2026年版グローバルテロリズムインデックス概説

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グローバルテロリズムインデックスとは

オーストラリアに拠点を持つInstitute for Economics & Peaceという団体が毎年発表しているGlobal Terrorism Index(グローバルテロリズムインデックス以下「GTI」と略します)という指数があります。これは世界各地で発生したいわゆる「テロ」に分類される事件の数や被害規模を指数化して、ランキングしたものです。

このインデックスの特徴として

 ・世界中のほとんどすべての国・地域が評価されること

 ・同じ基準に基づき、国別に0~10の間で指数が算出されること

 ・毎年発表されるため指数の変化や順位の変化が見えやすいこと

 ・色分けされた地図が公表されるため、本文を読まずともテロ危険度が把握しやすいこと

などが挙げられます。

現在の世界情勢として、最も注意すべき要因、より多くの方が影響を受ける要因はテロではなく国家間の紛争や内戦です。一見、「テロ」に特化した報告書の価値は下がっているようにお感じかもしれません。ただ、現在のイランを取り巻く世界的混乱の発端の一つはイスラエル国内で行われていた音楽イベントへのテロ事案でした。また、2025年5月にインドとパキスタンの正規軍同士が限定的ながら交戦したきっかけもインド北部カシミール地方で発生したテロです。テロの発生状況や、その実行主体を把握しておくことが戦争を含め世界情勢に深刻な影響を及ぼす事案、つまりみなさんの海外事業はもちろん国内事業におけるサプライチェーンマネジメントにも影響を及ぶ重要な情報源が「グローバルテロリズムインデックス」と言っても過言ではないのです。

このインデックスの最新版となる2026年版が3月19日付で公表されており、こちらからダウンロードが可能になりました。全体で約100ページの英文レポートとなっており一般の方が通読するにはちょっと大変かもしれません。当サイトでは例年最新版が発表されるたびに内容を確認し、過去分とも比較した上で、概要をお伝えしていますので以下是非ご一読下さい。

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なお、2018年版から各国のランキング順位の変動が明記されるようになりました。代表の尾崎は2016年から

 

「テロリズムインデックスの各国順位の変動、特に急に順位が上がった国ではそれまで起こらなかったような大きなテロが起こることが多い。『アノマリー』ではあるものの、先行指標として有効かもしれない」

 

と発言していました。本稿の最後にランキングが急上昇(インデックスが悪化)しており、リスクの高まりが示唆されている国を三つ挙げていますのでご確認下さい。日本人が多く活動する欧州の国も含まれています。

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2026年版報告書の概要

GTI2026

まず目につくのは、世界全体でのテロによる死者数は2025年一年間で5,582人であり、前年2024年と比べ28%減となったという報告です。また、全世界におけるテロの件数は一年間で2,944件となり件数ベースでも22%減少しています。テロ一件あたりの死者数は2021年が1.3人、2022年が1.7人、2023年が2.5人、2024年が2.2人、2025年が1.9人となっています。2023年のテロ発生状況を踏まえた2024年版GTI概説コラムでは「テロ一件当たりの死者数が増加している」「テロ事案がより致死的になっている」ということをご説明しました。当時は特にイスラエルを取り巻くテロが多発しており、一件当たりの死者数が大きかったのですが、こうした傾向は徐々に落ち着いてきていると言ってもよいかもしれません。

反対に2025年後半、そして2026年は「あえて人的被害を起こさない」ような意図を感じるテロの件数が増えてきている印象があります。そしてこの傾向を証明する二つの統計も今年の報告書で説明されています。一つ目は1人以上死者が発生している国の減少です。今年はテロによる1人以上の死者が発生した国は36か国と世界全体の約6分の1程度でした。2008年以降40か国を下回ったのは初めてであり、死者を伴うテロの被害を受ける国が減ってきていることは間違いありません。

もう一つの興味深いデータとして、テロによる死者の70%が上位5つの国に偏在しているということです。昨年はテロによる死者数上位5か国で全体の64%だったものが、今年は70%にまで達しています。より一層、テロによる死者が出る国は限られてきていると言え、裏を返せば大多数の国でテロによる死者数が大きく減っているということを意味しています。

昨年のGTI概説記事でお伝えした中国におけるテロインデックスについては、テロの脅威が高止まりしている状態は変わっていません。2023年版で93位と「テロとほぼ無縁の国」の一つだった中国は、2024年版で73位、2025年版では49位と「テロへの警戒が必要な国」の一角にまで入ってきていました。今年度版ではテロインデックスこそ低下したものの、順位は53位。中国でビジネスを展開されている日本企業にとっては中国におけるテロ警戒を解いてよい状況ではないと言えます。

 

ご参考までに2026年版インデックス上位10か国は次のとおりです。このインデックスの発表が始まって以来はじめてパキスタンが最もテロの影響を受けている国となりました。また、コンゴ民主共和国やコロンビアなど昨年10位圏外から上位に入ってくるほどテロの脅威が高まっている国にはより一層注意が必要です。特にコロンビアでは過去3年で指数の数値が6.188⇒6.381⇒7.116と直近右肩上がりで過去最悪を更新しています。パキスタンやブルキナファソ、ニジェールは順位こそ目立ちますが、インデックスの数値だけみれば「横ばい」圏内です。前年よりも状況が悪化しているという点で、コンゴ民主共和国やコロンビアは昨年までのテロ対策では通用しない可能性があるという点に注意が必要です。

1位 パキスタン(昨年2位)

2位 ブルキナファソ(昨年1位)

3位 ニジェール(昨年5位)

4位 ナイジェリア(昨年6位)

5位 マリ(昨年5位)

6位 シリア(昨年3位)

7位 ソマリア(昨年7位)

8位 コンゴ民主共和国(昨年12位)

9位 コロンビア(昨年15位)

10位 イスラエル(昨年8位)

 

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当サイトが注目するテロの傾向

本年のレポートを読んでいて感じるのは、テロ全体への世界の関心が薄まっている(国家間紛争に意識を向けざるを得ない)状況下で、テロを実行する組織の戦略や実行場所がより明確になっているということです。この20年ほどでテロ実行主体者別の死者数の推移を見ていくと、明らかに「その他」が減っています。反対に上位4つのテロ組織、特にアフリカ中央部で活動が活発な「アル・カイダ」系のJNIMといわゆる「イスラム国」と言われていたISIS系列の武装勢力によるテロ死者の割合が明確に増えています。詳細はこのページでは省きますが、こうしたテロ組織は目的が明確であり、特に警備が困難な陸続きの国境付近でのテロを増加させ、それぞれの組織の目的に沿った活動を拡大していると解釈できます。

テロ実行主体

当サイトでは繰り返しご説明していますが、テロは思い付きで行われるような犯罪行為ではありません。明確な目的があり、その目的達成のために1)ヒト、2)モノ、3)カネ、4)情報を総動員して最も目的にかなう標的や襲撃方法を検討した上で実行されているのです。危機管理担当者や経営層の目線が国際紛争に向きがちな今こそ、不用意なテロの巻き添え被害に遭わないためにテロ実行側のロジック、標的を再確認しておくことが重要です。

【参考コラム】テロは〇〇〇〇に似ている!?

 

また、冒頭ご紹介したように、当サイト代表の尾崎はグローバルテロリズムインデックスの各国ランキング変動やその他各種治安情勢を踏まえて、近い将来どういった国が危険か毎年検討しています。残念ながら警戒していた国で大きな事件が発生することもありますし、注意して情報を集めていたものの特段なにも起こらなかったという国もあります。あくまで現時点ではご参考まで、という位置づけですが当ウェブサイトが考える向こう一年間のテロ要警戒地域、またテロ発生傾向を提供します。

 

・インデックスの順位が上がっている国のうち治安に関係する情報などを踏まえ特に注意が必要ではないか、と当サイトが考える国はオーストラリア(46位⇒31位)、エクアドル(56位⇒37位)、セルビア(82位⇒66位)

(パキスタンやブルキナファソのような大規模なテロが次々と起こるという意味ではない。小規模ながら現在の警備状況では防ぎきれない無差別テロなどによって、一般人に被害が発生しても驚かないという意味合い)

・上記の他、特にインデックスの順位が悪化している国はアメリカ、オーストリア、タジキスタン、オランダ、デンマーク等

・隣国との紛争や自国内での民族的/宗教的対立が発生している地域ではテロへの警戒を下げる理由がない。現在大きなテロが発生している国・地域はいずれも紛争がテロ続発のトリガーになっていると言える

・隣接する国境の国米トランプ大統領の発言や政策はもとより、排他主義を強める欧州の政治情勢などを踏まえ、組織に属していない一般人でも急速に過激化し、テロ実行犯となりうる点に十分注意

・ヨーロッパ及び欧米では引き続き銃の乱射や車両の突入といった「誰でもできてしまう」単独犯によるテロへの警戒を解いてはいけない。特に中東・湾岸情勢を契機に、ユダヤ教関連施設や関連宗教行事、イスラエル/アメリカ大使館等への攻撃は個人でも実行が可能であり、実際にローンオフェンダー型テロが発生しつつある

 

最後に一点目で指摘した要注意国に対し、日・米・英・豪各国がそれぞれの国民向けにどのような旅行前アドバイスを提供しているかまとめたぺージのリンクをご紹介しておきます。

 

オーストラリア治安最新情報

エクアドル治安最新情報

セルビア治安最新情報

 

弊社では過去のGlobal Terrorism Indexレポート及びその別冊をストックしています。皆さんが進出済みあるいは今後進出予定の特定の国・地域ごとのインデックスの経年変化、直近のテロ発生傾向、今後の要注意点等を取りまとめて提供することがも可能です。海外展開中の国・地域のリスクが気になる方や、ポストコロナの新たな海外事業展開を計画中の方、進出先候補を比較検討されている方などには是非ご活用頂きたいサービスです。

簡易な分析であれば一か国54,000円(税別)から承ることが可能です。ご要望の方はコチラの問い合わせフォーマットよりお気軽にお問合せ下さいませ。

この項終わり