海外での安全管理もDXで変わる

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デジタルトランスフォーメーション(DX)の動き

新型コロナウイルス感染症の影響が続く中で、大きな経営課題として話題になっているテーマがあります。皆さんもお聞きになったことがあるであろうデジタルトランスフォーメーション(DX)です。一般的には「企業や組織がIT技術を活用して事業の在り方、顧客層、活動範囲等根底から変化させること」を意味するとされています。

 

このDXという言葉は、特に新型コロナウイルス感染症に伴う出勤の自粛、リモートワークの要請に伴って急激に人口に膾炙した印象があります。これまで対面で行っていた打ち合わせや営業活動をインターネットを通じたオンラインミーティングで行うことはかなり広がってきたのではないでしょうか?

 

また、多くの人がオフィスに集まって仕事をしていた時と違い、紙の書類を作成し、回覧して組織決定を行う機会は減ってきているように思います。日本政府も「ハンコ文化」の見直しを呼び掛けるなど、官民挙げての取り組みが続いていますね。

 

身近なところではキャッシュレス決済の加速も話題になっています。現金紙幣やコインを持ち歩くのではなく、ICカードやバーコード等で支払いを済ませることで、店舗は現金の管理・運搬が不要になる、お客様も支払いがスムーズになる・履歴を見返しやすい、といったメリットがありますね。日常生活の中で身近な業務効率化の一例と言えるのかもしれません。

 

他方で、DXという言葉はキャッチ―なだけに、「バズワード」化してしまっているという指摘もあるようです。DXはあくまで手段であって、本来の目的は業務を根底から変えること。ITを使って仕事を進めることそのものが目的になってしまっているケースは本質的なDXとは言えません。

ただ単に

 単にウェブサイトを刷新しました、

 社内システムを作り直しました、

 消費者に直接販売できるECサイトを作りました、

というだけではDXとは言えないのです。ITの活用を入り口に、これまで疑問すら持たなかった業務の流れや商習慣、社内文化を変革することが大事なのではないでしょうか?

 

これは昨年12月28日に経済産業省が公表した「DXレポート2(中間とりまとめ)」でも指摘されています。

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経済産業省が発表した「DXレポート」の概要から

 

新型コロナウイルス感染症は事業環境に大きな変化をもたらしました。それまで見過ごされてきた組織の課題が急激に浮き彫りになり、行政も民間企業も学校も、そして家族/個人のレベルでも環境の変化に素早く適応し続ける必要性を皆さん実感されていると思います。

 

実は海外での安全管理においても似たようなことが言えます。

 

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安全管理業務の現状と課題

新型コロナウイルス感染症禍でわかったことの一つは、多くの組織において複数の課題が先送りされてきたということです。感染症がここまで広がらなければ、あるいは政府からの緊急事態宣言が発令されなければ、

「課題ではあるけど、目立った問題は起こってないし、今ちょっと手を付けてられないよね」

と放置してきた問題が複数あったのではないでしょうか?

経済産業省のレポートには「今すぐ企業文化を変革し、ビジネスを変革できない企業は、確実にデジタル競争の敗者としての道を歩むであろう」(エグゼクティブサマリ、p4)とすら書かれています。新型コロナウイルス感染症を機に、本質的なビジネス環境への適応、特にデジタル技術の活用が求められるようになったことは間違いありません。

 

 

では、海外の安全管理において長年放置されてきた課題はなんでしょうか?

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当サイトを運営していて感じる大きな課題は以下の二つです。

 

1)多くの組織で安全対策の必要性認識が低い

2)安全対策に取り組んでいる組織でも取り組みの形骸化・アリバイ化が観察される

 

海外で事業展開している企業・団体でも関係者がテロはもちろん、犯罪被害に遭うことは滅多にありません。実際には結構な数の日本人が海外で犯罪に巻き込まれているのですが身近なところで被害が発生しなければ気にならないのが実態でしょう。万が一の際の対応をしたことがなければ安全対策の必要性も認識が低いままとなり、あたかも日本と同じような感覚で海外に拠点を設けたり、駐在者・出張者を送り出す、というケースも散見されます。

 

「そもそも我々に安全対策を検討する能力はない」という固定観念が根強い企業・団体も見てきました。こういった場合、安全対策は外部のセキュリティ企業に委託してほぼ全面的に依存するか、あるいはできないならばやらない、というスタンスもよくあるパターンです。

 

加えて、安全対策の必要性はわかっているし、自社では外部委託も含めて対応している!とおっしゃる企業でも、本当に現場で活躍される方々の安全が確保されているとは言い切れない事例も見てきました。例えば

 

あまりにも治安や政治情勢に関する情報・ニュースが多く、社内の誰も全体像を把握できていない

本社は外部委託のセキュリティコンサルタントから治安情報を得ているが、現場の社員と共有されていない

安全管理マニュアルは作成済みだが、誰も読んだことがない

緊急時の連絡網があるが、更新されていない(責任者とされる方が異動・退職済みのことも)

海外事業拠点の安全対策関連報告書を日本の担当者が読むだけで精一杯、作成・提出が目的になっている

 

といった事象は皆さんの所属先で発生していませんか?

これまでは先送りにしていても問題なかったのかもしれませんが、今般の新型コロナウイルスでは日本政府外務省や緊急時支援サービス会社でも全世界の同時並行対応は容易ではないということが明確になりました。従業員・関係者の安全確保のためには外部に依存するのではなく、組織内で本質的な対応を検討・実践しなければならないのです(当サイト代表の尾崎が同じ趣旨で寄稿した記事が日本経済新聞にも掲載されています)。

 

打ち合わせや営業、紙の書類の処理、あるいは決済手段の効率化が一気に進んだように、世界的な環境変化が起こっている今だからこそ過去先送りしてきた問題に取り組む必要があるのではないかと考えています。

 

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現在実践できていないからこそDXで変革を!

これまで、先送りされてきがちだった海外での安全対策や健康管理についてどのように取り組めばよいのでしょうか?必ずしもすべてを解決することはできませんが、一つの解は今はやりの「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。

 

例えば、世の中に無数にある治安や政治情勢に関する情報を、一目で見られるような仕組みを作ることは可能です。進出先/出張者が行く可能性のある国、あるいは進出を検討中の国ごとに各国政府の公式なリスク評価や関連のニュースが一目で閲覧できるようにすれば、担当者の方の情報収集時間はかなり削減できます。

また、契約しているセキュリティ会社等からの治安情報や各国政府の注意喚起があるならば、それを現地に滞在中の従業員・関係者と共有する仕組みは作れないでしょうか?その上で少ない手数で関係者に注意喚起し、必要であれば関連の情報交換ができれば日本と海外の事業現場で安全対策に対する意識のすり合わせは実現可能です。

緊急時の連絡網更新も、ワードやエクセルの更新ではなく、その時点での部署所属者リストからある程度自動的に作成できるような工夫はできないでしょうか?より実効性を高めようとするならば、一定の頻度で緊急連絡網が機能しているかどうか、連絡訓練を行うような仕組みを内在化することもできます。

 

巷間言われているように、DXそのものはあくまで手段であり目的ではありません。そしてDXが万能薬というわけでもありません。しかしながらそれまで経営課題として掲げられていた問題をIT技術の活用と事業現場の知恵の掛け合わせで一気に解決した事例は存在します。

(例えばマクドナルドや吉野家は「モバイルオーダー」を活用して店頭の行列を削減、お客様へのスムーズな商品提供を実現して店舗の閉鎖という逆風にも関わらず売り上げを伸ばした実績があります。)

 

日本企業・団体において海外での安全対策、健康管理の課題は概して後回し、先送り、放置、されてきた傾向にあります。海外に人が少ない現状は海外での安全管理や健康管理上の課題をじかに感じておられた方の生の声が聴けるチャンス。そして各種のIT関連補助金も活用可能です。

新型コロナウイルス感染症の影響で、通常通りの海外事業が実施できない今だからこそ、IT技術とこれまでの皆さんの海外事業ノウハウを組み合わせ、本質的なリスク対応力向上に取り組んでいただければと思います。

 

この項終わり