あまりにも無防備な日本人のスマホひったくり被害
2026年5月モザンビークの首都マプトで日本人がスマホのひったくり被害に遭う事件が発生しました。大統領府付近というモザンビーク首都市内において相対的に治安が安定しているエリアで、しかも朝8時という明るい時間帯に、バイクに乗った犯人が背後から接近し、携帯電話を奪い去ったものです。特別に危険とされる地域でもなく、深夜でもありません。むしろ「安全だと思い込みやすい時間帯と場所」で発生した点に、この事案から学んでおくべき貴重な教訓があります。
一般論ですがスマホに目線が集中して付近に誰がいるか気が付かなかったり、イヤホンをつけて通話に集中し、自分に接近する物音への注意が完全に途切れた隙だらけのみなさんを犯罪者たちは見逃しません。入念な計画と「ヒト・モノ・カネ」を揃える必要があるテロや襲撃事案と比べて、いわゆる「日和見犯罪」に分類されるひったくりやスリには事前の計画は不要です。成功率が高そうなターゲットを見つけた時点で犯行を決定、実行に移せばよいからです。
海外の都市部で発生する軽犯罪被害は、一見すると偶発的、あるいは不運が原因に見えますが、実際には極めてロジカルな構造の上に成り立っています。この手の「日和見犯罪」をたくらむ人たちは無差別に襲うのではなく、獲得しうる金品の価値、犯行の成功率と逮捕や反撃されて自身が被害を追うリスクを冷静に計算しながらターゲットを選びます。歩きスマホをしている人は、視覚と注意力の大半を画面に奪われ、イヤホンをしていれば聴覚も遮断されます。つまり、周囲の状況把握能力が著しく低下し、犯人の接近に気づく可能性がほぼゼロになります。
今回モザンビーク首都における日本人のスマホひったくり被害は、まさにその条件を満たしてしまったと言えます。歩きスマホとイヤホン使用は、海外では積極的に『自分は無防備です、どうぞ狙ってください』と宣言しているのと同じであり、犯罪者にとっては格好の標的なのです。当サイトでは繰り返し犯罪被害はダイヤルロック理論で発生しますよ、と啓蒙を繰り返しています。リスクが高い場所に、リスクが高い時間帯にいないことに加えて自分自身が周囲の様子に敏感になりリスクを感じたら速やかにその場を離れる、というのは被害を防ぐための文字と通りのカギです。

歩きスマホはコスパのよいターゲットを判別する手法
特に開発途上国と評される国ではスマートフォンは転売価値が高く、強奪に成功し転売すれば少なくとも一週間程度の食費を確保できるケースも。また大きさや重さからも奪った瞬間にバイク等で逃走すれば追跡されるリスクも小さくなります。犯人側の目線にたてば、歩きスマホの歩行者は「最も安全に、最も簡単に、最も確実に成功するターゲット」なのです。犯罪の構造を理解すれば、歩きスマホがなぜ危険なのかは自明であり、これは治安の良し悪しとは関係なく、世界中の都市で共通して成立する犯罪の論理と言えます。
ただ、日本ではこの犯罪の論理はあまり成り立ちません。歩きスマホどころか飲食店の席にスマホだけを放置してトイレや注文に立っても誰も盗まないのが日本の(独特な)環境です。もちろん治安がよい社会で暮らせる我々日本人はラッキーですし、他人の物を盗んではいけないという倫理も人間としては正しいように思います。ただし、そもそも日本人が海外でひったくり、すり、置き引き等で簡単に被害を受けてしまう理由は、「日本人は金持ちだから」という単純な話ではありません。より本質的な要因は、日本国内で形成された安全な社会の行動様式をそのまま海外に持ち込んでしまう点にあるのではないでしょうか?

具体的に考えてみましょう。日本で歩きスマホが注意される理由は、「人とぶつかる(怪我をする)」「ホームから転落する」といった事故防止の観点が中心です。以下のような注意喚起ポスター、皆さんも駅や公共施設で嫌というほど見ていますよね。しかし海外では、上述の通り歩きスマホは事故のリスクではなく、犯罪の標的になるリスクそのものです。つまり、海外ではスマホを手に持って歩く行為自体が「価値ある物を見せびらかしている」行動に直結します。
さらに、日本人はイヤホンをつけ、注意力が低下した状態で歩くことに抵抗がありません。これは日本の治安が良いからこそ成立する行動様式ですが、海外では隙だらけのターゲットとして認識されます。犯人から見れば、日本人は高価なスマホを堂々と見せ、反撃の可能性も低く、追跡もされにくい理想的な獲物です。つまり、日本人が狙われるのはお金持ちだから/弱いからではなく、隙が大きく、「犯行のコスパ」が高いからです。
ご説明したように日本と海外では歩きスマホのリスク構造が根本的に異なります。こうした内容を当サイトや弊社主催のセミナー等でも繰り返しお伝えしていますが、冒頭にもお伝えしたように日本人の海外での不用意な犯罪被害はなかなか減りません。ですのでもっとはっきりと、そして強烈な言い方をしたいと思います。つまり犯罪者側から見れば路上での歩きスマホ/イヤホン利用は「盗んでくれと主張しているカモ」だということです。こうした行為を特に土地勘がなく、現地の犯罪事情にも明るくない海外渡航者が(日本と同じ感覚で)やってしまうのは愚の骨頂であることを是非再確認ください

日本の行動原理を持ち込まないことが犯罪被害に遭わない最大・最善の方策
今回の日本人被害を受けて在モザンビーク日本国大使館が改めて注意喚起したのは以下四点。当たり前すぎて何をいまさら!と思われるかもしれませんが、これを徹底するだけで海外で犯罪被害に遭う日本人が減るであろう、という簡潔にして完璧な内容です。
(1)歩行中は携帯電話を使用しないこと。
(2)路上においてやむを得ず携帯電話の操作や通話をする場合には、操作・通話時間を最小限にするとともに、周囲からの不審な接近に常に注意を払うなど、犯罪被害に遭うリスクを意識した安全対策を講じること。
(3)早朝・夜間など人通りの少ない時間帯の単独での徒歩移動はできる限り避け、やむを得ない場合には周辺に十分注意すること。
(4)イヤホン使用中は周辺の音や状況の把握が難しくなり、不審者の接近に気づくことが遅れるおそれや交通事故に遭うリスクも高まるため、外出時のイヤホン使用はできる限り控えること。
安全対策のためには警備員のいるハイクラスな住宅に住む、海外事業所に監視カメラを設置する、専属のドライバーやボディーガードをつけるといったお金のかかる対策が思い浮かびがちです。しかしながら「歩行中は携帯電話を使用しない」「イヤホンを控える」という費用がまったく掛からない基本行動は、犯罪者のターゲット選定プロセスを逆算したとき、最も効果が高い対策です。さらに、「やむを得ず使う場合は短時間で」「早朝・夜間の単独歩行を避ける」という補足は、被害者の行動パターンを最小限のリスクに抑えるための具体的な対策となっています。
これらの注意喚起はモザンビークだけでなく、ケニア、南アフリカ、タンザニア、ナイジェリアなど、アフリカ都市部全般にそのまま適用できる普遍性を持っています。アフリカだけではありません。最近では先進国であるイギリスでも首都ロンドンをはじめ都市部で歩きスマホをしている人のスマホをバイクでひったくり転売する犯行が多発しています。
モザンビークの日本国大使館の注意喚起は、現場で蓄積された経験則と犯罪構造の理解が結晶化したものであり、まさに『金科玉条』と言っても過言ではありません。退屈かもしれませんが、旅行であれ仕事であれ、留学であれ海外に渡航する方にはまずこの基本中の基本ながら効果が極めて高い犯罪対策をぜひ実践していただきたいと思います。この4項目を知っているか知らないか、実践しているかしていないか、だけで皆さんや皆さんの友人・同僚等が犯罪被害に遭う可能性は減らせます。
これは精神論ではなく、犯罪者の心理や犯罪発生事例の分析からくる論理的な結論です。海外で安全に行動するための第一歩は、自分が狙われ得る存在であることを理解することです。そして、歩きスマホとイヤホンをやめるだけで、被害に遭う確率は劇的に下がります。何度でも申し上げます。海外での歩きスマホ・イヤホン使用は愚の骨頂です。海外では、スマホをしまって歩く。それだけであなたの安全は劇的に高まります。これは恐怖を煽るためではなく、日本とは根本的に異なるリスク構造を踏まえた、最も実務的で効果的な安全対策にほかなりません。

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