日本人の海外安全対策にそびえる三つの壁

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「たびレジ」利用者はわずか3%(内閣府調査)

新型コロナウイルス対策として2020年から2022年夏ごろまで多くの国で出入国の規制が極めて厳格化されていました。日本も例外ではなく入国する外国人の数も日本から海外に渡航する日本人の数も2020年、2021年と明確に急減しました。2022年は年後半から多くの規制が緩和されたこともあり少しずつ回復しているようですがそれでも「コロナ前」の水準に戻るにはまだまだ時間がかかりそうです。

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日本政府観光庁による出国日本人数統計からコロナの影響は一目瞭然

 

そんな状況下ですから数年ぶりに海外旅行にいらっしゃる方が増えていることは想像に難くありません。いかに旅慣れた方でも数年ぶりに行う海外旅行となると、

 あれ、出発前の準備はこれでよかったかな?

 荷造りのやり方はこれでよかったっけ

 現地で安全に過ごすために無意識にやってたことがあったような…

といった戸惑いを覚えることもあるのではないかと思います。

 

このサイトでも繰り返し取り上げているように無防備な状態で不意に犯罪や襲撃に遭遇する際が最も被害が大きくなります。旅慣れている方でも、いや旅慣れていた方だからこそ今の時期は改めてご自身の身を守るために必要な取り組みを忘れずに行って欲しいと思います。特にコロナ禍を経て情報発信力が高まった日本政府外務省が運営する「たびレジ」の登録はぜひおススメしたい取り組みです。

外務省の「たびレジ」登録画面

 

しかしながら、この「たびレジ」いい仕組みであるにも関わらず日本人の皆さんになかなか取り入れてもらえていないという実態があるようです。2018年に内閣府が実施した「海外安全に関する世論調査」の結果を見てみましょう。この調査は2018年8月30日から9月9日まで1743名に調査員の方が個別面接を行い、聞き取った内容をまとめたものです。

調査結果のポイントを抽出してみると次のようになります。

1)自分や家族が海外に行く際、渡航先の治安や災害に関する情報を調べるか?

「調べる」(72.8%)

「ときどき調べる」(9.8%)

両者の合計で82.6%。

2)テロなどの緊急情報をメールで受信できる外務省の登録制サービス「たびレジ」を利用しているか?

「すでに利用している」(3%)

 

とのこと。

 

自分や家族が海外に渡航する際の現地治安情勢はかなりの方が気にしてはいるものの、「たびレジ」を知らなかった方も多いのか、「すでに利用している」と回答した方はわずか3%。産経新聞の報道によるとこの結果には外務省の幹部も「さすがに寂しい」と回答したのだとか。

 

海外に行かないので関心はない、と回答している方もいるとは言え、税金を原資にしてシステム予算をつぎ込み、人気芸人のケンドーコバヤシさんにも協力してもらってキャンペーンを張ってもなお利用率が3%というのはちょっと残念な結果でしょう。当サイト代表の尾崎も過去に夏休みの「たびレジ」登録キャンペーンの目標が低すぎるのではないか、との主張をしています。本人の強い意志もあり、タイトルが「これでいいのか『たびレジ』登録キャンペーン」と挑戦的ですが、尾崎は「たびレジ」はもっと使われるべき優れたシステムであると認識しているが故にコラムを書いたと発言しています。

当サイトは日本政府外務省とは無関係に運営されていますが、代表以下「たびレジ」が使われていないことを残念に思っています。そこで、今回はどうすれば「たびレジ」をもっと使ってもらえるのか、また使ってもらうまでにどのような障壁があるのかを考えてみたいと思います。(繰り返しになりますが、日本政府外務省の公式見解ではありません。日本人が海外で事件・事故に巻き込まれないことを切に願う一般人集団の考えです)

 

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海外で危険に直面する可能性は認識されている

「たびレジ」の利用率はわずか3%と大変残念な結果ではありましたが、当サイトでは同じ調査に光明も見出しています。それは

自分や家族が海外に行く際、渡航先の治安や災害に関する情報を調べるか?

と問われて「調べる」「ときどき調べる」と回答された方が我々が思っていたよりも多かったこと。詳しくは承知していなくても海外はそれなりに危険があるのだ、という点は認識されていることが分かりますね。

 

内閣府アンケート調査結果報告書より抜粋

 

日本から海外に渡航される方は概ね1800万人程度。このうち70%以上の方が出発前に渡航先の治安や災害リスクを調べられているということが推測されます。ただ、その調べ方を確認してみると日本政府外務省の公式な情報は第4位。クチコミやガイドブック、旅行会社の説明等、情報源から察するにどちらかと言えば旅行先の情報のついでに調べているという印象を受けました。

外務省や内閣府といった日本政府の立場ではせっかく政府が準備した(原資は国民の税金ですね)外務省の情報をもっと使ってほしい、という感覚なのではないかと推測しています。

 

当HPではこれら調査結果から、海外に旅行される方の多数派は

 

「海外に危険があることはなんとなくわかっている。

でも治安や災害リスクの調べ方がわからないので、旅行情報チェックのついでで済ませている」

 

という状況なのではないか?と考えました。

 

こういった方々の大部分は海外旅行慣れされている、もしくは世界各地に駐在されている方ではないでしょう。では、海外旅行を楽しむ、留学で成果を得て帰国する、出張で業務を遂行する、といった目的で海外に出発される方がより安全に過ごせるよう、どのようなアプローチをすればよいのでしょうか?

 

海外安全セミナー

三つの壁を認識しながら取り組みを

アンケート調査結果などをみながら当HPがイメージしたのは下の図です。主体的に安全対策を実践し、自分で自分の身を守れる人になるまでには、

「海外に危険があることを認識する」

「海外での危険の調べ方を知っている」

「海外での危険に対処する方法を実践する」

の三つのステップがあり、それぞれに壁があるのではないでしょうか?

 

今回のアンケート調査結果から読み取れるのは、「海外に危険があることを認識する」ことはできているけれども海外での危険の実態をどのように調べればよいのか、がわからない人が一定数いるという事実でしょう。ただ、下の図で示した壁を越えてもらうためには効果的な働きかけをそれなりに繰り返さなければならないのだと思います。

 

想像してみてください。

新卒で採用された社員が成長していく過程も似たような壁があるのではないでしょうか?

 

第一の壁は任された業務と自分の能力のギャップに気づくこと。

第二の壁は気づいたギャップを埋めるために、上司や先輩の指導を受け、関連書籍等を読み能力を高めること。

第三の壁は実際に高めた能力でより効率よく、大きな成果を出せるようになること。

 

少なくとも一般的な企業で管理職を任せられるようになるためには、このような三つの壁を乗り越える必要があるはずです。

海外での安全対策、自分の身を自分で守るという点において、日本人はこれまであまり必要性を感じてきませんでした。ただ、これから先さらに日本から世界に渡航する方が増えること、そして世界中どこでどんな事件・事故・災害が発生するかわからないこと、を考えれば「自分の身を自分で守る」能力を高めておくことは社会的課題ともいえるでしょう。

既に日本政府外務省は「たびレジ」登録キャンペーンやゴルゴ13とコラボレーションした「中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」などを作成しており、土台は整っているはず。ここから先はそれぞれの壁を乗り越え、最終的には海外に出発する日本人一人一人が「主体的に安全対策を実践できる人」になれるよう根気強く取り組むことが必要なのだと思います。

当HPは日本政府外務省とも内閣府とも一切関係がありません。しかしながら、自分の身を守れ、世界で大活躍できる日本人が増えて欲しいという願いを持っている団体です。政府機関の動きも横目で見ながら微力ながら貢献できるよう取り組んでまいりたいと思います。

 

この項終わり