不審物を見たら連絡を!と言われても
新型コロナウイルス感染症の世界的拡大の影響で一年遅れた東京オリンピック、パラリンピックも先般無事に閉幕しました。感染対策はもちろんのこと、テロ等への警戒のために、東京都内では各地で警察官の姿を目にしました。選手村周辺や競技場ではより一層厳しい警戒態勢が敷かれており、液体検査装置や金属探知機等、空港の保安検査と同等かそれ以上のレベルのセキュリティチェックが行われていました。
(選手村入口で用いられていた最新型液体検査機は10月20日~23日幕張メッセで行われる「テロ対策特殊装備展」の一部で展示されます)
皆さんがイメージしやすいように、空港のセキュリティチェックの映像を入れてみました。こうしたセキュリティチェックでは爆発物や禁止薬物、あるいは刃物といった持ち込み禁止物品が荷物に含まれていないか、検査されていますよね。具体的に持ち込みが禁止される物品がイラスト共に表示されているのをご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。こういう表示がされていれば、我々、一般の旅行客も何を持ち込んではいけないのか、どんなものが航空機にとって「危険物」とみなされるのか理解しやすいですね。
他方で、似たような意味合いではありますが、よく考えてみると何を指しているのかわかりにくい言葉もよく使われています。その言葉とは「不審物」。なんとなく怪しいもの、得体のしれないもの、というイメージが先行しますが、具体的に何が「不審物」なのかはあまり明確になっていないのではないでしょうか?
具体的な事例を見てみましょう。上の写真は2019年、大阪で開催されたG20 サミットの前に各所に掲示されていたポスターです。こちらで目立つ注意書きは
「不審な行為・不審物を見かけたら・・・係員・警察官へご一報を!」
となっていますね。
併せて不審物発見時の三原則
・触れない
・嗅がない
・動かさない
という注意事項も目立つように書かれていますが、一つそもそも論の疑問が。
不審物って具体的にどんなものなのでしょうか?
不審物に「不審物」とは書かれていない
こうしたポスターに限らず、不審物という言葉そのものは日本でよく使われています。各都道府県の警察も日頃から不審物を見つけたらすぐ通報するよう呼びかけているくらいです。ただし、「不審物」がどんなものなのか?は日常生活で話題に上りませんよね。なんとなくイメージとして危なっかしいもの、といった理解をしているものの、具体的に何が不審物なのか、と言われると答えに詰まる方がほとんどではないでしょうか?
実際に警視庁のウェブサイトで公開されているマンガ「あなたが救える明日がある!」では以下のように不審物が説明されています。
代表的な「不審物」の事例は以下の四つ。
・放置された荷物
・必要以上に厳重な包装がされた箱等
・中から機械音が聞こえるもの
・中から液体や粉の汚れがにじみ出ているもの
いかがでしょうか・・・。
皆さんはこんな荷物を見たことありますか??日常的に「不審物」という言葉を使う回数に比して実際に「不審物」を見かけた経験は圧倒的に少ないのではないかと思います。なぜでしょうか?
まず第一に考えられるのは不審物を不審物として認識できていない可能性が考えられます。本当の不審物に「不審物」と名札が貼られていることはまずありえません。
また、たとえ不審物の要素に当てはまるものがあったとしても、多くの方はそれが本当に不審物なのかどうか確信が持てず、なんとなく通り過ぎてしまっていることもあるかもしれません。具体的に不審物がどういうものなのかわからないので、致し方ないですよね。
いずれにせよ、日本国内でのテロ対策のために警視庁をはじめ全国の警察が呼びかけ続けているのは二点。見分けづらい「不審物」がないか、より多くの方に自分の周囲に注意を払ってもらうこと、そして何か怪しいものがあればすぐに警察に声をかけてほしいということです。
「不審人物」もイメージと違う可能性大
「不審物」という言葉同様、日本でよく使われるのに、定義がはっきりしないという単語に「不審人物」あるいは「不審者」があります。
犯罪を犯したことが確定した人物であれば、「犯罪者」あるいは「犯人」ですから、これは言葉の定義ははっきりしています。また、犯行が疑われている人はその時点で「犯罪者」ではありませんが、「容疑者」あるいは「被疑者」として取り調べを受けることになります。
では「不審人物」「不審者」とはどのような存在なのでしょうか?見るからに怪しい外見の人?犯罪を計画中の人?犯罪を起こしそうな人?
思い切って具体的な「不審人物」の要素を考えてみましょう。
・サングラス/帽子を目深にかぶる
・マスク
・派手なピアス
・入れ墨
などが「不審人物」の特徴として思い浮かべやすい要素でしょうか?
しかしながら、これれは本当に不審人物を浮き彫りにする要素でしょうか?人を見かけで判断してはいけない、先入観を持ってはいけない、と教えられることが多い日本ですが、「不審人物」と言われるとどうしてもまず見た目で判断しがちなことがわかりますね。
そうなんです、本当に犯罪を計画しているかどうか、犯罪を起こすつもりがあるか、そして犯罪を実行するかどうかは見た目に一切関係ありません。実際に警察庁のデータに基づきALSOKが公表している子供の略取誘拐事案の分析を見てみましょう。子供たちは家や学校で「知らない人、怪しい人についていってはいけません」と教えられているにも関わらず、被害者の半数が自ら犯人について行ってしまっているのです。
もし教えられているようなサングラスにマスク、派手なピアスに入れ墨、といった「いかにも」な見た目の不審人物であれば被害に遭った子供たちの半分が自分でついて行って被害に遭うとは思えません。むしろ、スーツにビジネスバッグといったサラリーマン風(立派な大人に見える)、近所のおじさん/おばさん風の容姿(優しい大人に見える)が声をかけるからこそ、子供たちがついて行くのではないでしょうか?
さて、長くなりましたが、「不審物」「不審人物」という言葉がいかに曖昧なのかわかっていただけたでしょうか?言葉の定義が曖昧であるがゆえに、我々も具体的に「不審物」「不審人物」をイメージできず、必然的に
「不審物・不審人物に要注意」
という決まり文句が意味をなさなくなってしまっているのです。これを踏まえて、次回は不審物、不審人物を実践的に見極めるため、そして関係者に具体的な要注意ポイントを理解してもらうためのコラムをお送りします。
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