「24時間戦えますか?」スタイルは長続きしない
一昔、あるいはもうふた昔前に栄養ドリンクのCMで「24時間戦えますか?」という歌が流行したことがありました。このコラムをお読みの方で昭和を知る方はきっと音楽と共に頭の中で再生されるのではないでしょうか?
令和の時代に「24時間戦えますか?」=「24時間仕事モードでいられますか?」と質問したらどんなパワーハラスメントだ、と思われかねません。が、頭の中で栄養ドリンクのCMソングが再生された方はお気づきの通り、ついこの前まで日本の仕事のスタイルは24時間体制でした。みんなジャパニーズ・ビジネスマンのスタイルで戦っていたんですよね。
さすがに令和の時代、表立って「24時間働け!」という企業はいないと思います。しかしながら、明確にそう言われなくても実際には24時間対応を余儀なくされるのが危機管理担当の皆さん。一般的に日本企業の海外進出先は東南アジアから欧州、そして米国が多いでしょう。そのため海外事業拠点の昼間、何らかの事件や事故が起こるのは大抵日本の業務時間外ということになります。「業務時間外」と書きましたが、実際に緊急連絡が入るのは真夜中~未明というケースも多々あるでしょう。こうした背景から、海外進出企業における危機管理担当は表向きの勤務時間とその勤務実態が大きく乖離し事実上「24時間働けますか」体制になっているケースが多くあります。
もう一つ海外での安全管理を担当する方にとって課題になっているのが、同じ企業内で代理を務められる(副担当を担ってくれる)方が少ないということ。危機管理部門を明示的においておらず人事部や総務部、あるいは海外事業部門の一人が兼務で危機管理を担っているケースでは毎日が24時間体制という「ワンオペ」になりがち。また、危機管理部門がある場合でも、管理職でなければ判断を任せられないという観点で部門の1人あるいは2人交代で「24時間働けますか」体制をキープしている企業・団体も少なくありません。
しかしながら、こうした24時間勤務体制、あるいは24時間365日での緊急対応体制は個人の体力や責任感に甘えていると言っても過言ではありません。長時間労働や労働環境の改善が強く求められる現代社会を生きておられる皆様であればこうした体制が長続きしないこと、また社会的に許されないことを直感的に理解いただけるのではないでしょうか。
緊急事態に対応する人ほどフレッシュな状態が望ましい
企業・組織によって旧時代的な労働環境が求められる危機管理担当者。累積的な疲労、日中の勤務の中で夜間の緊急連絡を受けた場合、どんなことが起こるでしょうか?緊急事態に対応する際、連絡を受けた担当者はアドレナリン全開で対応を開始しなければならないケースが少なくありません。また、ごくまれに誘拐被害が発生した場合や現地担当者との連絡が途絶えた場合など緊急事態が継続するような事態の場合には平日の勤務に加えて緊急対応も並行して求められるケースだってあり得ます。
こんな時、日本の日中に疲労がたまった状態で「全力疾走」が求められる緊急事態対応は可能でしょうか?また疲れた体、動かない頭で人命のかかった判断を的確に下せるでしょうか?同じ部署に複数のバックアップ要員、役割分担ができる仲間がいない状態で十時間、二十時間と連続して危機対応にまい進できるのでしょうか?少なくとも海外で非常事態に遭遇し、今まさに助けて欲しいと電話をしてきた方からすれば、疲弊している方に自分の命を預けることはしたくないはずです。
こう考えてくると、日本の企業・団体の多くは緊急事態に対応する危機管理担当者が正しく役割を果たすために適切な環境整備を行えていない現状、皆さんにも伝わるでしょうか?危機管理担当を担う方はその勤務時間や業務負荷を考えても、その他の従業員よりもリフレッシュした状態で勤務していることが望ましいのです。少なくとも夜間は電話を待っているだけなのだから、勤務カウントしなくていいでしょ?という考えはおススメできません。むしろ、日本時間の夜中、あるいは未明にかかってくるかもしれない電話に対応するために日中の勤務時間を少し短くするような工夫があってもいいでしょう。
ちなみに…当サイトでは危機管理担当者は6週間勤務したら1週間程度はリフレッシュする必要があると考えています。そのため、業務時間外の緊急連絡を受けられる方、いざという時の判断ができる方は最低でも7名育成しておくことを推奨しています。必ずしも全員が危機管理のプロである必要はなく、ある程度定型化できる判断ができる人材をローテーションすることで、組織の危機管理体制は強靭になるという趣旨の提案をしています。
このあたりの人材育成方法やローテーションの構築理論は組織的な危機管理コンサルティング契約を頂いた方にはお伝えしている内容です。
いつでも起動可能な「スリープモード」で休むなら木曜日がおススメ
ここまで記事を読んでいただいた方であれば、理想論として会社全体の危機管理を指揮する方は2交代、あるいは3交代での勤務が望ましいということについては反対意見はあまりないように思います。ただし、実際には人材確保、人件費等の関係で理想通りいかないのが現実です。
そのため小手先の工夫ではありますが、危機管理担当者が少し息を抜く日を一週間のうち一日でいいので作ってみてください。完全に休む、ということが難しければパソコンの「スリープモード」よろしく一見休んでいるけれど、必要な時にはすぐ業務が開始できる、という状態でも悪くありません。とにかく平日の間のどこかで少しでも業務を忘れられるようなそんな時間をぜひ作ってあげてほしいと思います。(組織的に対応が難しければ個人レベルで日本時間の夜間に備えて「平日午後に有給休暇を多く使う」という対応でも致し方ありません)
そして、平日のどこか一日休みを入れる、気持ちの面でリフレッシュするならば、当サイトのおススメは木曜日です。木曜日に休みを入れ疲労を少し回復しておく、頭を空っぽにしておくことで金曜日、土曜日、日曜日に備えることができるからです。なぜ金曜日、土曜日、日曜日の備えなければいけないのか?それは次の三点が大きな理由です。
1.土日は一般的に日本の企業がお休みになり、出社する社員の方も少なめでしょう。また、経営層や上級管理職も連絡が取りづらい環境にいる可能性もあります。そのため緊急事態が発生した際に、本社全体で行えるバックアップが平日よりも手薄であり、危機管理担当者にかかる負担が大きくなりがち。
2.イスラム教徒の多い国では、金曜日の午後に集団礼拝が行われることが一般的です。毎日5回の礼拝を行うことがイスラム教徒の義務ではありますが、その中でも特に金曜日午後の集団礼拝には多くの方がモスクや宗教施設等に集まることが多く、自ずとその後の抗議活動やデモ行進、あるいは集結した信者らを狙ったテロ事案なども起こりやすくなります。そのため、イスラム教徒の多い国に進出している企業・団体では金曜日の午後は一週間の中でも要注意のタイミングなのです。
3.日本企業の海外進出先として多い、欧米諸国でも一般的に土日がお休みの国がほとんどです。このため、多くの労働者は月曜日~金曜日までは会社・工場等での勤務をしています。このため、よほどの背景がない限り平日よりも土日の方が集会や抗議活動に参加する人数は多くなります。群衆の規模が多くなればなるほど当然ながら衝突・暴力行為の可能性は高まりますし、政治的な動乱の要因にもなりがちです。
こうした理由を踏まえ、緊急対応が求められる可能性の高い、金曜日~日曜日の前に気力・体力の回復をしておくことをおススメしています。
ちなみに、弊社代表の尾崎は毎週木曜日の日本時間午前中は原則予定を入れないように、日本時間の午後もできる限りミーティングの時間設定を避けるようにと指示を出しています。お客様との関係でどうしてもミーティングが必要な場合は対応していますが、木曜日の午前中はスポーツで汗を流してリフレッシュし、その後少し昼寝をする、というのが尾崎なりのリフレッシュだそうです。こうすることで、金曜日から日曜日に発生しがちな欧米諸国のデモ活動やイスラム教の集団礼拝後の各種対応に体力のある状態で備えることができる、という考え方です。
当サイトをよく見て頂いている方であればご存じの通り、トップページのニュースは土日も休まず更新するのが弊社のスタイル。これは弊社がブラック企業で休日返上で働いているからではなく、代表取締役の尾崎が土日のニュース確認、記事作成を担当しているからです。木曜日のリフレッシュは代表の尾崎も実践しているということを蛇足ながらご紹介させていただきました。
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