犯罪やテロに「大型連休」はない
2025年も5月の半ばの声が聞こえてきました。日本国内ではいわゆる「ゴールデンウィーク」があり大型連休だった方も多いかもしれません。他方で、お正月時期と違い日本企業であっても海外の子会社・事務所は通常営業だったというケースもあったのではないでしょうか?日本の本社がお休みでも海外で人が動いている場合、海外で従業員・関係者が事件や事故に巻き込まれた場合、普段よりも初動が遅れてしまいます。これはあまり望ましい状態ではないのですが、日本側で休まないということも不可能ですから、休暇を前提にした安全対策体制を構築しなければなりません。
もう一つ注意しておくべきなのは、犯罪やテロに「大型連休」はないということです。世界各地で多く発生している裕福に見える外国人を狙った窃盗や強盗の犯人たちにとって日本がゴールデンウィークかどうか、あるいはお盆休み中かどうかは活動を控える理由になりません。では、日本だけでなく比較的世界全体で休みが共通しているクリスマス/年末年始休暇の場合はどうでしょうか?全世界共通の大型休暇シーズンであればさすがに犯罪を試みる人は減るのでしょうか?いやいや、実は逆です。むしろクリスマスマーケットや年越しのカウントダウンイベント等、警戒心が下がる人が大勢集まりやすいのがクリスマスから年末年始の特徴です。こうした特徴から、年末年始を含む大型連休には窃盗や強盗の格好のチャンスになります。そのほか、タイのソンクラン、インドのホーリー、エチオピアのティムカット、あるいはイスラム教徒の多い国での断食明け大祭(イード)といった各国の伝統的お祭りのタイミングも実は犯罪が増える傾向が確認されています。
加えて、テロを企図する側からすれば、休暇モードで浮かれた方が多く集まるような会場は格好の標的です。警戒されにくく、また首尾よく爆発や銃撃、あるいは車両の突入ができれば発生する被害は甚大。なんらかの主張や要求をもっているテロリスト、単に社会不安を惹起したい人物にとってはむしろ大型連休、祝祭イベントはねらい目と言えます。例えば、過去10年間でクリスマス時期に発生した主要なテロを挙げるだけでもこんなにたくさん挙げられるのです。
2022年アメリカミシシッピ州クリスマスパレード付近銃撃事案
日本の本社が連休中であろうが、担当者が休暇を取っていようが、海外の事業現場に関係者・従業員がいる限りテロや犯罪は休んでくれないというのが偽らざる実態ですね。
日本の連休中に海外の安全管理を担当する方が行うべき二つのこと
1)日本の連休中、本社側の情報収集、緊急連絡や初動が遅くなりがち
2)海外を含め大型連休や祝祭イベント中に多い人が多く集まる機会は犯罪やテロのリスクが高まる可能性がある
という二点で実は平日の業務中、あるいは一般的な土日以上に大型連休は安全管理に気を使わなければいけないという実態があります。そのため、実はゴールデンウィークはもちろんのこと、これからやってくる夏のお盆時期、あるいはクリスマス~お正月休暇の頃には普段以上に安全対策のための入念な準備をおススメしています。このコラムでは特に安全管理の実務を担当されている方向けに、連休前にやっておくべき準備を具体的にお伝えしたいと思います。
一つ目は連休中の緊急連絡網の再確認です。普段の勤務体制であれば本社内の緊急対応関係者にすぐ連絡がつかなくても、近くに同じ部署や副担当の方、あるいは担当者の上司がいらっしゃることがほとんどでしょう。このため緊急連絡網の更新が追い付いておらず人事異動が反映されていない、電話番号の変更が反映されていないといった古い緊急連絡網が手元にあったとしても、リカバリーが可能です。しかしながらこれが連休中に起こるとどうなるか…は私が詳しく文章で書くまでもありません。
緊急連絡網の更新は特に人事異動が多い時期や社用の携帯電話を更新する際などに必ず対応していただきたいことの一つ。そしてできれば4,5日以上オフィスに出勤しないタイミングがあり得る大型連休前にも見直していただきたいところです。実際には連絡網がまるっきり変わるということはまずありえません(もし大型連休前の連絡網見直しに長時間かかるとすれば、連絡網の更新をサボりすぎていることになります。更新されない連絡網は無意味ですよ!)。おそらくは10分程度の確認・更新作業で完了しますので、ぜひこの取り組みは行っていただきたいと思います。
【参考コラム】連絡網更新を止めるな!
二つ目の取り組みは休暇中、海外に駐在・出張する方のリストを整理しておくことです。誰がどこにいるのか、どの国に何人の関係者が渡航しているのかを把握していなければ適切な初動はできません。ご自宅や休暇先にいらっしゃる際、なにか大きな事件・事故が発生しました!というニュース速報を見た時に、そもそもみなさんが対応すべき事態なのかを瞬時に判断できますでしょうか?この国には自社の関係者はいないな、くらいの判断はできるかもしれませんが、大きな組織になればなるほど細かい出張スケジュールが頭に入っている安全管理担当者はほとんどいません。また、2025年5月に発生したインドとパキスタンの急激な軍事的緊張の高まりのようなケースでは駐在者に帯同しているご家族の人数なども把握していなければ国外への避難に備えることすらできません。
本社のデータベースにすぐアクセスできれば、あるいは出張者の所属部署の方と速やかに連絡本社内で正確に特に情報が手に入るのであれば、手元で駐在者・出張者がすぐにわかっていなくても何とかなるかもしれません。ただ、数日以上の間組織の駐在者・出張者データにアクセスできない、正確な宿泊先や業務内容に応じた行動範囲を確認しようにも担当部署の方と連絡がつかない、といった状況になってしまうとお手上げですよね。しばらく休みが続くことがわかっているのであれば、全世界のどこで、どんなことが起こっても瞬時に初動が取れるよう休み中の海外渡航者リストを作っておきましょう。できれば紙で印刷して保管しておくことも推奨します。いざという時に一覧性が高く、また安否確認結果のメモを残したりすることができるのが紙のリストの良いところ。休み中は仕事用のパソコンを起動するのもおっくうでしょうから、こうした小さな工夫がおススメなのです。
いかがでしょうか?
それほど大型連休前に意識しておくとよい、おススメの対応策2つ、実は手間もコストもほとんどかかりません。しかしながらこうした小さなことを馬鹿にせず、しっかりと取り組んでいる会社はそれほど多くないのです。むしろ、え?これだけ?と感じるようなことを抜かりなく対応しておくことで万が一日本の連休中に海外で何らかの事件・事故が遭った場合に適切な対応ができるのです。安全管理に絶対の正解はありませんが、予防策やダメージコントロールは可能です。少なくとも今回ご説明したような取り組みを怠らない企業は同業他社、あるいは海外進出している日本企業の中で「一歩先」を行くことができるのです。
この項終わり