「安全配慮義務の形骸化」を避けるマニュアル・体制確認8つのポイント

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修学旅行生死亡事案の調査報告書からみる「安全配慮義務の形骸化」

2026年3月高校の沖縄修学旅行で、大変残念なことに生徒1名が死亡する事故が発生しました。本事案は国内の事案でありまた当サイト関係者が事故やその後の調査報告に関わっているわけではありません。しかしながら、人命が失われるような事件・事故の被害を防ぐという点では当サイトの目的と合致する部分があること、また読者皆様の海外での安全管理の考え方にも非常に重要な示唆があることから取り上げたいと思います。(なお当サイトはあくまで危機管理に関する知見・ノウハウの情報集約サイトですので、政治や教育等に関する議論は割愛します。

 

事故から約4か月後の2026年7月31日、関西を拠点とする大きな法律事務所が複数関与する第三者委員会が本件の事故報告書を発表しました。こちらの調査報告書には「安全配慮義務」に関して当事者である同志社国際高校や引率教員の落ち度が明確に指摘されています。

特に当サイトとして注目したのはこの報告書が事故の直接原因だけでなく、学校側の安全管理体制が「形骸化」していたと指摘している点です。あくまで報告書の記載から読み取れる範囲ですが、学生らの旅程の中で安全管理上問題があると思われる情報が複数回共有されていたにもかかわらず、行程の見直しや判断につながらなかったことを具体的な項目を挙げて説明しています。

例えば、

校外学習に関するマニュアルが十分に整備されていなかったこと

修学旅行全体の運営・行程管理を任されていた大手旅行会社とは別に学校側が独自でプログラムを設定したこと

にもかかわらず教員による実際のコースや乗船予定の船の事前下見が行われていなかったこと

参加する学生らに

当日の天候を踏まえた適切な運航可否の判断が行われていなかったこと

教員が乗船せず、生徒のみを乗船させ海上のルートに送り出したこと

などが挙げられています。

結果的に「同志社国際高校における 2025 年度辺野古ボートコース実施にあたっての安全管理体制等の不備こそが、本件事故発生の最大の原因であると認められる。」と報告書にも明記されており、残念ながら学校法人として本来行うべき対応が十分でなかったことが若い命が失われる一因になっていることは否定できないと考えます。

 

ただ、当サイトとしてはこうした事故の直接的原因だけではなく、こうした悲劇的な事態を招きかねない「安全配慮義務の形骸化」の構造が底流にあったことも気になっています今回の事故はたまたま2025年度(2026年3月)に発生しましたが、実際には数年前からいつ起こってもおかしくはない状態だったと言えるからです。むしろ2026年3月まで死亡事故が発生しなかったのは運がよかっただけだったのかもしれません。

 

上記で指摘されている事項のうちいくつかの要素は数年前から把握されていたにもかかわらず、是正されてきませんでした。毎年行われる修学旅行について、その時その時の環境や時代背景に応じて計画をしたり、あるいは安全確保の観点からゼロベースで危険性を評価し、組織としての対応を改善する仕組みは機能していなかったとのこと。毎年こうやってきたから・・・ではなく、どこかのタイミングで修学旅行全体のあり方や行程管理、学生の引率体制や組織全体での安全確保の仕組み、さらには万が一事故が起こった際の緊急事態対応体制の見直しが行われていなかったことが非常に残念です。

 

学校法人である同志社あるいは今回の事故の当事者である同志社国際高校として安全確保に関連した取り組みをなにもやっていなかったわけではありません。少なくともリスク管理本部が設置されており、そのメンバーが定められており、そして学校全体としての危機管理マニュアルはあったのです。しかしながら、そうした安全確保に関する取り組みが実際には機能していなかったことが明白になったのが今回の事故です。

これまでは運よくそうした機能不全が表面化しなかったのですが、根底にあるリスク要因を抱えたまま、さらに悪い要素が重なった場合に人命にかかわる事故が発生しうること、そして事故が発生した際の対応力が不十分な場合、最悪の結果につながってしまうこと。こうした事実が凝縮されたのが今回の事案といえるのかもしれません。

 

事故の調査報告書の中で当サイトが最も印象的だった文言を以下に引用します。危機管理において「形骸化」は最も憂慮すべき事態なのです。

同志社国際中学校・高等学校リスク管理本部が当該任務を遂行する上で必要な審議を行うための会議の開催、運営等に関する定めや、同リスク管理本部が当該任務を遂行するための具体的な体制や方法等に関する定めを置いておらず、同志社国際高校において「リスク管理本部」という名称の機関は内規上形式的には存在しているとしても、実際には形骸化していた。
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形骸化は海外事業展開企業でも

同志社国際高校の事故で示された安全対策が形骸化する構造は、海外事業を展開する企業にも当てはまることが多いです。

 

むしろ海外で事業展開する企業の方が日常的にかつ多種多様な脅威にさらされている一方で、日々の業務量が多く従業員・関係者が目の前の業務で忙殺されがちであることから、形骸化が進行しやすいと言えます。企業の海外事業では、治安悪化、デモ、ストライキ、自然災害、感染症、交通事故、テロ、誘拐など、危険情報が日常的に発生します。しかし、多くの企業では、危険情報を受け取った後の判断プロセスが曖昧です。誰が判断するのか、どの基準で判断するのか、判断をどこに記録するのか、判断後にどのように行動を変えるのか。こうした仕組みが整備されていない企業は少なくありません。

 

具体的な事例を挙げるならば

現地の治安や政治情勢に関する情報提供契約があっても、現場にその情報が適切に共有されない

危機管理に関するマニュアルはあってもその存在が海外事業現場や出張者の所属先で知られていない

駐在者や出張者に対して、日本とは違う渡航先の状況や文化を説明し、現地特有のリスクを共通認識化できていない

駐在者や出張者の最新の連絡先が把握できていない、あるいは部署ごとに連絡手段がばらばらである

出張者のスケジュールを全社で把握する仕組みがなく今この時点で誰が、どこにいるか把握できてない

海外渡航者が外務省が運営する「たびレジ」への登録が徹底されていない(従業員・関係者の登録状況が把握できていない)

緊急事態が発生した際の責任分担が曖昧であったり、人事異動が反映されていない

日本の夜間や休日に海外で事件や事故が発生した際の連絡体制が不明確

経営層や管理職が長期休暇ないし海外出張等で不在の際の代理体制が規定されていない

といった状態は弊社に相談をされる企業でよく観察される、というのが現実です。

 

あくまで一般論ではありますが、列挙した状況が残っていると図示している安全配慮義務のいずれか、あるいは複数が不十分という状態に直結しかねないのです。安全配慮義務の形骸化は万が一、人命が失われたり大規模な企業資産の棄損が発生した際に経済的責任のみならず法的責任も追及されうる事態につながることがわかっていただけるのではないでしょうか?

 

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8つのチェックポイントで確認する安全管理体制やマニュアル「形骸化」度合

ここまでご説明してきた通り、企業や学校法人、団体による安全配慮義務が満たされているかどうかは、危機管理の組織や担当者がおかれているかどうか、あるいはマニュアルの有無ではなく、そうした仕組みが形骸化せずに「運用されているかどうか」で判断されます。特にマニュアルの作成そのものは実はそれほど難易度の高い業務ではありません。少し調べれば企業や学校向けに外務省や文部科学省が公表しているマニュアルのひな形なども見つかるはずです。当サイトでも危機管理にマニュアルの作成術や記載すべき項目については古くからコラム記事で提示しています。

【参考コラム】実用的な安全対策マニュアルの要件

【参考コラム】安全対策マニュアルに記載すべき項目

 

ただ、危機管理対策本部長や緊急事態対策本部の仕組みが設定されていること、安全管理マニュアルが作成されていることと、それらが機能することは同義ではありません。まずは皆さんがわが社は大丈夫、と感じておられる各種の安全対策施策が以下の8項目に当てはまっていないか、ご確認下さい。これは企業が自社の安全管理体制を客観的に確認するためのチェックポイントです。いずれも、同志社国際高校の事故調査報告書で指摘されている内容や、弊社が日々お客様/ご相談者様と面談していて確認できた各社の課題を一般化してとりまとめたものです。

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海外事業展開企業向けの一般論的な「緊急事態マニュアル形骸化チェックリスト」(弊社作成)

これらの項目のうち1つでも該当すれば、形骸化が始まっている可能性があります。安全配慮義務は「仕組みが動いているかどうか」で判断されます。あくまでチェックポイントを活用し、自社の体制を見直していただければと思います。そしてもし安全配慮義務上の課題を感じられた場合には是非弊社を含む危機管理コンサルティング会社をご活用ください。冒頭で事例に挙げた例もそうですが、現時点で深刻な問題が発生していない(人命に関わる事態が発生していない)ということは安全管理体制が万全であることを意味していません。重大な事態を招きかねない安全配慮義務の形骸化は他の様々な要素が重なった時に初めて目に見えるようになります。人命が失われてから見直しに着手するのでは遅い、という事実は今だからこそ再確認していただきたいと思います。

 

 この項終わり