安全対策は理論立てて検討できる
こんにちは、代表の尾崎です。
本日から9月です。いよいよ秋の訪れを感じる頃合いです。同時に9月1日は関東大震災が発生した日であり、「防災の日」でもありますね。
昨年の9月にも台風が次々と日本を襲ったタイミングで「旅行先ではみな「災害弱者」にな」というコラムを更新しています。日本語が通じ、土地勘のある場所であれば災害に見舞われたとしても避難できますが、旅先ではそうはいきません。普段被災しても何とかなる、と考えている方ほど、いざ「災害弱者」になった際の被害は大きくなりがちですので、十分ご注意下さい。
さて、当サイトでは安全対策は情報を吟味し、理屈に基づいて適切な対応を講じることができれば想定されるリスクをかなり低減できるという立場に立ちます。次回以降のコラムでは改めてリスクの想定の仕方と対策の検討方法をお伝えしますが、イメージとして次のような図を思い描いてみてください。
皆さんが渡航される国・地域はその特色によって存在する脅威がかなり違っています。日本ではまずありえないリスク(爆弾テロや一般人を標的にした銃乱射、あるいは日本とは比べ物にならない頻度で発生する窃盗など)にも対応しなければならない国・地域があることはご理解いただけると思います。そうした地域で日本と同じように過ごすことは、ご自身の身の安全を「運」に任せることを意味しますね。
「運」が良ければ何も悪いことは起こらないのですが、できる限りリスクを減らすためにはそれぞれの国・地域に存在する脅威に応じて適切な安全対策を講じる必要があります。上の図では青色の矢印が安全対策を示しています。赤い丸で示されるその国・地域ごとのリスクを適切に把握し、必要な安全対策を講じれば、自ずと降りかかるリスクを点線の丸まで下げられるという理屈が成り立つのです。
人間社会は自然災害の前に無力ではありますが、それでも理論立てて検討することで
・堤防を建設する
・建物の耐震性を高める
・早めに頑強な施設に避難する
・万が一に備えた飲食料品の備蓄を行う
などが適切な対策として認知されていますよね。テロや襲撃、誘拐、あるいは強盗、窃盗などの犯罪行為に対しても、ある程度理屈で適切な対応を導き出すことができるのです。
ただし、理屈を頭で理解し、適切な安全対策を講じているつもりでも人によっては渡航先で安心できるとは限りません。
安全対策の強化は必ずしも安心材料ではない
適切な安全対策は理屈で導きだせるのですが、その一方で、どれだけ安全対策を講じたとしても安心しきれないという方がいらっしゃいます。
理屈上は適切な安全対策を講じているのに、本当に防ぎきれるかわからず心配だ
理屈上のベストの安全対策を講じる予算や時間がなく、不安が尽きない
こうしたお声は安全対策のコンサルティングを行っていてもよく聞きます。こういう時にお答えしているのは「安心安全」をごちゃまぜにしてしまうといつまでも解消しませんよ、というお話です。安全は科学的なデータや過去の統計などから理屈で説明できるお話です。
しかしながら、安心というのはあくまで一人一人の感情のお話。理詰めで説明されても納得しきれなければ不安は解消されません。頭はわかっているのに、心が納得できない、というケースだってあるでしょう。現在世界的に発生している新型コロナウイルス感染症も科学的な分析結果や統計情報以上に不安感による現象も引き起こされました(マスクや消毒薬の買い占め・転売などはその事例でしょう)。
反対に新型コロナウイルスのワクチンができれば安心だ!という声もありますが、実際にはワクチンを接種してもすべての人に効果があるかはわかりませんし、さらに新しい(ワクチンの効果がない)ウイルスが発生してしまえば決して安全ではありません。人々が安心しているからと言って安全とも言い切れないのが現実です。
似たような事例に食品の安全性と安心感・信頼感の問題もあるかもしれません。私が獣医学部に在籍していた頃はいわゆる「狂牛病」(牛海綿状脳症)の影響で国内で食肉用に生産された牛の脳をすべて検査していましたが、科学的には無意味であると言われていました。牛肉を食べる人の安心には寄与していたかもしれませんが、科学的な意味で安全の確保に役立っていたかと言えばそうではなかったのです。
こうした背景を踏まえ、安全対策を担当する部門の方は理屈で説明可能な安全対策はもちろんのこと、実際に渡航される方の安心、つまり感情面にも配慮して説明ができることが望ましいと言えます。余裕のある企業・団体であれば実際に渡航する方の不安を一つ一つ説明し、納得感のある安全対策を管理部門・安全対策担当者・海外事業部門・渡航者等で議論することができればベストでしょう。
自然災害にも当てはまりますが、どんな状況になっても被害が全く発生しない、という対策は不可能です(もし海外での被害を完全にゼロにするならば海外に行かない、というのが最適解です)。安全対策に関する理屈と各種の制約条件から関係者が納得できる安全対策を生み出すことが安全対策担当者の腕の見せ所ですね。
もし、渡航される方に対して安全対策をどのように説明するか、どうやれば海外での注意事項を適切に伝えられるか、などにお悩みの安全対策担当者の方がいらっしゃるようであれば有料講座「安全対策情報の収集術と社内伝達の秘訣」の受講をご検討下さいませ。
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