【事案分析】タジキスタン 外国人サイクリストへの襲撃事案

トップ画像はAssociated Press配信の写真(USNewsHP)より

事案の概要

〇7月29日(日)日中、タジキスタン中部、ダンガラ付近で、外国人サイクリスト7名が自動車とナイフで襲撃を受ける事案が発生

〇7名のうち4名が死亡(アメリカ人2名、スイス人1名、オランダ人1名)、3名が負傷(スイス人1名、フランス人1名、オランダ人1名)

〇犯人グループは少なくとも5名。

〇犯人らはまず自動車でサイクリストの集団を轢き、その後自動車から降りてナイフで倒れている外国人を襲ったとされている。

〇犯人のうち1名は事件直後に拘束され、残る4名は治安当局によって殺害された。

〇後日事件との関連があるとしてさらに4名が逮捕されたが、事件との直接的な関係性は不明。

〇事件後にISISが犯行声明を発表。犯人グループとされる5人のタジク人男性がISISの指導者バグダディへの忠誠を誓う動画が公開されている。

〇なお、ISISがタジキスタン国内でのテロ行為に関し、犯行声明を発表するのは初めて。

〇後日、タジキスタン内務省は拘束した実行犯一人の証言を理由に犯人グループはISISではなく、2015年に同国内での活動が禁止されたイスラム復興党(ISPT: Islamic Renaissance Party of Tajikistan)の関係者であると発表。

〇犯人の証言から、犯人グループはイランで襲撃の訓練を受けたとも発表したところ、イラン政府は反発。在イランタジキスタン大使を呼んで外交ルートで抗議。

〇亡命中のISPT党首も本事案に対する関与を否定し、「タジキスタン政府の発表は真の犯人を見失う」として批難。

 

 

ISISがアマク通信で発表した本件犯人グループとされる映像(SITE Intelligence HPより)

簡易な分析コメント

本件は一定の計画に基づいて、外国人を標的に実行されたテロ行為です。

ただし、用いられた凶器は自動車及びナイフであり、タジキスタン国内のみならず、世界中どこでも労せず入手できる道具でした。(一部報道で犯人グループが銃を持っていたとありますが、現時点まで犯人が銃を用いたという確実な証拠は得られていません。タジキスタン国内では一般人の銃所持は違法です)

また、自転車に乗って移動する場合、体全体が無防備になること、加えて通常両手がふさがっており、とっさに身を守ることが難しいこと、などから、攻撃が成功する可能性は高く、標的として狙いを定めやすかったと言えます。

 

本事案の被害者はISISのいう「十字軍」に関係する欧米諸国の出身のみであり、犯人グループは明白に外国人のみを標的としています。また、ISISが公開したビデオに映っている人物とタジキスタン内務省が公開した犯人とされる4人の死体写真では、少なくとも3名は同一人物に見えます。これらのことから、弊社では本件はタジキスタン内務省が言う「ISPTによる犯行」よりもISISによる犯行声明の信ぴょう性が高いと考えています。

ISISが公開したビデオが本物であり、犯人グループが同ビデオに映っている人物と同一である場合、本件はISISがタジキスタン国内で実行した最初のテロ行為となります。

 

ISISの存在およびISISの指示を受けたと思われるグループによる自国内のテロを認めず、政府に対抗する政治勢力(野党他)に原因があるとする発表は2015年のバングラデシュ政府の対応に類似しています。バングラデシュでは2015年後半にイタリア人や日本人が殺害される事件が相次いで発生しており、ISISが犯行声明を発表していました。しかしながら、バングラデシュ政府は一連の事件を野党関係者が国内を不安定化させるために引き起こしている殺人事件とし、同国内にISISはいないとの立場を譲りませんでした。結果的には大変残念なことに、2016年、ISISに関連すると思われるグループが首都ダッカで規模の大きなテロを引き起こし、日本人も7名が犠牲になっています。

 

イラクやシリアでISISの活動が活発だった時期にタジキスタンを含む中央アジア諸国から大勢の戦闘員が現地に渡航していることがわかっています。このため、イラクやシリアに渡航した元戦闘員が出身国に帰還している可能性が指摘されています。加えて、イラクやシリアには行かなかったものの、繰り返されるISISのプロパガンダに共感を得て、外国人への攻撃が神の意志に沿うと考える人間が各地で生活している可能性は否定できません。弊社としては、本件はタジキスタンだけで発生しうる事案ではなく、キルギスやウズベキスタン等周辺国でも類似の事案が発生するリスクをはらんでいるとみています。

 

今回の事案だけを理由として、危機感をあおるつもりはありませんが、タジキスタン政府を中心として、犯人グループの素性、犯行動機、また背後にどのような指揮命令系統があったのか、等解明が必要です。

タジキスタンを中心とする中央アジア諸国に駐在、出張、または旅行される日本人の皆様は、直近でテロが発生していないからと言って油断せず、周囲の不審人物や不審物に一層の注意を払うことをおススメします。加えて、特に向こう半年程度は欧米人が集まる場所での滞在時間を最小化すると安全上好ましいと言えます。万が一、そういった場所で別のテロ事案が発生した場合には同国内での安全対策をもう一段引き上げる必要があるでしょう。

 

 

 

最後に、本事案はイラク、シリアで拠点を失ったISISが、(ロシア等の支援を受けた)シリア政府軍がISIS潜伏拠点に対する圧力を高めようとするタイミングで発生しています。イラク、シリアでの「領土」大半を失った今年初め以降、ISISはアフガニスタンやパキスタン、インドのカシミール地方等で活動を活発化させ、新しい「領土」を確立しようと動いていました。

しかしながら、アフガニスタンの北部ではアフガン政府軍およびアフガンタリバン双方との争いで劣勢に立たされていました。事実、この事案発生の直後、8月1日には、アフガニスタン北部ジョズジャン州で活動していたISIS戦闘部隊の司令官以下約150人が一斉にアフガン政府軍に投降しています。

ISISのイラク、シリアでの支配地域(2018年3月時点)。急速な支配地域の縮小と同時並行でカブール等アフガニスタンでのISIS活動が活発化した(BBCHPより)

このように追い込まれつつある状況下、これまで新たな「領土」候補として位置付けていたアフガニスタン、パキスタン周辺で別の「領土」獲得に向けた動きを狙っていた可能性もあり得ます。本事案一件だけでは確たることは言えませんが、ISISの立場から考えてみても、タジキスタンやキルギス等戦闘員が多く所属していた国での更なる事案発生の可能性を念頭に置いておく必要があります。