組織としての安全管理 ‐安全配慮義務‐(前編)

 

これから何回かに分割して企業・団体様向けに海外での安全管理に関するコラムを更新します。初回となる今回は海外に社員を送る際の大前提となる安全配慮義務について説明します。

 

企業・団体として海外展開する際の法律上の義務

 

近年、過労死問題がメディアでも大きく取り上げられるようになりました。日本人なら誰もが知っているような有名企業でも、過労死問題により、被害者遺族から訴えられる、社会的に信用を失う、といった事態にもつながっています。

また、過労死のみならず、建設現場での事故死、勤務中に大規模な自然災害が発生した際の対応、といった事例でも安全配慮義務違反とされた判決もあります。自然災害の発生そのものは人間の力でコントロールできませんが、その後の対応が不十分な場合でも多額の賠償金支払い命令が下されたこともあるのです。

 

こうした従業員や関係者が死傷した場合、企業・団体側がなぜ責任を負うか、と言えば、「労働契約法」に次の条文があるためです。これを雇用者の安全配慮義務と呼びます。この労働契約法に記載があることで、企業や団体と雇用者間の雇用契約や就業規則に記載がなくとも企業・団体側が雇用した人に対して、十分な安全を確保する義務を負うことが明確になっているのです。

 

第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

 

もし、企業や団体の業務上必要な出張もしくは海外駐在中に何らかの理由で従業員・関係者が死傷してしまったら・・・。この安全配慮義務に違反するような出張・駐在が行われていなかったか、企業や団体の責任が問われることになるのです。

 

自然災害と同様に、海外でのテロや襲撃事案、政治不安に伴う暴動や感染症等の発生を日本企業・団体が未然に防ぐことはできません。しかしながらその発生を予見できなかったのか、また事案の発生後に雇用者の安全を確保するための適切な行動がとれるよう準備していたのか、を問われる可能性があります。

先ほどご紹介した自然災害の事例では、地震発生後、津波が来ることが分かっていたにも関わらず教習生や従業員を適切に避難させなかった自動車学校が20億円近い損害賠償金を支払う結果となっています。たとえ、発端となる事案を防ぐことができないにせよ、その後の適切な対応が取れず、安全配慮義務違反とされてしまえば、訴訟リスク、社会的な信用毀損リスクを抱えることになるのです。

【次ページでは・・・具体的に安全配慮義務違反が指摘されうる事例4つのうち2つをご紹介しています】