き込まれた方は誰一人として過失があったわけでも、犯人に恨まれる理由があったわけでもありません。また事件の舞台となった小田急電鉄が狙われていたわけでもなさそうですし、殊更対策が甘かったというわけでもないでしょう。異常事態が発生した際にたまたま近くにいた、犯人がたまたまこの路線沿線に住んでいたというだけです。

また、凶器として用いられたものも一般人が入手困難なもの、持ち運びや利用が困難なものはありませんでした。ナイフやサラダ油は誰でも買えますし、そこまで値段が高いものでもありません。爆弾を作る必要もなければ、銃を密輸入する必要も、特殊な訓練をする必要もなく、今回の犯人でなくてもできてしまう犯行と言えます。

 

さらに、日本の場合、一部の国が行っているような公共施設、駅、ショッピングモール等人が多く集まる場所に武装警備員がいる、金属探知機がある方が珍しい土地柄です。新幹線を含む鉄道で乗客の手荷物検査を鉄道会社が実施できるようにする法改正も2021年7月1日に施行されたばかり。今回発生したような身の回りのものを使った凶行はどこで起こってもおかしくないと言えるでしょう。

 

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「通り魔」的事件はいつでも、どこでも起こりえる

誰でも入手可能で、持ち運びも使い方もそこまで難しくない道具を使った凶行は誰でも実行可能です。また、特に日本の場合は他国と比して治安がよいこともあって警戒態勢が整っていない場所も多くあります。逆に言えば、今回舞台になった小田急線に限らず、

 

銀座や表参道といった目抜き通り

自治体などの公共施設

スタジアムやコンサート会場の付近

 

といった人が多く集まる場所では似たような「通り魔」的犯行があっても決して不思議ではありません。

実際に東海道新幹線でも乗り合わせた乗客を刺したり車内で自身が油を浴びた上火をつけて放火自殺をするといった事例も記憶に残っておられるかもしれません。

 

現実問題として、類似の犯行をしようとする人が多いとは思えませんが、「こういうことが起こってもおかしくないな」という程度の想定はしておいた方がいいように思います。「通り魔」的事件がいつでも、どこでも起こりえるということは、自分が巻き込まれてもおかしくない、ということ。この種の事件に巻き込まれることを他人事・ニュースやワイドショーのネタ、として消費するのではなく自分事として考えておくことでいざという時命を失う可能性を減らせるということを意味します。

 

では、万が一にもこの種の「通り魔」的な犯行に巻き込まれてしまった際どのように対応すればよいのでしょうか?例えば日本の大手警備会社ALSOKでは以下のような絵と共に、個人でできる防犯対策を紹介しています。

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警備会社ALSOK作成の通り魔に遭遇した時の対応方法(同社ウェブサイトよりキャプチャ

 

当サイトでも基本的な対応はALSOKのウェブサイトに紹介されている通りと思います。強いて違いを一つ上げるとすれば、「通り魔」的事件の場合犯人は「(死傷させる相手は)誰でもいい」と考えていることがほとんどです。よほど皆さんご自身が執拗に狙われる可能性がない限り、いち早く逃げている特定の人を追いかけるということはまずないと言っていいでしょう。そのため、犯人のすぐ近くにいない限りは「背中を見せてでも逃げる」という選択肢はあっていいと考えます。

 

ALSOKのアドバイスと同様、過去当サイトでは

【参考記事】「緊急事態発生!あなたの身を守る三原則」

としていざという時に皆さんご自身の身を守るシンプルな三原則をご紹介していました。

その三原則とは

 

逃げる(Run)

隠れる(Hide)

反抗する(Fight)

 

の三つです。(Fightを直訳すれば「戦え」ですが、ハリウッド映画のように襲撃犯を倒すための戦いをする必要はありません。あくまで皆さん自身の身を守ることが最優先ですので弊社では「反抗する」と意訳しています)ご自身の近くでナイフを持った人物が暴れ始めた、よくわからないけど身に危険がありそうな何か異常な事態が起こっている、と感じたらその場を離れましょう。事件現場から離れれば離れるほど、皆さんの安全は確保できます。もし、逃げることが難しい場合には、丈夫な壁や部屋の中などで事態が収まり安全だと思えるまで隠れましょう。

 

上記二つで対応できない場合、すなわち目の前に皆さんの命を狙う犯人がいる場合は死に物狂いで反抗するしかありません。背景や理由はどうあれ、何もしなければ殺される!という場合には無抵抗でいては生存率は0%です。反抗して生き残れるかどうかはわかりませんが、生き残るためにベストを尽くしてください。

 

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自分の注意力・観察力を自ら放棄しない

さて、「通り魔」的事件の際のご自身の身の守り方を前項でお伝えしました。

ただし、こうした防御策を取るための大前提があります。それはいち早く異常事態に気づく必要があるということ、逃げるにせよ、隠れるにせよ、「危ない!」ということにいち早く気づかなければ身を守る行動がとれません。つまり、自分の近くで普通ではないこと、自身に危険が及びうる現象が発生していないか注意していなければそもそも逃げることすらできません。

 

例えば、今回事件が発生した小田急線の車内をイメージしてみましょう。実際にどうだったか、は別にして一般的に電車の中でスマートフォンでゲームや動画、チャットアプリ等に夢中になっている方はよく見ます。視線をスマホにばかり集中させるということは、「視覚」をつかった周囲への注意を放棄しているとも言えます。イヤホンを使って大音量で音楽や映画の音声を聞いている方も多くいらっしゃいますが、「聴覚」を使った周囲への注意を放棄しているとも言えます。

皆さんご自身の注意力・観察力を自ら放棄するということはどういうことか?万が一何か異変があっても気づくことができず、逃げる前に被害を被る可能性を挙げてしまうということです。今回の事件でも犯人が車内で刃物を取り出した直後に気づくことができていた方はいち早く別の車両に逃げるといった行動ができたはずです。

 

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スマホとイヤホンを使って「視覚」「聴覚」による注意力を放棄していると場合によっては命の危機から逃げ遅れることも(イメージ画像(https://www.pexels.com/より))

 

人間による「通り魔」事件ではなくても例えば、フランスでは近くの競馬場で騎手を振り落としパニックになった競走馬がカフェに乱入するという事案が発生したことがあります。通り魔やテロではなく、動物による不測の事件ではありますが、このような「想定の範囲外」の出来事が起こることだってあるのです。この時の監視カメラの映像を見る限り、当時店内にいたお客さんや店員さんはいち早く異常事態を察知し、怪我無く逃げることに成功しています。この映像を見る限り店員はもちろんのこと、お客さんの誰一人として「視覚」「聴覚」を放棄し、観察力を落としていた方がいなかったことがけが人すら出なかった一つの要因でしょう。

【参考記事】「【参考情報】暴れ馬が来ても早く気づけば逃げられる」

 

「通り魔」的犯行であれ、動物や機械の暴走・暴発であれ本当に大事なのはご自身の命をご自身で守ること。そのためには視覚も聴覚も使って周囲の異変をいち早く察知することです。海外ではなく、日本国内での事件をきっかけに、ご自身の日ごろの注意力の在り方を見直してみてはいかがでしょうか?

この項終わり