組織としての安全管理 ‐安全配慮義務‐ (後編)

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安全配慮義務の観点で問題になる事例

前回のコラムでは、日本でも起こりうる長時間労働や異文化への適応の事例を取り上げました。今回はより安全対策に直結した安全配慮義務上の問題をご紹介したいと思います。

 

3)海外勤務中にテロや襲撃事件、暴動等に巻き込まれ死傷した

2016年7月のバングラデシュ首都ダッカにおけるレストラン襲撃事件(日本人7名死亡)、2013年1月のアルジェリアにおけるプラント襲撃事件(日本人10名死亡)等を筆頭に、海外でのテロで日本人が命を落とされる事例は繰り返されています。

日本企業が比較的多く進出している東南アジア諸国での小規模な爆発や襲撃事案は相次いでいます。そういった事例で日本人の方が死亡したという話は聞きませんが、命に別条がない怪我を負うケースは発生しています。

 

こういった事案が発生した際に企業・団体側が問われるのは、駐在者や出張者に対して安全配慮を十分に提供できていたかです。具体的には以下のような項目について組織として取り組んでいたかが問われます。

 

 ・現地の治安リスクを十分に説明していたか?

 ・駐在者/出張者がそのリスクを理解していたか?

 ・緊急事態が発生した際の非常用連絡先が整っていたか?

 ・緊急事態が発生した際の対応マニュアルが準備されているか?

 ・対応マニュアルが運用できる体制になっていたか?

 

これらが整ってもいない状況で従業員を海外に駐在・出張させ、死傷事案が発生してしまった場合には安全配慮義務違反とされてもおかしくはないのです。

 

4)海外勤務中に交通事故で負傷したが適切な治療が遅れた

テロや襲撃事案などそうそう起こらないでしょう?

わが社ではテロや襲撃の被害を受けたことはこれまでない

 

というご意見をお持ちの方もおられるかもしれません。

では、交通事故はいかがでしょうか?日本で交通事故が発生した場合は速やかに警察や救急車などが駆けつけてくれます。こうした対応の「プロ」である行政や救急病院にお任せすれば、従業員の命を救ってくれる体制が整っています。また、事故後の対応も普段の業務連絡同様、日本語で報・連・相を行うことも可能でしょう。

ただ、海外で従業員が交通事故に巻き込まれた場合はどうなるでしょうか?ごく一部の先進国以外では、交通事故の現場で当事者同士が責任を擦り付け合い口論する、もしくは一方の当事者がそのまま逃走する、といった事例はよくあることです。また、救急車が速やかに駆け付けることも一般的ではなく、救急体制の整った病院(たいていは私立病院)に誰かが連絡し、手当を要請しなければ救助がはじまりません。加えて、距離の離れた日本の本社からはそう簡単に支援することもできません。

 

 

交通事故被害を受けて負傷した従業員が迅速・適切な治療を受けられずに怪我が重症化してしまった場合、また後遺症が残ってしまうこともありえます。土地勘のない国・地域で、事故に巻き込まれ、外国語で痛みや症状を伝えなければならない状況となった方の不安はいかほどでしょうか?適切な会社の支援もなく、後遺症が残ってしまった場合、被害者の選択に会社・団体の訴訟も視野に入ってくるでしょう。

 

 

ご覧いただいたように、交通事故の場合でも、海外に関係者を送り込む以上、次のような項目について組織として取り組まなければ安全配慮義務違反が指摘されかねません。

 

・海外での医療アシスタンスサービスの契約があったか

・交通事故等が発生した際の非常用連絡先が整っていたか?

・交通事故等が発生した際の対応マニュアルが準備されているか?

・対応マニュアルが運用できる体制になっていたか?

 

【次ページでは・・・万が一安全配慮義務違反を指摘されたら…想像以上の「被害」もあり得ます】